(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月2日07時00分
福岡県沖ノ島東方
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船金関丸 |
漁船裕成丸 |
総トン数 |
4.9トン |
4.8トン |
全長 |
15.40メートル |
14.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
169キロワット |
235キロワット |
3 事実の経過
金関丸は、FRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、いか浮子流し釣漁を行う目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成11年5月2日02時00分福岡県地島漁港を発し、同県沖ノ島東方5海里ばかりの漁場に至り、05時30分ごろから操業を開始した。
ところで、A受審人が行ういか浮子流し釣漁は、直径約50センチメートルの発泡スチロール製球形浮子の下に、水深によって調整した長さ100メートル前後の幹糸を取り付け、その下端に錘を、下端から上に約1.5メートル間隔で6本の枝針を、18組の仕掛けを北西方向に約15メートル間隔でそれぞれ投入したのち、順に各浮子を回って、いかが掛かっているかどうかを幹糸を引っ張ってその手応えで確かめ、掛かっているときは、前部甲板右舷側に設置してある巻揚げ機で取り込む作業を行うものであった。
こうして、06時57分A受審人は、北西端から2番目の浮子のところで巻揚げ機の後方に立ち、舵及び主機の遠隔操縦装置を使って船首を223度に保ちながら機関のクラッチを中立にして停留し、その幹糸を確認したところ、いかが掛かっていることがわかり、巻揚げ機でいかを取り込むことにした。
そのころ、A受審人は、左舷後方40度1,500メートルのところに、自船に向首して来航する裕成丸を視認でき、その後同船が針路を変えないまま、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、いかの取込み作業に夢中になって周囲の見張りを十分に行わず、このことに気付かなかった。
07時00分少し前A受審人は、裕成丸が避航の気配がないまま更に接近したが、依然見張り不十分で同船に気付かず、手元に置いた遠隔操縦装置を使って機関を前進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとらないまま沖ノ島灯台から066度(真方位、以下同じ。)4.6海里の地点において船首を223度に向けて停留中、07時00分、金関丸は、その左舷中央部に、裕成丸の船首が後方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、裕成丸は、FRP製漁船で、 B受審人が1人で乗り組み、かんぱちなどの一本釣り漁を行う目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日04時30分山口県粟野港を発し、沖ノ島北西方5海里ばかりの漁場に向かった。
ところで、裕成丸は、船体中央部より少し船尾寄りに操舵室が設けられ、全速力で航行すると船首部が浮上し、操舵室内の舵輪後部に立って見張りに当たっていても、正船首方左右各舷5度の範囲で死角を生じる状態であったので、B受審人は、平素、港内など船舶が輻輳(ふくそう)する海域においては、操舵室内の台の上に立ち、天井に設けられている開口部から頭を上に出して見張りに当たり、船舶が輻輳していない海域においては、時折船首を左右に振るように操舵して死角を補う見張りを行いながら航行した。
こうして、B受審人は、発航後、角島東側の海士ケ瀬戸を通過したのち、GPSプロッタに入力されていた沖ノ島北西方漁場に向けて西行し、沖ノ島灯台から077度12.3海里の地点に達したとき、機関を一時停止して周囲を確認し、06時30分再び機関を全速力前進にかけ、針路を263度に定め、16.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針時B受審人は、沖ノ島が左舷前方に視認できていたことや、周囲に他船の船影が認められなかったことから、舵輪後部で立った姿勢のまま釣りの仕掛けを準備する作業を開始し、その後、船首を左右に振るように操舵するなど、死角を補う見張りを十分に行わないまま続航した。
06時57分B受審人は、沖ノ島灯台から068度5.4海里の地点に達したとき、正船首方向1,500メートルのところに金関丸の左舷側船体及びそのスパンカを視認でき、その後同船の方位が変わらず、停留状態であることがわかる状況であったが、依然釣りの仕掛けの準備に専念し、死角を補う見張りを十分に行わず、金関丸の存在に気付かないまま同船を避けることなく進行中、07時00分わずか前、船首方至近に同船のスパンカを視認し、あわてて左舵一杯をとったが効なく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、金関丸は左舷中央部外板に破口を伴う亀裂を生じたほか操舵室窓を破損し、裕成丸は船首材等に擦過傷を生じた。
(原因)
本件衝突は、福岡県沖ノ島東方において、西行中の裕成丸が、見張り不十分で、停留中の金関丸を避けなかったことによって発生したが、金関丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、単独で操船に当たり、福岡県沖ノ島北西方の漁場に向けて西行する場合、全速力で航行すると前方に死角を生じる状況であったから、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、漁場に近付いたので釣りの仕掛けを準備することに専念し、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、停留中の金関丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、裕成丸の船首材等に擦過傷を、金関丸の左舷中央部外板に破口を伴う亀裂等をそれぞれ生じさせるに至った。
A受審人は、福岡県沖ノ島東方において浮子流し釣り漁を操業中、流していた漁具の一つにいかがかかっていることがわかり、停留してこれを取り込む作業を行う場合、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、いかを取り込む作業に気を奪われて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、避航の気配を見せないまま衝突のおそれがある態勢で接近する裕成丸に気付かず、機関を前進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとらないで停留を続けて同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。