日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年神審第14号
件名

プレジャーボートエンカクプレジャーボートハル アンド シュン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月19日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西田克史、西山烝一、前久保勝己)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:エンカク船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:ハル アンド シュン船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
エンカク・・・船首部外板に擦過傷
ハ 号・・・船尾部を大破し全損
船長が頸椎捻挫、同乗者2人が頭蓋骨骨折

原因
エンカク・・・見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守 (主因)
ハ 号・・・見張り不十分、警告信号不履行、追い越しの航法 (協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、ハル アンド シュンを追い越すエンカクが、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、ハル アンド シュンが、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月30日00時33分
 石川県金沢港

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート
エンカク
プレジャーボート
ハルアンドシュン
全長 12.50メートル 7.34メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 169キロワット 83キロワット

3 事実の経過
 エンカクは、船体中央部に操舵室を設け、同室屋上に法定灯火の設備を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人3人を乗せ、いか釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成12年7月29日20時30分石川県金沢港を発し、同港西方沖合4海里の釣り場に向かった。
 A受審人は、21時過ぎ釣り場に着き漂泊して釣りを始め、いか50杯を獲たところで帰途に就くこととし、翌30日00時00分所定の灯火を表示のうえ、機関を全速力前進の回転数より少し下げ、操舵室右舷寄りでいすに腰を掛けて操船に就き、東行したのち金沢港港界に至り、西防波堤北端を右舷側近くに見てこれを付け回し、港奥に向かって南下を始めた。
 00時32分わずか前A受審人は、大野灯台から350度(真方位、以下同じ。)1,210メートルの地点に達したとき、いつものように港奥の御供田(ごくでん)ふ頭後方に当たる街の灯を船首目標に、針路を140度に定め、17.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 定針時、A受審人は、正船首490メートルのところに、ハル アンド シュン(以下「ハ号」という。)の白灯1個を視認することができる状況であったが、前方の明るい街の灯を船首目標にしていたうえ、航行中に浴びた海水が乾燥し、塩により操舵室前方の窓ガラスが白濁していて前方の見通しがやや妨げられた状態のもと、前窓を通して前路を一瞥(いちべつ)しただけで付近に他船はいないものと思い、窓ガラスを水洗いしてワイパーを使用するなど、前路の見張りを十分に行っていなかったので、ハ号の存在に気付かなかった。
 こうして、A受審人は、自船がハ号を追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、これから十分に遠ざかるまでその進路を避けずに続航中、00時33分大野灯台から012度765メートルの地点において、エンカクは、原針路原速力のまま、その船首部が、ハ号の船尾中央に真後ろから衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 また、ハ号は、出力80キロワットの主船外機と同3キロワットの予備船外機を装備し、船体中央部に操舵室を設け、同室屋上に法定灯火の設備を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、弟妹2人を乗せ、いか釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同月29日18時50分金沢港を発し、同港西方沖合2.5海里の釣り場に向かった。
 B受審人は、20時ごろ釣り場に到着し、漂泊して釣りを始め、いか10杯を獲たところで帰途に就くこととし、23時00分所定の灯火を表示のうえ、主船外機を起動したところ、警報器が鳴るなど機関の調子が悪かったので速力6.0ノットの回転数に減じ、操舵室右舷寄りでいすに腰を掛けて操船に就き、東行したのち金沢港港界に至り、西防波堤先端を右舷側に見ながらこれを大きく回り込んで間もなく、機関が故障したので急いで予備船外機を起動し、そのスロットルグリップを半速力前進に回した状態で、船尾にいる弟に同グリップ位置を保持させ、自身は操縦席のハンドルに就いて主船外機の舵操作に当たり、港奥に向かって南下を始めた。
 翌30日00時29分半B受審人は、大野灯台から359度960メートルの地点で、針路を140度に定め、2.5ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 00時32分わずか前B受審人は、大野灯台から007度820メートルの地点に達したとき、正船尾490メートルのところに、エンカクの白、紅、緑3灯を視認することができる状況であったが、予備船外機使用のもとでの主船外機の舵操作に気を取られ、後方の見張りを十分に行っていなかったので、エンカクの存在に気付かなかった。
 こうして、B受審人は、エンカクが自船を追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、エンカクに対して備え付けの電気ホーンで警告信号を行わず、更に間近に接近したとき増速のうえ右舵一杯をとるなど、衝突を避けるための協力動作をとらずに続航中、ハ号は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、エンカクは、船首部外板に擦過傷を生じ、ハ号は、船尾部を大破して全損となった。また、B受審人が、頸椎捻挫及びハ号同乗者2人が、頭蓋骨骨折などをそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、金沢港において、ハ号を追い越すエンカクが、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、ハ号が、見張り不十分で、エンカクに対して警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、金沢港港奥に向かって航行する場合、明るい街の灯を船首目標にしていたうえ、塩により窓ガラスが白濁していて前方の見通しがやや妨げられた状態であったから、船首方を先航するハ号の灯火を見落とさないよう、窓ガラスを水洗いしてワイパーを使用するなど、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前窓を通して前方を一瞥しただけで付近に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船が追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま接近しているハ号の存在に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、自船の船首部外板に擦過傷を生じ、ハ号の船尾部を大破させ、B受審人に頸椎捻挫及びハ号同乗者2人に頭蓋骨骨折などをそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、夜間、金沢港において、主船外機の機関不調から船尾の同乗者に予備船外機のスロットルグリップ位置を保持させ、自身は操舵室で主船外機の舵操作に当たりながら港奥に向かって航行する場合、船尾方から接近するエンカクの灯火を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、予備船外機を使用のもとでの主船外機の舵操作に気を取られ、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船を追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま接近しているエンカクの存在に気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、間近に接近したとき増速のうえ右舵一杯をとるなど、衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行してエンカクとの衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:52KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION