(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月30日05時05分
瀬戸内海 広島湾早瀬瀬戸北口
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートマリーIII |
プレジャーボート清晃丸 |
総トン数 |
|
2.37トン |
全長 |
9.91メートル |
8.72メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
220キロワット |
17キロワット |
3 事実の経過
マリーIIIは、FRP製のプレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、小学生の孫1人を同乗させ、あじ一本釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、平成11年5月30日04時50分広島県呉港吉浦を発し、早瀬瀬戸経由で諸島沖の釣り場に向かった。
ところで、早瀬瀬戸北口は、東能美島東岸と倉橋島西岸により逆ハの字状に挟まれ、幅約300メートルの最狭部には橋の高さ36メートルの早瀬大橋が架かり、東能美島東岸の早瀬大橋北方700メートルには明神鼻が、更にその北方800メートルには南城鼻があり、同鼻対岸1キロメートルの倉橋島西岸の流田鼻から北へ約2.5キロメートルにわたる沿岸には沖合300メートルにかけてかき養殖筏が設置されていた。
また、A受審人は、休日には広島湾周辺海域を釣り場とし、早瀬瀬戸を幾度となく通航していたことから、流田鼻周辺は魚礁が多数存在する海釣りのポイントになっていて、筏に沿って航行する小型のプレジャーボートを見落としやすい海域であることも、見張りを十分に行うことが必要であることも知っていた。
こうして、A受審人は、いつものように孫を操縦席に座らせ、その背後に立って周囲の見張りを行いながら、船首目標を指示して舵輪を操作させるなどして操船にあたり、05時03分早瀬瀬戸北口の大柿港引島防波堤北灯台(以下「引島灯台」という。)から060度(真方位、以下同じ。)1,180メートルの地点に達したとき、針路を明神鼻の北方に向けて198度に定め、機関を全速力前進にかけて28.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)により進行した。
A受審人は、05時04分少し前早瀬大橋北方の予定転針点に近づき、引島灯台から098度820メートルの地点に達したとき、転針方向となる左舷船首23度900メートルのところに、養殖筏に沿って低速力で潮上りを行っている清晃丸を視認できる状況であったが、一瞥して養殖筏に沿って航行する他船はいないものと思い、転針方向の見張りを十分に行うことなく、清晃丸に気付かず、孫にゆっくり早瀬大橋に向けて左転を開始させ、同時04分少し過ぎ針路を176度に転じたところ、左舷船首2度700メートルのところを移動する清晃丸の前方至近に向首し、その後、同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況となった。
ところが、A受審人は、早瀬大橋のアーチ全体が前面の窓ガラスに入り、船首目標である同大橋に気を取られていたことに加えて、前回使用したイカ釣り用の竿をあじ釣り用に替えていなかったことが気に掛かり、依然、見張りを十分に行っていなかったので、清晃丸に気付かず、同船から大幅に離れて航過するように右転するなど同船との衝突を避けるための措置をとることなく、同時04分半釣り竿をとり出すため孫を操縦席に残して操船位置を離れ、船室内船首部の格納場所に移動して続航中、05時05分引島灯台から143度1,360メートルの地点において、マリーIIIは、原針路、原速力のまま、その船首が清晃丸の右舷後部に後方から25度の角度で衝突して乗り切った。
当時、天候は晴で風はなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期にあたり、衝突地点付近には北北東に流れる0.3ノットの潮流があり、日出は05時00分であった。
また、清晃丸は、小型FRP製プレジャーボートで、B受審人が単独で乗り組み、一本釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日03時55分広島県安芸郡江田島町小用を発し、早瀬瀬戸北口の海釣りの海域に向かった。
B受審人は、04時43分ごろ海釣りの海域に到着し、衝突地点から南方40メートル付近を釣りのポイント地点に決めて一本釣りを開始し、潮に流されながら北方に200メートルほど離れるとそのポイントに戻るため釣り糸を揚げ、機関を使用し、潮上りすることを繰り返していた。
05時02分B受審人は、釣りのポイントから離れたので、潮上りの目的で、そのポイントに向けてゆっくり反転し、同時03分引島灯台から140度1,300メートルの地点で、針路を明神鼻に向く201度に定め、機関を毎分回転数400にかけて3.7ノットの微速力前進とし、右舷船尾に設置した椅子に腰掛け、再び、養殖筏に沿って手動操舵により潮上りを始めた。
05時04分少し前B受審人は、右舷船尾26度900メートルのところに、早瀬瀬戸北口を南下するマリーIIIを初めて認めたものの、同船の船首が明神鼻北方を向いていたことから、そのまま自船の右舷側を十分に離して航過していくものと思い、その後、同船に対する動静監視を行うことなく、山立てに専念して潮上りを続けていたので、同時04分少し過ぎ右舷船尾25度700メートルのところに早瀬大橋方面に向け左転したマリーIIIを認めることができ、同船が自船の前方至近に向かって衝突のおそれのある態勢で接近していたが、このことに気付かず、有効な音響による信号を行うことなく、更に機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、05時05分わずか前釣りのポイントに近づいたので、減速して左舵をとった直後、清晃丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、マリーIIIは左舷船外機脱落及び右舷船外機を大破して沈没し、清晃丸は船体後部を大破し、B受審人が右鎖骨骨折などを負った。
(原因)
本件衝突は、広島湾早瀬瀬戸北口において、高速力で南下するマリーIIIが、見張り不十分で、左舷前方を低速力で潮上りする清晃丸の前方至近に向けて転針したばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、清晃丸が、動静監視不十分で、有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、かき養殖筏が両岸に沿って設置された広島湾早瀬瀬戸北口を高速力で南下中、早瀬大橋のほぼ中央に向けて転針する場合、養殖筏に沿って航行する小型のプレジャーボートを見落としやすいから、転針方向となる左舷前方を養殖筏に沿って低速力で潮上りする清晃丸を見落とすことのないよう、転針方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して養殖筏に沿って航行する他船はいないものと思い、転針方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、清晃丸に気付かず、同船の前方至近に向けて転針したばかりか、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、マリーIIIの左舷船外機脱落及び右舷船外機を大破さらに沈没させ、清晃丸の船体後部を大破させ、B受審人に右鎖骨骨折などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、広島湾早瀬瀬戸北口において、潮上りのため釣りのポイントに向かって移動中、高速力で接近するマリーIIIを右舷船尾方に認めた場合、同船と衝突のおそれが生じることがないか判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、マリーIIIが自船を十分に離して航過していくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が自船の前方至近に向けて転針し、衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。