(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年12月31日11時30分
兵庫県江井ケ島港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船戎丸 |
プレジャーボート由丸 |
総トン数 |
3.0トン |
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全長 |
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6.42メートル |
登録長 |
9.45メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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55キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
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3 事実の経過
戎丸は、船尾部に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、たこ一本釣り漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成11年12月31日06時00分兵庫県二見漁港を発し、同時30分同県江井ケ島港南方沖合のカンタマ付近の漁場に至って操業したのち、11時20分帰途に就いた。
ところで、戎丸は、機関を回転数毎分1,800ないし2,000にかけて航走すると船首が浮き上がり、操舵輪後方の位置から正船首方の左右各舷約10度の範囲が死角となっていた。
また、当時、江井ケ島港南方沖合の区画漁業権の免許区域(区第7号及び区第9号)には、多数ののり養殖施設が設置され、両区域の間隔は約300メートル開いていて、漁船などが通航する水路となっていた。
A受審人は、前示水路を経由して帰航することとし、11時26分少し前江井ケ島港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から207度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、針路を029度に定め、機関を回転数毎分1,800にかけ、13.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
11時27分A受審人は、操舵輪後方のいすに腰掛けて見張りと操舵にあたり、西防波堤灯台から206度1.4海里の地点に達したとき、正船首1,200メートルのところに由丸を視認できる状況であったが、のり養殖施設に近寄らないよう、左右の同施設に目を向けることに気を取られ、体を左右に移動させるなど、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、由丸の存在に気付かなかった。
その後、A受審人は、由丸が錨泊中の形象物を表示していないものの、船首が風に立ち、移動していない様子から錨泊していることが分かる状況で、同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、このことに気付かず、由丸を避けることなく続航中、11時30分西防波堤灯台から205度1,400メートルの地点において、戎丸は、原針路原速力のまま、その船首部が由丸の左舷側後部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、由丸は、船外機付のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同日07時00分二見漁港を発し、同時20分同漁港の南東方1海里ばかりの釣り場に至って釣りを行ったものの、釣果が得られず、09時00分江井ケ島港南方沖合の釣り場に向かった。
09時10分B受審人は、前示衝突地点の釣り場に至って機関を停止し、船首から重さ7キログラムのダンフォース型錨を投じ、錨索として直径10ミリメートルの合成繊維索を約22メートル延出して船首クリートに止めて錨泊し、船首を北西方に向け、錨泊中の形象物を表示しないまま、船尾部でクーラーボックスに腰掛け、船尾方を向いて釣りを始めた。
11時27分B受審人は、船首が299度を向いていたとき、左舷正横1,200メートルのところに戎丸を視認できる状況であったが、通航船は錨泊中の自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、戎丸に気付かなかった。
こうして、B受審人は、戎丸が自船に向首したまま接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、錨索を放し、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく釣りを続け、11時29分半ふと左舷方を振り向いたとき、至近に迫った戎丸を初めて視認し、手を振りながら大声を出し、ポケットから笛を取り出して吹いたが効なく、由丸は、299度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、戎丸は、船首部外板に擦過傷を生じただけで、由丸は、左舷後部外板に破口を生じて浸水し、戎丸により二見漁港に向けて曳航後間もなく沈没し、のち引き揚げられて廃船処分となった。
(原因)
本件衝突は、兵庫県江井ケ島港南方沖合において、戎丸が、見張り不十分で、錨泊中の由丸を避けなかったことによって発生したが、由丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、兵庫県江井ケ島港南方沖合を北上する場合、操舵輪後方の位置から船首方に死角が生じる状況であったから、前路の他船を見落とさないよう、体を左右に移動させるなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左右ののり養殖施設に目を向けることに気を取られ、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の由丸に気付かず、同船を避けないまま進行して由丸との衝突を招き、戎丸の船首部外板に擦過傷を生じさせ、由丸の左舷後部外板に破口を生じさせて浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、兵庫県江井ケ島港南方沖合で錨泊して釣りを行う場合、自船に向首し接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、通航船は錨泊中の自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する戎丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらずに錨泊を続けて戎丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。