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平成13年広審第33号
件名

油送船海神貨物船とくひろ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年11月21日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、勝又三郎、伊東由人)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:海神船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:とくひろ船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:とくひろ一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
海 神・・・左舷側後部に破口、浸水して機関に濡損、操船不能
とくひろ・・・船首部が圧壊して破口

原因
海 神・・・狭視界時の航法(速力・レーダー)不遵守
とくひろ・・・狭視界時の航法(速力・レーダー)不遵守

主文

 本件衝突は、海神が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、とくひろが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月4日03時13分
 伊予灘北部 天田島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 油送船海神 貨物船とくひろ
総トン数 698トン 499トン
全長 67.96メートル 59.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 1,029キロワット

3 事実の経過
 海神は、可変ピッチプロペラを備えた船尾船橋型の油送船で、専ら山口県徳山下松港から千葉県千葉港へのLPG輸送に従事し、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉で、船首2.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成12年6月2日12時15分千葉港を発し、徳山下松港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を3直4時間交替の単独当直制とし、自らは毎0時から4時までの当直に従事し、翌3日午後鳴門海峡を経由して瀬戸内海に入り、越えて同月4日00時00分菊間港沖合の安芸灘で船橋当直に就き、法定灯火を表示して釣島水道及び伊予灘北部を西行した。
 02時43分A受審人は、舵掛岩灯標から080度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に達し、平郡水道第2号灯浮標(以下、灯浮標名については「平郡水道」を省略する。)を左舷側900メートルに航過したとき、針路を234度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵により進行した。
 その後間もなくA受審人は、霧のため視程約500メートルの視界制限状態となったことを知ったが、安全な速力に減じないで、2台のレーダーの一方を3海里レンジ、他方を6海里レンジとしてレーダー監視にあたり、02時57分横島を右舷側800メートルに航過したとき、視界が更に狭められたので自動吹鳴装置を使用して霧中信号を始め、海図記載の推薦航路線の約0.5海里右側を同線に沿って続航した。
 03時05分A受審人は、レーダーで天田島南西方0.6海里の右舷船首9度3.0海里のところにとくひろの映像を初めて認め、しばらくこれを監視して同船が推薦航路線に沿って平郡水道を東行する反航船と判断し、同時07分半天田島灯台から070度1.9海里の地点で同船が同方位2.1海里となったとき、左舷を対して航過するつもりで、針路を天田島に接航する246度に転じ、その後レーダーで同船の映像を監視しながら、依然過大な速力のまま進行した。
 03時09分A受審人は、操舵位置近くにある3海里レンジのレーダーで、とくひろが左舷船首5度1.5海里となったことを認め、その後レーダー監視を続けてその方位がほとんど変わらず、同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを知ったが、とくひろが推薦航路線に近寄って東行すると予想し、自船が同航路線から離れ天田島に接近すれば左舷を対して航過できると思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく、全速力のまま続航した。
 03時12分少し過ぎA受審人は、とくひろのレーダー映像がほとんど方位変化のないまま500メートルとなったものの、その灯火を視認できず、衝突の危険を感じて右舵一杯をとって回頭中、同時13分わずか前左舷船首45度至近に同船の白、白、緑3灯を認めたが右舵をとったまま回頭を続け、03時13分海神は、天田島灯台から071度0.7海里の地点において、320度を向首したとき、とくひろの船首が、海神の左舷側後部に前方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約200メートルで、潮候は下げ潮の末期にあたり、弱い南西流があった。
 また、とくひろは、船尾船橋型のセメント運搬船で、B、C両受審人ほか3人が乗り組み、セメント1,004トンを積載し、船首3.43メートル船尾4.66メートルの喫水をもって、同月4日00時45分徳山下松港を発し、広島県広島港に向かった。
 B受審人は、平素から視界が悪くなったときには速やかに報告するようC受審人に指示しており、01時10分出航操船を終えて同受審人に船橋当直を命じ、自室に下りて休息した。
 C受審人は、法定灯火を表示し、視界が少し悪いものの3海里離れた陸岸の明かりを視認することができる状況のもと、単独で船橋当直に従事して周防灘北部を東行し、02時55分鼻繰島灯台から255度1,200メートルの地点で、針路を120度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力で進行した。
 定針後間もなくC受審人は、霧のため視界が急に悪化して視程約200メートルの視界制限状態となったことを知ったが、安全な速力に減じることなく、使用中のレーダーを3海里レンジのプロットモードとして航跡を表示させ、前路に他船が映っていなかったので、B受審人に知らせるまでもないと判断し、このことを同人に報告せず、霧中信号を行わないまま続航した。
 03時03分C受審人は、天田島灯台から246度1,500メートルの地点に達したとき、平郡水道を経て大畠瀬戸に向かうため、レーダーを見ながら自動操舵の針路設定ダイヤルを少しずつ回して徐々に左転を始め、同時05分半090度に向首したとき、左舷船首27度2.8海里に海神の映像を探知し、間もなく同映像の少し右側で約3海里のところに別の映像を認め、その後転針を続けながらしばらくこれら2個の映像と航跡を監視していずれも推薦航路線に沿って西行中の船舶と判断し、これらの船と右舷を対して航過するため、いつもより天田島に接航するつもりで更に左転を続け、同時09分同灯台から141度470メートルの地点で針路を050度に転じて横島に向首したところ、海神の映像を右舷船首10度1.5海里に認めるようになった。
 その後C受審人は、接近する海神の映像を監視して同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを知ったが、方位がわずかに右に変わることからこのまま右舷側を替わるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく、全速力のまま進行した。
 03時13分少し前レーダーで海神の航跡を見ていたC受審人は、同船が右転したことを知り、前方に視線を向けたところ、右舷船首至近に同船の白、白、紅3灯を認めたので、手動操舵に切り換えて右舵一杯とし、機関を全速力後進にかけて回頭中、060度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海神は、左舷側後部に破口が生じ、貨物倉及び機関室に浸水して機関に濡損が生じたうえ燃料油の一部が海上に流出し、機関が停止するとともに電源を喪失して操船不能となり、折からの潮流に流されて天田島東岸に乗り揚げたが、その後サルベージにより離礁し、また、とくひろは、船首部が圧壊して破口が生じ、船首水タンクに浸水したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、伊予灘北部において、両船が霧のため視界制限状態となった天田島沖合を航行中、西行する海神が、安全な速力とせず、レーダーで前路に探知したとくひろと著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、東行するとくひろが、安全な速力とせず、レーダーで前路に探知した海神と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった天田島東方沖合を西行中、レーダーで前路に探知したとくひろの動静を監視してその方位がほとんど変わらず、同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを知った場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、とくひろが推薦航路線に近寄って東行すると予想し、自船が同航路線から離れて天田島に接近すれば左舷を対して航過できると思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、全速力のまま進行して同船との衝突を招き、海神の左舷外板に破口などを生じさせ、貨物倉及び機関室に浸水して機関に濡損を与えたほか燃料油の一部を海中に流出させ、また、とくひろの船首部を圧壊して船首水タンクに浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった天田島南方沖合を東行中、レーダーで前路に探知した海神の方位変化がわずかで、同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを知った場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、方位がわずかに右に変わることからこのまま右舷側を替わるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、全速力のまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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