(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月25日04時30分
香川県高松港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船本明丸 |
漁船えいほう丸 |
総トン数 |
19トン |
11トン |
登録長 |
19.02メートル |
16.84メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
190 |
80 |
3 事実の経過
本明丸は、船体後部に操舵室を設けた敷網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、網を陸揚げする目的で、船首0.35メートル船尾1.70メートルの喫水をもって、平成12年6月25日04時26分香川県高松港内の高松漁港3号泊地1号岸壁を発し、法定灯火を表示して同岸壁北東方420メートルばかりのところにある同漁港4号泊地の岸壁に向かった。
ところで、高松港は、港則法の適用港で、同港西部に高松漁港があり、同漁港港口は北東方に開け、外側の8号防波堤及び9号防波堤並びに内側の7号防波堤及びその南東側の防波堤とによって囲まれ、それぞれ幅75メートル、45メートル及び可航幅約65メートル、約35メートルの防波堤入口を構成し、内側の防波堤の入口(以下「防波堤の入口」という。)の北側、東側、西側及び西側港奥がそれぞれ4号泊地、1号泊地、2号泊地及び3号泊地となっていて漁船の係留地として使用されていた。また、8号防波堤の先端に高松港8号防波堤灯台(以下「8号防波堤灯台」という。)が設置されていたほか、7号防波堤やその南東側の防波堤などの防波堤先端付近には水銀灯が設けられていた。
発航後、A受審人は、操舵室前部中央の舵輪後方に立って1人で手動操舵と見張りに当たり、04時29分3号泊地出入口付近の、8号防波堤灯台から193度(真方位、以下同じ。)460メートルの地点に達したとき、針路を防波堤の入口に向く046度に定め、機関を微速力前進にかけて3.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
04時29分半A受審人は、8号防波堤灯台から189度410メートルの地点に達し、防波堤の入口まで55メートルに接近したとき、左舷船首13度110メートルのところに、入航する態勢のえいほう丸の緑灯1個を視認でき、そのまま進行すれば同船と防波堤の入口付近で出会うおそれがある状況となったが、日曜日で魚市場が休みだから、入航してくる他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、えいほう丸に気付かないまま、右舷側の船揚場の方を見ながら続航した。
04時30分少し前A受審人は、防波堤の入口まで30メートルとなり、そのころえいほう丸が正船首70メートルに接近していたものの、依然前路の見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かず、防波堤の外で自船の進路を避けるよう警告信号を行うことなく進行中、04時30分8号防波堤灯台から184度370メートルの地点において、本明丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首がえいほう丸の右舷船首にほぼ平行に衝突した。
当時、天候は雨で風はほとんどなく、潮候は高潮時であった。
また、えいほう丸は、香川県男木漁港を基地とし、専ら同県男木島や女木島の養殖施設から高松漁港への活魚輸送に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、はまち約1.0トンを積載し、船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同日04時00分女木島東岸の同施設を発し、マスト灯の設備がなかったので舷灯1対と船尾灯を点灯し、操舵室上部のマストに設置した白色全周灯1個を消灯したまま高松漁港3号泊地に向かった。
発航後、B受審人は、操舵室前部左舷側の舵輪後方に立って1人で手動操舵と見張りに当たり、04時28分少し前8号防波堤灯台を右舷側25メートルに並航したところで、機関を港内全速力前進にかけ、6.2ノットの速力で防波堤の入口に向けて進行した。
04時29分B受審人は、8号防波堤灯台から185度245メートルの地点に達したとき、針路を165度に定め、機関を4.5ノットの半速力に減じて続航し、そのころ右舷船首37度215メートルのところに、防波堤内の本明丸の白灯1個を視認し、漁船の存在を認めたものの、本明丸が出航船で防波堤の入口付近で同船と出会うおそれがあるかどうかなど、その動静を確かめないまま進行した。
04時29分半B受審人は、8号防波堤灯台から180.5度310メートルの地点に達したとき、本明丸が右舷船首48度110メートルに接近し、同船が防波堤の入口に向けて進行しており、自船が針路を防波堤の入口に向けて右に転じて続航すれば、本明丸と防波堤の入口付近で出会うおそれがある状況となったが、左舷方からの出航船の有無や右転の時機を見計らうことに気をとられ、本明丸に対する動静監視を十分に行うことなく、いったん機関を後進にかけて行きあしを止めるなどの防波堤の外で出航する本明丸の進路を避けることなく、この状況に気付かないまま進行した。
04時30分少し前B受審人は防波堤の入口の手前40メートルのところで、針路を防波堤の入口に向く226度に転じたところ、本明丸が正船首70メートルに接近していたものの、依然動静監視を十分に行っていなかったので、同船に気付かずに続航中、同時30分わずか前船首方至近に本明丸を認め、急ぎ機関を全速力後進としたが効なく、えいほう丸は、ほとんど行きあしがなくなったとき、ほぼ原針路のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、本明丸は右舷船首部外板に亀裂及び破口などを生じたが、のち修理され、えいほう丸は右舷船首部に擦過傷などを生じた。
(原因)
本件衝突は、夜間、香川県高松港において、両船が防波堤の入口付近で出会うおそれがあった際、入航するえいほう丸が、マスト灯を表示せず、動静監視不十分で、防波堤の外で出航する本明丸の進路を避けなかったことによって発生したが、本明丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、香川県高松港において、防波堤の入口に向けて入航中、右舷前方の防波堤内に本明丸の白灯1個を認めた場合、同船が出航船で防波堤の入口付近で出会うおそれがあるかどうかを判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷方からの出航船の有無や右転の時機を見計らうことに気をとられ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、防波堤の外で出航する本明丸の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、本明丸の右舷船首部外板に亀裂及び破口などを、えいほう丸の右舷船首部に擦過傷などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、香川県高松港において、防波堤の入口に向けて出航する場合、防波堤の入口付近で出会うおそれがある態勢で入航する他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、日曜日で魚市場が休みだから、入航してくる他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、防波堤の入口に向けて入航中のえいほう丸に気付かず、防波堤の外で自船の進路を避けるよう警告信号を行うことなく進行してえいほう丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。