(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年2月4日04時11分
沖縄島南方沖
2 船舶の要目
船種船名 |
音響測定艦はりま |
漁船第十一比慶丸 |
排水量 |
2,850トン |
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総トン数 |
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9.1トン |
全長 |
67.00メートル |
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登録長 |
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12.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,206キロワット |
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漁船法馬力数 |
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90 |
3 事実の経過
はりまは、双胴型鋼製の音響測定艦で、A、B両指定海難関係人ほか34人が乗り組み、音響測定訓練の目的で、船首7.60メートル船尾7.98メートルの喫水をもって、平成13年1月22日08時30分広島県呉港を発し、沖縄島南方沖に向かい、同月27日から同訓練を開始した。
ところで、音響測定は、ワイヤロープで曳航物(以下「アレイ」という。)を船尾から曳航して行うもので、全長が千数百メートルとなり、アレイの投入または揚収するためにはそれぞれ数時間を要し、曳航中の針路変更及び増減速に厳しい制限があることから、はりまは、音響測定の開始から終了まで操縦性能制限船に該当していた。しかし、アレイを曳航中に他船が接近したとき、早めに針路変更または増減速の措置をとれば、対処することは可能であった。
一方、A指定海難関係人は、ナイトオーダーでB指定海難関係人に対し、艦首4,000ヤード、左右2,000ヤード、後方5,000ヤード以内に近づく目標は報告するよう指示するとともに、音響測定中は20海里以内の探知目標のプロットを維持すること、アレイ曳航中に接近する他船と連絡不可能なときには最接近距離(以下「CPA」という。)を3海里以上離す進路に変針すること、要すれば増速すること及び航海中の留意事項として、目標の動静の早期看破、特に漁船の動静については注意して当直することを指示していた。なお、はりまは、自動衝突予防援助装置を装備したレーダーを2台備えていた。
B指定海難関係人は、2月4日02時00分音響測定中の船橋当直に就き、運用員長及び航海員を見張りに当たらせ、法定灯火を表示して進行し、02時45分北緯25度10分東経127度35分の地点に達したとき、針路を215度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を微速力前進にかけて2.5ノットの対地速力で、右方に25度圧流されながら、自動操舵により続航した。
03時28分B指定海難関係人は、北緯25度09分東経127度34分の地点で、右舷正横前2度4.0海里のところに第十一比慶丸(以下「比慶丸」という。)の白灯1個を初めて視認し、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近し、比慶丸が自船の進路を避ける動作をとっていないことが明らかになったが、停止して操業中の漁船と思い、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、比慶丸の接近をA指定海難関係人に報告せず、同船との衝突を避けるための動作をとることなく進行した。
03時55分B指定海難関係人は、比慶丸の灯火を右舷正横前2度1.5海里に見るようになったとき、同船が接近していることに気付いたが、漁船はもうすこし近付いてから避航することがあるので、そのうち比慶丸が替わすと思ったが、念のため運用員長にレーダーの起動を命じた。
B指定海難関係人は、04時00分比慶丸のコンパス方位を測定し、同時02分運用員長からCPAがゼロとの報告を受け、同時03分再度方位を測定したところ、その方位に変化がないことに気付き、初めて衝突の危険を感じ、航海員に探照灯の点滅を命じるとともに、自ら警告信号を行った。
自室で休息していたA指定海難関係人は、04時06分汽笛の音で目覚めて昇橋したところ、B指定海難関係人から比慶丸が接近している旨の報告を受けたが、どうすることもできず、同時07分機関の回転を少し下げたものの効なく、はりまは、04時11分北緯25度08.4分東経127度32.0分の地点において、その右舷中央部に比慶丸の船首が後方から65度の角度で衝突した。
当時、天候は小雨で風力4の東南東風が吹き、視界は良好であった。
また、比慶丸は、まぐろはえ縄漁に従事するFRP製漁船で、C受審人ほか甲板員1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同年1月30日15時00分沖縄県泊漁港を発し、翌31日02時00分沖縄島南方の北緯24度55分東経127度21分の漁場に至り、07時00分操業を開始した。
操業は、1日1回で、07時ごろ投縄作業を開始して10時ごろ同作業を終了し、11時30分ごろ定時の無線連絡を終えて休息し、13時30分ごろから23時ないし24時まで揚縄作業を行い、2時間ばかり潮上りした後、07時ごろまで休息するものであった。
2月3日23時30分C受審人は、4回目の操業を終え、漁が悪かったことから漁場を移動することとし、北緯25度27分東経127度17分の地点を発進し、法定灯火を表示したほか、マスト灯の上部に黄色回転灯、マスト灯の下部に紅色全周灯及び船尾に笠付きの作業灯を点灯し、北緯25度00分東経127度40分の地点に向かった。
C受審人は、発進時、針路を142度に定め、機関を微速力前進にかけて2.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行し、翌4日00時00分食事を済ませて甲板員を休息させ、機関を5.0ノットの半速力前進として続航し、03時10分北緯25度13分東経127度29分の地点に達したとき、左舷船首30度方向のところに漂泊船の白灯を認め、同船から十分離すこととし、針路を150度に転じた。
C受審人は、操舵室の横一杯に置かれた幅30センチメートルの板に腰掛けて見張りを行っていたが、腰が痛くなったことから、しばらく横になることとし、03時20分操舵室を離れ同室前方下の船員室で横になり、同室前のガラス窓を通して見張りを行っているうち、連日の操業の疲れと睡眠不足から、眠気を催すようになったが、居眠りに陥ることはあるまいと思い、休息中の甲板員を起こして当直を交替するなど、居眠り運航防止の措置をとることなく、見張りを続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
03時28分C受審人は、北緯25度12分東経127度30分の地点で、左舷船首27度4.0海里のところに、はりまが掲げる灯火を視認でき、同船が操縦性能制限船であることが分かる状況で、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、これに気付かず、同船の進路を避けることができないまま進行した。
比慶丸は、同じ針路及び速力で進行し、04時11分少し前ふと目覚めたC受審人が探照灯の点滅に気付いて機関の回転を下げてクラッチを中立としたが、効なく、前示のとおり衝突した。
C受審人は、船首部の損傷に気付かず、目的地に至って操業開始後、海上保安官から損傷箇所を確認するよう言われて損傷に気付き、帰途に就いた。
衝突の結果、はりまは右舷中央部外板に擦過傷を生じただけであったが、比慶丸は船首部が大破し、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、沖縄島南方沖において、比慶丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、操縦性能制限船であるはりまの進路を避けなかったことによって発生したが、はりまが、動静監視不十分で、比慶丸が自船の進路を避ける動作をとっていないことが明らかになったとき、比慶丸との衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
C受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、漁場移動のため沖縄島南方沖を航行中、連日の操業の疲れと睡眠不足から眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こして当直を交替するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、居眠りに陥ることはあるまいと思い、操舵室前方下の船員室で横になり、同室前のガラス窓を通して見張りを続け、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、衝突のおそれがある態勢で接近するはりまに気付かず、同船の進路を避けることができずに進行して衝突を招き、はりまの右舷中央部外板に擦過傷を生じさせ、比慶丸の船首部を大破させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、沖縄島南方沖を航行中、右舷正横に比慶丸の白灯を認めた際、動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
A指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。