(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年11月23日03時10分
兵庫県姫路港
2 船舶の要目
船種船名 |
救急患者輸送船いえしま |
総トン数 |
19トン |
全長 |
17.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,132キロワット |
3 事実の経過
いえしまは、2基2軸及び2舵を有する軽合金製救急患者輸送船で、A受審人が1人で乗り組み、家島町生活課参事1人、患者1人及びその付添人1人を乗せ、患者輸送の目的で、船首0.7メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、所定の灯火を表示し、平成12年11月23日02時55分兵庫県家島港を発し、同県姫路港飾磨区第1区(以下、港区の名称に冠する「姫路港」を省略する。)に向かった。
ところで、飾磨区防波堤入口は、飾磨東防波堤灯台(以下「東灯台」という。)から北東方に延びる長さ約450メートルの飾磨東防波堤と飾磨新西防波堤灯台(以下「西灯台」という。)から北西方に延びる長さ約700メートルの飾磨西防波堤とによって形成され、そこに飾磨航路が南北方向に設定されていた。
A受審人は、いえしまが平成8年2月に就航したときから、月間2週間の輪番制による同船への乗船勤務に従事し、飾磨区第1区への夜間の入出航も十分に経験しており、平素、同第1区に入航する際には、南西方沖合から東灯台と西灯台の両灯火を目視で確かめながら、東灯台を船首目標とし、西灯台の南方100ないし200メートルのところから飾磨航路に入り、西灯台を左方に見ながら正横より少し後ろとなったとき、針路を左に転じ、飾磨東防波堤先端を約70メートル右方に離して入航していた。
発航後、A受審人は、操舵輪後方に立ち、レーダーと目視で見張りに就いて飾磨区防波堤入口付近に向けて北東進し、03時05分東灯台から225度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき、東灯台と西灯台の両灯火を目視で識別できるようになり、針路をほぼ東灯台に向く046度に定め、機関を全速力前進にかけ、31.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、03時08分半東灯台から225度1,360メートルの地点で、待機中の救急車に間もなく入港する旨を知らせるため、同乗の参事に携帯電話で飾磨消防署に連絡するよう依頼したところ、しばらくして、同人から携帯電話が不調であることを聞いてこれを受け取り、同時09分東灯台から224.5度890メートルの地点に達し、防波堤入口の転針地点に向かう状況であったが、携帯電話の操作に気を取られ、東、西両灯台の灯火の各方位を目視により連続して確かめるなど、船位の確認を十分に行うことなく続航した。
こうして、A受審人は、転針地点に達したことに気付かないまま、飾磨航路を横断し、飾磨東防波堤先端付近に向首する針路で進行中、03時10分東灯台から065度90メートルの地点において、いえしまは、原針路原速力のまま、飾磨東防波堤南面に19度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
衝突の結果、船首部の圧壊及びプロペラシャフトの損傷などが生じたが、のち修理され、A受審人が左上腕打撲、家島町生活課参事Mが頭部打撲、付添人Kが右肋骨骨折などを負った。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、兵庫県姫路港飾磨区防波堤入口の転針地点に向かう際、船位の確認が不十分で、同地点を通過して飾磨東防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、兵庫県姫路港飾磨区防波堤入口の転針地点に向かう場合、転針時機を失することのないよう、東、西両灯台の灯火の各方位を目視により連続して確かめるなど、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、携帯電話の操作に気を取られ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、転針地点に達したことに気付かず、直進して飾磨東防波堤への衝突を招き、船首部の圧壊及びプロペラシャフトの損傷などを生じさせ、自ら左上腕打撲を負うとともに、M参事に頭部打撲、K付添人に右肋骨骨折などをそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。