(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年4月24日20時00分
和歌山県勝浦港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十一共栄丸 |
漁船第十八順栄丸 |
総トン数 |
19.86トン |
19トン |
全長 |
19.65メートル |
24.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
253キロワット |
360キロワット |
3 事実の経過
第二十一共栄丸(以下「共栄丸」という。)は、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、紀伊半島沖合50海里付近で操業を繰り返していたところ、平成11年4月23日夜間に和歌山県勝浦港に入港し、翌24日早朝から漁獲物の水揚げに続いて餌及び燃料油の積込みを終え、船首0.6メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、同日11時ごろ紀伊勝浦港突堤灯台(以下「突堤灯台」という。)から268度(真方位、以下同じ。)510メートルの、チップ積出用の岸壁に、船首を北東方に向け、左舷を対して係留した。
A受審人は、次の出漁に備えて休息していたところ、19時30分貨物船の入港情報を受け岸壁を空けることとなり、直ちにスタンバイとし、船首方至近の南東方に約100メートル突き出た岸壁(以下「突堤岸壁」という。)の、北東面側に左舷を対して係留している第十八順栄丸(以下「順栄丸」という。)の船尾方にシフトすることとし、19時50分解纜(かいらん)して突堤岸壁に向かった。
A受審人は、突堤岸壁の先端を左舷側10メートルほど離して付け回し、19時59分半少し前突堤灯台から265度400メートルの地点に達したとき、針路を突堤岸壁と5度の交角になるよう303度に定め、機関を微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で入船左舷付け態勢をとって進行した。
間もなく、A受審人は、機関中立としたのち、主機操縦ダイヤル及び操舵ダイヤルが組み込まれた、延長コード付の携帯式操船制御器を使用して船首部で操船することとし、操舵室に設けられたトグル式の同制御器用の切替スイッチを操作したが、一刻も早く船首部に赴いて着岸操船することに気がせき、これを確実に入側に倒して同制御器が有効となるよう、同切替スイッチの操作を適切に行うことなく、同制御器の延長コードを延ばしながら船首部に向かった。
こうして、A受審人は、20時00分少し前前方の順栄丸の正船尾に向首し、その手前20メートルになったとき、機関を後進にかけようとして携帯式操船制御器の主機操縦ダイヤルを回したが、後進位置に作動できず、急いで操舵室に戻ったところ、同制御器用の切替スイッチが切側のままであることを認め、慌てて側にある機関操縦レバーを後進に操作したが、間に合わず、20時00分突堤灯台から271度460メートルの地点において、共栄丸は、前進行きあしをもって原針路のまま、その船首が、順栄丸の船尾中央部に後方から5度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、順栄丸は、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、船首1.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同日13時ごろ船首2本及び船尾3本の係留索を取り、突堤岸壁に沿い308度に向首して係留し、日没時に停泊灯のほか、作業灯や通路灯を多数点灯して乗組員2人が乗船中のところ、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、共栄丸は、船首部に擦過傷を生じ、順栄丸は、係留索5本が切断し、船尾外板に亀裂などの損傷を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、和歌山県勝浦港において、共栄丸が、着岸するにあたり、携帯式操船制御器用の切替スイッチ操作が不適切で、同制御器が後進位置に作動せず、前進行きあしのまま岸壁係留中の順栄丸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、和歌山県勝浦港において、着岸するにあたり、携帯式操船制御器を使用して船首部で操船することとし、操舵室に設けられた同制御器用の切替スイッチを操作する場合、これを確実に入側に倒して同制御器が有効となるよう、同切替スイッチ操作を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一刻も早く船首部に赴いて着岸操船することに気がせき、携帯式操船制御器用の切替スイッチ操作を適切に行わなかった職務上の過失により、同制御器で機関を後進位置に作動できず、前進行きあしのまま岸壁係留中の順栄丸に向首進行して同船との衝突を招き、共栄丸の船首部に擦過傷及び順栄丸の係留索を切断させ、船尾外板に亀裂などの損傷を生じさせるに至った。