(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月9日12時20分
広島県呉港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船清竜丸 |
交通船第二まさみつ |
総トン数 |
692トン |
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全長 |
70.31メートル |
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登録長 |
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10.48メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
25キロワット |
船種船名 |
交通船第二マリン |
交通船いつくしま |
登録長 |
6.17メートル |
4.17メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
29キロワット |
7キロワット |
3 事実の経過
清竜丸は、船尾船橋型の鋼製産業廃棄物処理運搬船で、広島県呉港広区港奥部の、王子製紙呉港広導灯(後灯)(以下「導灯後灯」という。)から003度(真方位、以下同じ。)405メートルの地点で、船首を118度に向け、導灯後灯から015度300メートルの地点に右舷錨を、同灯から020度380メートルの地点に左舷錨を投下して、それぞれ4節、3節錨鎖を延ばして双錨泊し、船尾からは西側の護岸に係留索2本をとってそれぞれ約60メートル延ばし、広さが東西方向約200メートル南北方向約150メートルの長方形の船だまりに係留中のところ、A受審人ほか4人が乗り組み、汚水300トンを積載し、船首2.00メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成12年4月9日12時00分大阪港堺泉北区に向かうため出港準備にかかった。
A受審人は、乗組員を船首尾配置に就け、1人で船橋で操船の指揮を執り、左舷船尾係留索を放し、右舷船尾係留索を延ばしながら左舷錨鎖を1節まで巻き揚げたのち、12時07分ごろ同索を固定した状態で左舷錨を揚収し、続いて右舷船尾係留索を延ばしながら右舷錨鎖を巻き始めた。
A受審人は、いつものように右舷船尾係留索と右舷錨を揚収したあと右舵をとって機関を極微速力前進にかけ、針路を東側の王子製紙株式会社の岸壁(以下「王子製紙岸壁」という。)とその対岸の岸壁及びその北側の貯木場埋立工事区域との間の可航幅約50メートルの水路(以下「狭い水路」という。)中央に向く205度として出航するつもりでいたところ、当時王子製紙岸壁北西角から南西方に約40メートル離れたところに押船とバージからなる全長約70メートルの押船列が頭付け係留しており、その南西方は同工事区域となっていて、狭い水域内で大角度に右転しなければならない状況となったが、右舷船尾係留索を放して右舷錨を巻き揚げたあとでも何とか対処できるものと思い、同索を効かせながら船体の前進力を抑え、同錨鎖を1節ほどまで巻き揚げていったん止めたのち、機関と舵を小刻みに使用するなどして回頭措置を十分にとることなく、12時13分ごろ右舷船尾係留索を放して右舷錨鎖を巻き続けた。
12時15分A受審人は、船首が導灯後灯から015度300メートルの地点に達したとき、船首が180度を向いた状態で右舷錨を揚収したものの、同錨鎖の巻き込みで船体が投錨位置に引き寄せられたため、自船の左舷後部が押船船尾まで約10メートルに接近しているのを認め、いつものように右舵をとり、機関を極微速力前進にかけて船首を狭い水路中央に向ける措置をとると船尾が左に振れ押船に接触するおそれがあると判断し、ひとまず舵中央として機関を極微速力前進にかけ、1.1ノットの対地速力で、導灯後灯から026度190メートルの地点を北西角とする長さ約7メートル幅約5メートルの浮桟橋西側、同橋南側及びその約5メートル南方でほぼ同型の浮桟橋西側に係留している第二まさみつ、第二マリン及びいつくしまを船首方110ないし125メートルに認めながら、手動操舵で進行した。
12時16分A受審人は、左舷船尾が押船の船尾端を替ったころ機関を停止し、船首が180度を向き、約0.9ノットの前進惰力で前示の3隻に向かった状態となって続航した。同時16分少し過ぎ船首が第二まさみつまで約70メートルに接近したとき、右舵一杯をとったものの、思うように回頭しないまま、惰力前進中、同時20分少し前同船に著しく接近したので衝突の危険を感じ、慌てて機関を全速力後進にかけたが効なく、12時20分導灯後灯から024度190メートルの地点において、清竜丸は、船首が188度を向いて約0.5ノットの前進行きあしで、その左舷船首が第二まさみつの左舷中央部に前方から20度の角度で衝突し、続いて12時20分半清竜丸の左舷船首が第二マリンの左舷船尾部及びいつくしまの左舷中央部に前方からそれぞれ約20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、潮候は高潮時であった。
また、第二まさみつは、呉港広区において通船業務に従事する木製交通船で、船長Nが1人で乗り組み、浮桟橋西側に船首を028度に向けて係留中、前示のとおり衝突した。
一方、第二マリン及びいつくしまは、呉港広区において、それぞれ港内業務に従事するFRP製交通船で、浮桟橋南側及びその南側の浮桟橋西側に船首をそれぞれ028度に向けて係留されていたところ、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、清竜丸に損傷はなかったが、第二まさみつは操舵室及び両舷中央部外板などを破損し、第二マリンは両舷船尾部外板に破口、亀裂及び転覆して機関に濡損などを生じ、いつくしまは左舷中央部外板に擦過傷及び亀裂などを生じ、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、広島県呉港広区において、清竜丸が、港奥の係留地を発航する際、回頭措置が不十分で、浮桟橋に係留している第二まさみつ外2隻に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、広島県呉港広区において、港奥の係留地から狭い水路中央に向けて発航する場合、前方の王子製紙岸壁に押船列が頭付け係留し、その南西方は貯木場埋立工事区域となっている狭い水域内で大角度に右転しなければならなかったから、右舷船尾係留索を効かせながら船体の前進力を抑え、右舷錨鎖を1節ほどまで巻き揚げていったん止めたのち、機関と舵を小刻みに使用するなどして回頭措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷船尾係留索を放して右舷錨を巻き揚げたあとでも何とか対処できるものと思い、回頭措置を十分にとらなかった職務上の過失により、浮桟橋に係留している第二まさみつ外2隻に向かった状態となって進行して衝突を招き、第二まさみつの操舵室及び両舷中央部外板などを破損させたほか、第二マリンの両舷船尾部外板に破口、亀裂及び同船を転覆させて機関に濡損などを、いつくしまの左舷中央部外板に擦過傷及び亀裂などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。