(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月26日18時47分
鹿児島県鹿児島港
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船第十三櫻島丸 |
総トン数 |
699トン |
全長 |
53.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
第十三櫻島丸(以下「櫻島丸」という。)は、航行区域を限定平水区域とし、鹿児島県鹿児島港本港(以下「本港」という。)と地方港湾である同県桜島港間に就航する、船首尾にそれぞれ推進器と舵を二組ずつ装備した両頭型鋼製旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか6人が乗り組み、船内食堂従業員2人及び旅客87人を乗せ、車両34台を積載し、船首尾とも2.30メートルの喫水をもって、平成12年5月26日18時35分桜島港を発し、本港へ向かった。
ところで、櫻島丸は、船首側のみに揚錨機、錨及び錨鎖庫を設け、操舵室を遊歩甲板上の船首側と船尾側とに約35メートル離してそれぞれ設けており、本港から桜島港に向かうときには船首方向を前進側とし、桜島港から本港に向かうときには船尾方向を前進側として各操舵室を使い分けていた。
出航時、A受審人は、船尾側操舵室において離岸操船に当たり、針路を桜島港防波堤入口に向け、機関を半速力前進の10.0ノットにかけたのち、操舵を甲板員に任せ、引き続き同操舵室内で見張りを続けた。
18時44分A受審人は、鹿児島港本港東B防波堤灯台(以下防波堤及び灯台の名称については、「鹿児島港本港」を省略する。)から060度(真方位、以下同じ。)330メートルの地点に達したとき、入港操船のため甲板員と交代して自らが操舵操船に当たり、機関を8.0ノットの微速力前進にかけ、針路を東防波堤入口に向首する231度に定め、手動操舵で進行し、同時45分東B防波堤灯台から119度60メートルの地点に至り、針路を263度に転じたところ、間もなく、驟雨を伴った強い北東風が吹き始めた。
18時46分少し前A受審人は、北防波堤灯台から089度300メートルの地点に至ったとき、風雨は一旦弱まったが、再度、北東風が強まり、浅喫水船の櫻島丸が、風下に圧流されるものと思い、通常より北寄りの進路を採ることとし、針路を北防波堤南端からやや北側に向首する278度に転じ、風勢の変化に応じて、速やかに針路を転じるなど、風圧流に対する適切な措置を行うことなく進行した。
18時46分半A受審人は、北防波堤灯台から073度110メートルの地点に達したとき、予測した北東風が吹かず、思ったほど南側に圧流されないまま続航中、北防波堤に著しく接近していることを認め、同防波堤と衝突の危険を感じ、左舵一杯を取り、続いて機関を全速力後進にかけたが及ばず、18時47分櫻島丸は、その前進側とした船尾が255度を向き、速力が3ノットになったとき、左舷船尾角が同防波堤南東端に衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は低潮時で、視界は良く、日没は19時15分であった。
衝突の結果、船尾部左舷側可動橋受板に凹損を、北防波堤の南東端に擦過傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。また、乗客1人が頸椎及び腰椎捻挫を、食堂従業員1人が頸椎捻挫などをそれぞれ負い、積載車両7台に損傷を生じた。
(原因)
本件防波堤衝突は、鹿児島県鹿児島港本港航路において、強風による圧流を考慮し、北防波堤南端付近に向首して進行する際、風圧流に対する措置が不適切で、同防波堤に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島県鹿児島港本港航路において、強風による圧流を考慮し、北防波堤南端付近に向首して進行する場合、同防波堤に著しく接近することがないよう、風勢の変化に応じて速やかに針路を転じるなど、風圧流に対する措置を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、東防波堤の沖合で北東風が強吹したので、同航路においても強風により圧流されるものと思い、東防波堤を通過したのち風勢は弱まったものの、速やかに針路を転じて航路内に復帰するなど、風圧流に対する適切な措置を行わなかった職務上の過失により、北防波堤南端付近に著しく接近したまま進行して同防波堤との衝突を招き、船尾部左舷側可動橋受板に凹損を、北防波堤の南東端に擦過傷をそれぞれ生じさせ、また、乗客1人に頸椎及び腰椎捻挫を、食堂従業員1人に頸椎捻挫などをそれぞれ負わせ、積載車両7台に損傷を生じさせた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。