日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年神審第35号
件名

貨物船第拾壱住吉丸貨物船栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年11月8日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正、西田克史、西山烝一)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:第拾壱住吉丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第拾壱住吉丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
D 職名:栄丸甲板員 海技免状:五級海技士(航海)

損害
住吉丸・・・右舷船首部外板に破口及び右舷後部外板に凹傷
栄丸・・・左舷船首部外板及び左舷後部外板に凹損等

原因
住吉丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第拾壱住吉丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Dを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月7日19時20分
 神戸港南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第拾壱住吉丸 貨物船栄丸
総トン数 990トン 199トン
全長 73.45メートル 53.975メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 404キロワット

3 事実の経過
 第拾壱住吉丸(以下「住吉丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、海砂2,600トンを載せ、船首4.75メートル船尾6.40メートルの喫水をもって、平成12年3月7日18時00分大阪府阪南港を発し、神戸空港島工事作業区域(以下「空港島作業区域」という。)西側に向かった。
 発航後、A受審人は、B受審人が内航船で30年ほど船長経験があり、海上平穏で視界も良く、目的地まで2時間ほどで到着することから、入航を20時00分ごろと予定、その30分前に再び昇橋することとし、同人に単独で船橋当直を行わせ、何かあれば電話で報告があるので、降橋して自室で休息した。
 B受審人は、法定灯火を表示して大阪湾を北上し、19時09分ごろ神戸港南方沖合3.5海里付近に達したとき、左舷方から接近する東行船が避航動作をとらないので、進路を西方にとって同船を避航したのち、同時15分少し過ぎ神戸灯台から174度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点において、神戸港第1南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)の灯光や空港島作業区域を示す灯火を見ながら、針路を025度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 定針時、B受審人は、右舷船首29度1.3海里のところに、前路を左方に横切る態勢で接近する栄丸の白、白、紅3灯を視認し得る状況であったが、右舷方を一瞥(いちべつ)しただけで、前方に航行の妨げとなる船舶はいないものと思い、栄丸を見落とさないよう、右舷前方に対する見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
 こうして、B受審人は、間もなく操舵室右舷側後部に赴いて左舷方を向き、空港島作業区域の指揮船に到着時刻などの電話連絡を始め、その後栄丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けずに続航中、19時19分半右舷前方至近に栄丸を初認し、手動操舵に切り替えて左舵一杯を取ったが及ばず、19時20分神戸灯台から164度2.4海里の地点において、住吉丸は、船首を345度に向けて、原速力のまま、その右舷船首部が栄丸の左舷船首部に、後方から77度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北寄りの風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、衝撃で衝突を知り、昇橋して事後の処理に当たった。
 また、栄丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、C受審人と同人の実父であるD受審人ほか1人が乗り組み、鉄屑690トンを載せ、船首3.15メートル船尾3.79メートルの喫水をもって、同日17時45分大阪港堺泉北区を発し、山口県徳山下松港に向かった。
 18時20分ごろC受審人は、大阪港大和川南防波堤北灯台から西方1.5海里付近に達したとき、海上平穏で視界も良く、D受審人が内航船で30年も船長経験があることを承知していたので、同人に単独で船橋当直を行わせ、降橋して自室で休息した。
 D受審人は、法定灯火を表示して大阪湾を西行し、18時56分少し前三港建神戸港第八防波堤東灯台から177度2.4海里の地点に達したとき、針路を268度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの速力で自動操舵により進行した。
 D受審人は、19時15分少し過ぎ神戸灯台から149度2.7海里の地点に達したとき、左舷船首34度1.3海里のところに、前路を右方に横切る態勢で接近する住吉丸の白、白、緑3灯を視認し得る状況であったが、定針したころ、周囲には左舷正横付近に同航船が1隻しか見当たらなかったことから、前方に航行の妨げとなる船舶はいないものと思い、右舷方の神戸港から出航してくる船舶に気を配り、住吉丸を見落とさないよう、左舷前方に対する見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
 こうして、D受審人は、その後、住吉丸が避航動作をとらずに衝突のおそれがある態勢のまま接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中、19時20分わずか前左舷前方至近に同船を初認し、機関を後進にかけるとともに手動操舵に切り替えて右舵を取ったが及ばず、栄丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 C受審人は、衝撃で衝突を知り、昇橋して事後の処理に当たった。
 衝突の結果、住吉丸は、右舷船首部外板に破口及び右舷後部外板に凹傷を、栄丸は、左舷船首部外板及び左舷後部外板に凹損並びに同舷ブルワークに曲損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、神戸港南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上中の住吉丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行中の栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、神戸港南方沖合において、単独で船橋当直に当たって北上する場合、前路を左方に横切る態勢で接近する栄丸を見落とさないよう、右舷前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針時に右舷方を一瞥しただけで、前方に航行の妨げとなる船舶はいないものと思い、右舷前方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、栄丸の存在と接近に気付かず、その進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、住吉丸の右舷船首部外板に破口及び右舷後部外板に凹傷を、栄丸の左舷船首部外板及び左舷後部外板に凹損並びに同舷ブルワークに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D受審人は、夜間、神戸港南方沖合において、単独で船橋当直に当たって西行する場合、前路を右方に横切る態勢で接近する住吉丸を見落とさないよう、左舷前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針したころ、周囲には左舷正横付近に同航船が1隻しか見当たらなかったことから、前方には航行の妨げとなる船舶はいないものと思い、右舷方の神戸港から出航してくる船舶に気を配り、左舷前方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、住吉丸の存在と接近に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:49KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION