(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年11月15日17時55分
広島県尾道糸崎港
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船第二有吉丸 |
交通船ひかり |
総トン数 |
19.71トン |
6.6トン |
全長 |
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11.65メートル |
登録長 |
14.50メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
44キロワット |
213キロワット |
3 事実の経過
第二有吉丸(以下「有吉丸」という。)は、旅客定員が30人の鋼製旅客船兼自動車渡船で、専ら尾道糸崎港内で旅客と車両の運送業務に従事し、A受審人が1人で乗り組み、旅客2人と自動車1台を載せ、船首0.55メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、航行中の動力船が表示する灯火を点灯し、平成12年11月15日17時51分向島北岸の尾道糸崎港有井桟橋を発し、対岸の同港新浜桟橋に向かった。
ところで、A受審人は、平成5年4月29日付で受有していた四級小型船舶操縦士免状が所定の手続きを取らなかったため失効となったが、船主に一級小型船舶操縦士の免許を取得したと虚偽の報告をして平成9年から同船の船長として乗船していた。一方、船主は、同受審人に同免状を取得するように指示し、その後同受審人から同免状を取得した旨報告を受けたが、免状を提出させるなどして確認をせず、同受審人が所定の海技免状を受有していないことに気付かなかった。
離桟後、17時51分半A受審人は、牛ノ浦灯台から088度(真方位、以下同じ。)650メートルの地点で、対岸の新浜桟橋に向く018度の針路に定め、機関を全速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
17時53分A受審人は、牛ノ浦灯台から073度750メートルの地点に達したとき、右舷船首49度920メートルのところに、ひかりの白、紅2灯を視認できる状況で、その後その方位が変わらず、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、前路を一瞥して接近する他船はいないものと思い、右舷船首方の見張りを十分に行うことなく、尾道市の街明かりに紛れた同船の灯火を見落とし、このことに気付かず、同船の進路を避けずに進行した。
A受審人は、同一針路、速力のまま続航し、17時55分わずか前右舷船首至近にひかりの左舷船首部と客室の灯火に気付き、衝突の危険を感じて、機関を停止し、左舵一杯をとったが効なく、17時55分牛ノ浦灯台から060度910メートルの地点において、有吉丸は、原針路のまま、その左舷船首車輌用ランプウエイにひかりの左舷船首部が前方から42度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には弱い西流があった。
また、ひかりは、モーターホーンを装備した、旅客定員が12人のFRP製交通船で、主に尾道糸崎港内における交通業務に従事し、B受審人が1人で乗り組み、船内薫蒸消毒のため上陸下船していた中国人19人を乗せ、航行中の動力船が表示する灯火を点灯し、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日17時50分尾道糸崎港尾道駅前桟橋を発し、同港三原湾に停泊中の貨物船に向かった。
発航後、B受審人は、機関を後進にかけて尾道駅前桟橋の南側に至り、17時53分尾道灯台から305度230メートルの地点で、針路を牛ノ浦灯台に向首する240度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの速力で操舵室内に立って第3航路外を手動操舵により進行した。
ところで、ひかりの操舵室は、前面にやや幅広の窓枠の付いた3枚の窓ガラスがあり、中央の窓には旋回窓が取り付けられ、舵輪の位置が船体中央よりやや右舷寄りにあるので、立って舵輪を握ると旋回窓よりも顔が上になり船首方と右舷側の見通しは確保できたものの、左舷船首方は窓枠が妨げとなって死角ができることから、B受審人は、身体を左右に動かして死角を補う見張りを行うこととしていた。
定針後、17時53分わずか過ぎB受審人は、左舷船首11度920メートルのところに尾道水道を横断する有吉丸の白、緑2灯を視認できる状況で、その後その方位が変わらず、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたが、後部客室で座席に座らず立っている乗客に注意を促すことに気を奪われ、身体を左右に動かして死角を補う見張りを十分に行わなかったため、同船が自船の進路を避けないで近づいたことに気付かず、警告信号を行わず、さらに間近に接近しても機関を後進にかけるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、有吉丸は、左舷船首車輌用ランプウエイに曲損を、ひかりは、左舷船首部外板、船首甲板等に破損を生じたが、のち修理され、ひかりの旅客2人が頭部打撲等の負傷をした。
(原因)
本件衝突は、夜間、尾道糸崎港において、両船が互いに針路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、北上中の有吉丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るひかりの進路を避けなかったことによって発生したが、西行中のひかりが、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、尾道糸崎港において、尾道水道を横断して新浜桟橋に向かう場合、対岸の尾道市の街明かりに紛れて接近するひかりの灯火を見落とすことのないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路を一瞥して接近する他船はいないものと思い、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するひかりに気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、有吉丸の左舷船首車輌用ランプウエイに曲損を、ひかりの左舷船首部外板及び船首甲板等に破損をそれぞれ生じさせ、旅客2人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、尾道糸崎港において、尾道水道を西行する場合、渡船の有吉丸を見落とすことのないよう、身体を左右に動かして左舷側の死角を補うなど見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、後部客室で座席に座らず立っている旅客に注意を促すことに気を奪われ、身体を左右に動かして左舷側の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する有吉丸に気付かないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷及びひかりの旅客に負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。