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平成13年神審第47号
件名

漁船隆栄丸油送船トーム カーステン衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月10日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西山烝一)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:隆栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:隆栄丸機関長(当時船橋当直中) 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
隆栄丸・・・船首部を圧壊
ト 号・・・左舷側中央部外板に擦過傷

原因
隆栄丸・・・当直報告の不適切、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
ト 号・・・横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、隆栄丸が、船橋当直の維持が不十分で、前路を左方に横切るトーム カーステンの進路を避けなかったことによって発生したが、トーム カーステンが、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月13日22時40分
 高知県室戸岬南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船隆栄丸 油送船トーム カーステン
総トン数 19トン 44,322トン
全長   228.275メートル
登録長 15.57メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 8,330キロワット

3 事実の経過
 隆栄丸は、船体中央部に操舵室を備えた、まぐろ延縄漁に従事するFRP製漁船で、A受審人及び同人の弟のB受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、平成12年4月13日10時30分高知県甲浦港を発し、室戸岬南方の北緯29度付近の漁場に向かった。
 A受審人は、平素、入出港時、操業時及び船橋当直者からの要請など、その他必要なときに操船の指揮を執っており、航海中の船橋当直については、自らを除いた6人の乗組員による単独3時間の輪番制と決め、出港操船後そのまま船橋で指揮を執って南下し、14時00分室戸岬灯台から135度(真方位、以下同じ。)13.5海里の地点で、当直者に船橋当直を任せ、操舵室後部で休息した。
 21時00分B受審人は、北緯32度09.2分東経134度21.9分の地点で昇橋し、前直者と交替して単独で船橋当直に就き、180度の針路及び機関が全速力前進の8.0ノットの対地速力で引き継ぎ、航行中の動力船の灯火を表示し、自動操舵により進行した。
 ところで、B受審人は、出航後、食あたりにより下痢を頻繁に繰り返し、当直に就いてから操舵室右舷側から船外に2回嘔吐し、22時10分ごろ3回目の嘔吐を終えたあとも、吐き気や腹痛で体調が引き続き悪く、船橋当直業務に支障を生じていたが、沿岸から遠く離れて航行中で、付近に他船を見かけなかったこともあり、何とか我慢して同当直を続けることができるものと思い、A受審人に体調状態を報告し、当直交替を要請するなど、船橋当直の維持を十分に行うことなく、同室左舷側のいすの側でうずくまったまま続航した。
 22時34分少し前B受審人は、北緯31度56.7分東経134度21.9分の地点に達したとき、右舷船首41度2.0海里のところにトーム カーステン(以下「ト号」という。)の白、白、紅3灯を視認でき、その後、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めうる状況であったものの、依然いすの側でうずくまったまま、同船の存在や接近状況に気付かず、ト号を避けずに進行中、22時40分北緯31度55.9分東経134度21.9分の地点において、隆栄丸は、原針路原速力のまま、その船首がト号の左舷中央部に前方から63度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 A受審人は、操舵室後部で就寝中、衝突の衝撃で目覚めてト号と衝突したことを知り、直ちに事後の措置に当たった。
 また、ト号は、船尾船橋型の油送船で、船長C及び三等航海士Dほか23人が乗り組み、ナフサ27,500トンを積載し、船首8.2メートル船尾8.4メートルの喫水をもって、同月12日大韓民国麗水港を発し、千葉港に向かった。
 C船長は、船橋当直を航海士に操舵手1人を付けた4時間交替の3直制としており、翌13日20時00分D三等航海士は、北緯31度39分東経133度43.2分の地点で昇橋し、前直者と交替して操舵手と当直に就き、針路を063度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、航行中の動力船の灯火を表示し、14.0ノットの対地速力で進行した。
 D三等航海士は、22時27分半レーダー画面で左舷船首23度4.0海里に隆栄丸の映像を初めて認め、同時34分少し前北緯31度55.2分東経134度20.5分の地点に達したとき、左舷船首22度2.0海里に隆栄丸の白、緑2灯を視認し、動静を監視するうち、その後方位が変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを認め、同一の針路速力で続航した。
 22時35分D三等航海士は、隆栄丸が同方向1.6海里に接近したのを認め、その後、汽笛による警告信号及び昼間信号灯での照射を行って進行し、やがて、同船が間近に接近したのを認めたが、いずれ同船が避航することを期待し、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航した。
 22時39分半D三等航海士は、隆栄丸が自船を避航する気配がないまま接近したのを認め、衝突の危険を感じ、操舵手に手動操舵に切り替えさせ、右舵20度を命じ、続いて右舵一杯としたが効なく、ト号は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突後、C船長は、隆栄丸の損傷状況などを確かめ、海上保安庁と無線電話で連絡をとったのち、目的地に向かった。
 衝突の結果、隆栄丸は、船首部を圧壊したが、のち修理され、ト号は、左舷側中央部外板に擦過傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、高知県室戸岬南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下中の隆栄丸が、船橋当直の維持が不十分で、前路を左方に横切るト号の進路を避けなかったことによって発生したが、東行中のト号が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、高知県室戸岬南方沖合を漁場に向け南下中、吐き気や腹痛などにより船橋当直業務に支障を生じた場合、船長に自らの体調状態を報告し、当直交替を要請するなど、船橋当直の維持を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、何とか我慢して船橋当直を続けることができるものと思い、船橋当直の維持を十分に行わなかった職務上の過失により、ト号の存在や接近状況に気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、隆栄丸の船首部を圧壊させ、ト号の左舷側中央部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


参考図
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