(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月19日14時25分
博多港
2 船舶の要目
船種船名 |
交通船海輝 |
プレジャーボート(船名なし) |
総トン数 |
4.9トン |
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全長 |
14.35メートル |
4.72メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
279キロワット |
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3 事実の経過
海輝は、博多港において、福岡市西区の姪浜と能古島の間の渡船業務に従事するFRP製交通船で、A受審人が1人で乗り組み、能古島からの乗客を姪浜で下船させたのち、空船のまま、船首0.3メール船尾1.2メートルの喫水をもって、平成11年7月19日14時20分姪浜の市営渡船場を発し、折り返し、北西方沖合約1海里の能古島へ向かった。
14時20分半A受審人は、博多港端島灯台から191度(真方位、以下同じ。)5,100メートルの地点で、針路を323度に定め、未だ姪浜の防波堤内であったことから機関回転数を微速力前進の毎分600にかけ、7.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
14時22分少し前A受審人は、博多港端島灯台から194度4,900メートルの地点に至ったとき、左舷船首18度1,500メートル付近に、北東方向へ一団となって帆走中のプレジャーボート(船名なし、以下「吉村艇」という。)を含む数隻のヨットを視認したが、まだ距離があったことから、同地点で対地速力を15.0ノットに増速し、周囲に存在した漁網の敷設場所を示す目印の旗や漁船を避航することを優先して続航した。
14時24分A受審人は、博多港端島灯台から204度4,350メートルの地点に達したとき、左舷船首23度480メートルのところに、ヨットの一団からやや遅れて帆走中の吉村艇を視認でき、その後、同艇の方位が左方に変わり、その前路を約70メートル離して無難に航過できる状況であったが、右舷方の博多港中央航路の灯浮標などの方位を見て船位を確かめることに気を取られ、ヨットの一団の動静監視を十分に行わなかったので、吉村艇に気付かずに進行した。
14時25分少し前A受審人は、博多港端島灯台から208度4,200メートルの地点に至ったとき、正船首方少し右に、帆走中のヨット3隻が北上しているのを認めたことから、左舷方から接近していたヨットの一団が、既に船首の右舷方に替わったものと誤断して能古島の渡船場方面に向けて針路を289度に転じたところ、左舷船首10度140メートルまで接近した吉村艇の前路に向首する態勢となったが、依然として動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、同時25分わずか前正船首方至近に迫った吉村艇のセールを認め、直ちに機関クラッチを中立として左舵一杯としたが、効なく、14時25分博多港端島灯台から210度4,200メートルの地点において、海輝は、船首方位が273度となったとき、ほぼ原速力で、その船首が、吉村艇の右舷船尾に後方から51度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、視界は良好であった。
また、吉村艇は、九州大学ヨット部が所有するFRP製スナイプ級ヨットで、B指定海難関係人ほか1人が乗り組み、同型艇3隻と帆走レースの練習の目的で、船首尾とも0.15メートルの等喫水をもって、同日13時00分妙見埼南方の福岡市立小戸ヨットハーバーを発し、同埼と能古島の間の練習海域へ向かった。
B指定海難関係人は、スキッパーとして乗艇して操船の指揮を執り、練習海域に到着後、ほか3隻と一団となり、北寄りの風を受けて模擬レース形式で練習を開始し、14時22分少し前博多港端島灯台から212度4,600メートルの地点で、右にタッキングを行い、054度方向へ4.0ノットの対地速力で、先航する3隻を追走する態勢で進行した。
こうして、B指定海難関係人は、前路を無難に替わる態勢の海輝が、突然針路を左に転じ、衝突の危険が生じたことに気付かないまま、先航艇の動向や自艇のセールの風のはらみ具合などを確認しながら続航中、同時25分わずか前右舷至近に迫った海輝を認め、直ちに左にタッキングを行ったが、効なく、吉村艇は、その船首が324度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海輝は船首部に擦過傷を生じ、吉村艇は右舷船尾外板を圧壊するとともに、B指定海難関係人が上口唇裂傷などの傷を負った。
(原因)
本件衝突は、博多港において、海輝が、動静監視不十分で、無難に航過する態勢の吉村艇に対し、その前路に向けて転針したことによって発生したものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、博多港において、福岡市西区の姪浜から能古島へ向けて航行中、同島渡船場への進路方向に当たる左舷前方に、吉村艇を含む4隻のスナイプ級ヨットの一団が帆走中であることを認めた場合、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷方の同港中央航路の灯浮標などの方位を見て船位を確かめることに気を取られ、ヨットの一団の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、しばらくして3隻のヨットが右舷側に替わったのを認めたことから、左舷方から接近していたヨットの一団が、前方を右舷側へ無難に替わったものと誤断し、前示3隻に後続して帆走中であった吉村艇に気付かないまま、能古島の渡船場方面に向けて針路を転じて同船との衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を生じさせ、吉村艇の右舷船尾外板を圧壊させるとともに、B指定海難関係人に上口唇裂傷などの傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。