(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年2月25日15時45分
長崎県三重式見港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第8正徳丸 |
漁船月吉丸 |
総トン数 |
8.5トン |
2.9トン |
登録長 |
14.55メートル |
9.78メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
382キロワット |
121キロワット |
3 事実の経過
第8正徳丸(以下、「正徳丸」という。)は、FRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、漁獲物の運搬を終えて帰港するため、船首0.8メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成12年2月25日15時10分長崎県三重式見港を発し、五島列島福江島の丑ノ浦に向かった。
A受審人は、舵輪後方に立って手動操舵で港外に出て、15時22分半、ノ瀬灯標から180度(真方位、以下同じ。)50メートルの地点で針路を270度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、23.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、定針後操舵室右舷側の椅子に腰掛けて見張りをしながら進行し、15時43分ノ瀬灯標から270度7.8海里の地点に達したとき、左舷船首7度1,540メートルに月吉丸が存在することを認めることができる状況であったが、右舷方に視認していた同航船の動向を見ることに気を取られ、左舷方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま続航した。
15時44分A受審人は、ノ瀬灯標から270度8.2海里の地点に達したとき、月吉丸が左舷船首7度770メートルに接近し、間もなく同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況となったが、依然としてこのことに気付かず、警告信号を行うことなく、更に接近しても大きく右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行し、15時45分ノ瀬灯標から270度8.6海里の地点において、正徳丸の船首部が、原針路原速力のまま、月吉丸の右舷船尾部に前方から64度の角度で衝突し、これを乗り切った。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。
また、月吉丸は、FRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、あじ一本釣漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日07時00分長崎県瀬戸港を発し、同港南西方約8海里沖合の漁場に向かった。
B受審人は、07時40分漁場に至って操業を開始し、何度かポイントを移動して操業を続け、15時43分ノ瀬灯標から269度8.7海里の地点を発進して帰途につき、針路を026度に定めたとき右舷船首57度1,540メートルに正徳丸が存在したが、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま機関を微速力前進にかけ、3.5ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。
15時44分B受審人は、ノ瀬灯標から269.5度8.6海里の地点に達したとき、正徳丸が右舷船首57度770メートルに接近し、間もなく同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況となったが、前部甲板上で生けすの清掃を行っている甲板員の作業状況に気を取られ、依然として周囲の見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、速やかに行きあしを止めるなど正徳丸の進路を避けることなく、原針路原速力のまま進行し、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、正徳丸は右舷ビルジキールに損傷及びプロペラに曲損を生じ、月吉丸は操舵室天井が脱落したうえ船尾部を大破したが、のちそれぞれ修理され、B受審人が肋骨骨折及び頭部挫創を負った。
(原因)
本件衝突は、長崎県三重式見港西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、月吉丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る正徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、正徳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、長崎県三重式見港西方沖合を航行する場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前部甲板上で生けすの清掃を行っている甲板員の作業状況に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する正徳丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、正徳丸の右舷ビルジキールに損傷及びプロペラに曲損を生じさせ、月吉丸の操舵室天井を脱落させたうえ船尾部を大破させ、自身も肋骨骨折及び頭部挫創を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、長崎県三重式見港西方沖合を航行する場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方の同航船に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する月吉丸に気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。