(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年11月25日08時15分
熊野灘
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船松栄丸 |
漁船一吉丸 |
総トン数 |
4.78トン |
1.3トン |
全長 |
12.40メートル |
10.75メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
95キロワット |
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漁船法馬力数 |
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25 |
3 事実の経過
松栄丸は、一本釣り漁業に従事する船体中央部船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、さば・ふぐ漁の目的で、船首0.45メートル船尾1.15メートルの喫水をもって、平成 12年11月25日05時30分三重県二木島漁港を発し、同県猪ノ鼻南方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、07時00分猪ノ鼻南方沖合2海里の地点において、漂泊して操業を始めたものの、芳しい釣果を得られなかったので、同時20分同地点を発進して魚群探索を行いながら約70隻の僚船が集団となって操業している海域をゆっくりと南下し、08時05分猪ノ鼻灯台から197度(真方位、以下同じ。)5.0海里の地点に至り、ようやく同海域を抜け出たので、針路を209度に定め、機関を半速力前進にかけて6.0ノットの対地速力で手動操舵とし、主に操舵室前部窓下に装備した魚群探知器に目を向けながら進行した。
A受審人は、08時12分猪ノ鼻灯台から198.5度5.7海里の地点に達したとき、正船首550メートルのところに一吉丸を視認でき、その後西方に船首を向けて漂泊中の同船に衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め得る状況にあったが、定針したときに前路を一瞥(いちべつ)しただけで左舷前方に停留している2隻の漁船以外に何も認めなかったことから、船首方に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、太陽の光が差し込んで見え難くなった魚群探知器の画面に見入っていて一吉丸に気付かず、同船を避けることなく続航した。
A受審人は、08時15分わずか前ふと船首方に視線を戻し、正船首至近に一吉丸を初めて認めたが、どうすることもできず、08時15分猪ノ鼻灯台から199度6.0海里の地点において、松栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が一吉丸の右舷側中央部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西北西風が吹き、視界は良好であった。
また、一吉丸は、一本釣り漁業に従事する船体中央部船尾寄りに無蓋の操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、さば・ふぐ漁の目的で、船首0.43メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、同日06時00分三重県遊木漁港を発し、猪ノ鼻南方沖合の漁場に向かった。
ところで、B受審人は、平素から同県鵜殿港沖合から三木埼沖合にかけての漁場で魚群探索を行い、魚群反応を探知したところで機関を止め、長さ15メートルの化学繊維製ロープにパラシュート形シーアンカーを連結して船首から海中に投入し、同ロープの一端を船首のたつに結び付け、船首に風を受けた状態で操舵室前方の魚倉内中段に置いたすのこ板の上に立ち、手釣りで操業をしていた。
B受審人は、06時40分猪ノ鼻南方沖合3海里の地点で、漂泊して操業を始めたものの、何も釣れなかったので、07時00分同地点を発進して魚群探索を行いながら南下し、同時40分衝突地点に差し掛かったとき、良好な魚群反応を探知したので機関を停止し、いつものように漂泊して操業の準備に取り掛かった。
08時00分B受審人は、操舵室前方の魚倉内に立ち、右舷側から釣り糸を垂らして操業を再開し、同時12分船首が299度に向いていたとき、右舷正横550メートルのところに僚船である松栄丸を初めて認め、間もなく同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近して来るのを知ったものの、松栄丸とは以前から漁模様などの情報を交換することがあったので、釣果を尋ねるために来航するものであり、いずれ同船が自船の船尾方に転針して減速するものと考え、その後松栄丸の到着を待つつもりで船尾に移動して同船の動静を見守った。
B受審人は、08時14分半松栄丸が自船に向首して避ける気配を示さないまま90メートルに迫ったのを認めたが、間もなく同船が転針して減速するものと思い、機関を始動して前進するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続け、同時15分わずか前ようやく危険を感じたものの、時すでに遅く、299度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、松栄丸は、船首外板に擦過傷を生じ、一吉丸は、右舷側中央部外板に破口を生じたが、のちいずれも修理され、B受審人が衝突の衝撃で海中に転落し、頚椎捻挫を負った。
(原因)
本件衝突は、三重県沖合の熊野灘において、魚群探索中の松栄丸が、見張り不十分で、漂泊中の一吉丸を避けなかったことによって発生したが、一吉丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、三重県沖合の熊野灘において、魚群探索を行いながら移動する場合、正船首方で漂泊中の一吉丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前路を一瞥しただけで船首方に他船はいないものと思い、魚群探知器の画面に見入っていて、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、一吉丸に気付かず、同船を避けないまま進行して同船との衝突を招き、松栄丸の船首外板に擦過傷を、一吉丸の右舷側中央部外板に破口をそれぞれ生じさせ、B受審人に頚椎捻挫を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、三重県沖合の熊野灘において、漂泊して操業中、松栄丸が自船に向首して避ける気配を示さないまま迫ったのを認めた場合、機関を始動して前進するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、松栄丸が釣果を尋ねるために来航するものであり、間もなく同船が自船の船尾方に転針して減速するものと思い、そのまま漂泊を続けて衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、松栄丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。