(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月21日20時30分
東京都大島南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八雄海丸 |
貨物船アロンドラ レインボー |
総トン数 |
3,452トン |
7,762トン |
全長 |
103.40メートル |
113.22メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,427キロワット |
3,883キロワット |
3 事実の経過
第八雄海丸(以下「雄海丸」という。)は、可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか10人が乗り組み、石炭5,500トンを積載し、船首6.03メートル船尾6.93メートルの喫水をもって、平成10年7月19日09時00分釧路港を発し、東播磨港へ向かった。
A受審人は、船橋当直を一等航海士、二等航海士及び甲板長にそれぞれ甲板員各1人を配した4時間交代の3直制とし、自らは、入出航、狭水道航行及び視界制限時、また、船橋当直者からの昇橋の要請があるときには操船の指揮をとるようにしていた。
こうして、翌々21日20時00分B指定海難関係人は、竜王埼灯台から080度(真方位、以下同じ)8.7海里の地点に達したとき、前直の一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、針路を東京都大島(以下「大島」という。)南東方沖合に向く246度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.7ノットの対地速力で、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
ところで、大島南東方沖合は、東京湾を出入する大型船舶の多くが、本州沿岸を航行する小型貨物船を避けるために利用する通航路となっており、航行に際しては十分な注意が必要であった。
A受審人は、無資格のB指定海難関係人に船舶が輻輳する大島南東方沖合の船橋当直を委ねることとしたが、平素から同指定海難関係人に対して、周囲の見張りを十分に行うよう、漁船には近づかないよう、視界が制限されたとき、危険と感じたとき、判断が難しいときなどは連絡するよう、また、船舶が輻輳する海域では他船に注意するよう指示しており、同沖合を通航するときには自らも昇橋して同人を監督することとしていたので、改めて接近する他船を見落とさないために、周囲の見張りを十分に行い、接近する他船があれば報告するよう指示しなかった。
20時13分B指定海難関係人は、竜王埼灯台から085度6.3海里の地点に達したとき、ほぼ右舷船首87度3海里に前路を左方に横切るアロンドラ レインボー(以下「ア号」という。)の白、白、紅3灯を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況であったが、当直引継ぎ時に、周囲を一瞥(いちべつ)して自船と危険な相対関係となりそうな船舶は前方の反航船以外はおらず、正横より後ろから接近してくる他船は避航するものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、自船の左舷側を通過しようとしている反航船に注意を向けながら進行していて、ア号に気付かず、同船の存在がA受審人へ報告されなかったため、その進路を避けないまま続航した。
B指定海難関係人は、20時29分竜王埼灯台から102度3.5海里に至り、右舷正横少し後ろ320メートルに接近したア号を初めて認め、すぐに衝突の危険を感じ、同時29分半左舵一杯を令し、翼角を0度としたが、及ばず、20時30分竜王埼灯台から103度3.3海里の地点において、雄海丸の船首が236度に向いたとき、ほぼ原速力まま、その右舷船尾がア号の左舷船尾に後方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、衝突の2分くらい前、状況確認のために昇橋しており、暗幕内の海図台付近で海図やGPSの確認を行っていたとき、甲板員の叫び声を聞き、右舷ウイングに出て右舷至近にア号が接近するのを認めたが、どうすることもできず、衝突後VHFでア号と連絡をとるなど事後の措置にあたった。
また、ア号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、C指定海難関係人及び三等航海士Dほか15人が乗り組み、空船で、船首2.98メートル船尾4.65メートルの喫水をもって、同7月21日16時50分京浜港横浜区を発し、大分港に向かった。
C指定海難指定人は、船橋当直を一等航海士、二等航海士及び三等航海士にそれぞれ甲板員各1人を配した4時間交代の3直制とし、自らは、入出航、狭水道航行、視界制限時、瀬戸内海航行及び船舶交通の激しいところなどでは、操船の指揮を行うようにしていた。
C指定海難関係人は、出航時から操船の指揮をとってきて、18時30分剱埼沖にて一等航海士に船橋当直を委ねたが、その際他船に注意すること、また、危険な状態になれば連絡することなどを引き継いで自室へ降りた。
C指定海難関係人は、航海士として船橋当直の経験が浅いD三等航海士に大島南東方沖合の同当直を委ねることとしたが、他船が多くなれば同三等航海士が報告してくるものと思い、同三等航海士の前直にあたる一等航海士に対して、接近する他船と衝突するおそれがあるかどうか判断するために、他船の動静監視を十分に行うことを引き継ぐよう指示せず、また、直接同三等航海士に対してそのことを指示しなかった。
20時00分D三等航海士は、竜王埼灯台から045度8.8海里の地点に達したとき、一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、針路を202度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、15.2ノットの対地速力で、航行中の動力船の灯火を表示して大島東方海域を南航した。
当直引継ぎ時、D三等航海士は、左舷船首49度5.2海里を西航する雄海丸の白、白、緑3灯を初めて認め、また、レーダーでも同船を確認したが、右舷前方の反航船のことが気がかりで、雄海丸の動静監視を十分に行わなかった。
20時13分D三等航海士は、竜王埼灯台から057度5.8海里に至って、雄海丸が左舷船首49度3海里となり、前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近していたものの、依然、動静監視を十分に行っていなかったので、これに気付かなかった。
20時27分D三等航海士は、竜王埼灯台から091度3.5海里の地点に達したとき、雄海丸が左舷船首49度1,000メートルに接近したが、警告信号を行うことも、速やかに減速するなど衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行中、20時28分半ふと左舷側を見たとき、同方位700メートルに雄海丸の航海灯を認めたので、すぐに甲板員を操舵スタンドにつかせて手動操舵とし、様子を見ていたところ、衝突の危険を感じたので、同時29分少し過ぎ右舵10度を命じるとともに、VHFを使って英語で同船を1回呼び出したものの応答がなく、同時29分半右舵一杯を命じたが、船首が256度に向いたとき、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
C指定海難関係人は、自室で休息中、衝撃を感じ、急いで昇橋して雄海丸との衝突を知り、D三等航海士と操船を替わり、事後の措置にあたった。
衝突の結果、雄海丸は、右舷船尾外板及び同ボート甲板に凹損を生じ、同ハンドレールを圧壊し、ア号は、左舷船尾外板に亀裂と凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、大島南東方沖合で、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、雄海丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るア号の進路を避けなかったことによって発生したが、ア号が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
雄海丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して周囲の見張りを十分に行い、接近する他船があれば報告するよう指示をしなかったことと、同当直者が、周囲の見張りを十分に行わず、他船の接近について報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、船舶が輻輳する大島南東方沖合を西航中、無資格のB指定海難関係人に船橋当直を委ねる場合、接近する他船を見落とさないために、周囲の見張りを十分に行い、接近する他船があれば報告するよう指示すべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、平素から周囲の見張りを十分に行うよう指導しており、また、大島南東方沖合においては自らが監督するつもりでいたので、改めて同指定海難関係人に対して、接近する他船を見落とさないために、周囲の見張りを十分に行い、接近する他船があれば報告するよう指示しなかった職務上の過失により、同指定海難関係人がア号の接近に気付かず、その報告が得られなかったため、自ら操船の指揮をとることができず、ア号との衝突を招き、雄海丸の右舷船尾外板及び同ボート甲板に凹損を、同ハンドレールに圧壊を、また、ア号の左舷船尾外板に亀裂と凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、船舶が輻輳する大島南東方沖合において、船橋当直に就いて西航中、周囲の見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては勧告しない。
C指定海難関係人が、夜間、船舶が輻輳する大島南東方沖合において、航海士として船橋当直の経験の浅いD三等航海士に同当直を委ねる場合、同三等航海士の前直にあたる一等航海士に対して、接近する他船と衝突するおそれがあるかどうか判断するために、他船の動静監視を十分に行うことを引き継ぐよう指示せず、また、直接同三等航海士に対してそのことを指示しなかったことは本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。