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平成13年横審第29号
件名

貨物船せとぶりっじ引船公陽丸被引台船安田55号衝突事件
二審請求者[補佐人岸本宗久、受審人A]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月4日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢、葉山忠雄、甲斐賢一郎)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:せとぶりっじ船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:せとぶりっじ水先人 水先免状:東京水先区
C 職名:公陽丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
せ 号・・・船首部に小破口を伴う凹損
公陽丸・・・損傷なし
台 船・・・右舷側前部に破口、浸水

原因
公陽丸・・・動静監視不十分、港則法の航法(避航動作)不遵守(主因)
せ 号・・・港則法の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、小型船である公陽丸引船列が、動静監視不十分で、小型船及び雑種船以外の船舶であるせとぶりっじの進路を避けなかったことによって発生したが、せとぶりっじが、早期に衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月29日07時07分
 京浜港東京区

2 船舶の要目
船種船名 貨物船せとぶりっじ
総トン数 48,342トン
全長 276.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 30,596キロワット

船種船名 引船公陽丸 台船安田55号
総トン数 14トン  
全長   30.00メートル
登録長 14.21メートル  
  12.00メートル
深さ   2.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 147キロワット  

3 事実の経過
 せとぶりっじ(以下「せ号」という。)は、船尾船橋型コンテナ運搬船で、A受審人ほか21人が乗り組み、コンテナ24,715トンを積載し、船首尾とも10.76メートルの等喫水をもって、平成12年7月29日06時45分東京灯標から083度(真方位、以下同じ。)1.2海里の錨地を発し、B受審人嚮導の下、進路警戒用の引船(以下「進路警戒船」という。)を前方に配備して京浜港東京区第2区大井コンテナふ頭に向かった。
 A受審人は、国際信号旗による進路信号を表示し、小型船及び雑種船以外の船舶であることを示す国際信号旗数字旗1を掲げないまま、B受審人に自船の運動性能について記したパイロットカードを渡して操船を委ねるとともに、三等航海士をテレグラフ操作に、甲板手を手動操舵に、機関長を機関操作にそれぞれ当たらせ、自らもB受審人の指示が的確に伝達されているかどうか確認しつつ、周囲の見張りに従事した。
 錨地を発してまもなくB受審人は、浦賀水道から北上するコンテナ船の水先人と無線連絡をとった結果、同船より先に東京西航路に入ることとなったため、東京灯標北側を通航後、同航路に至る航路筋左右に設置された東京西第1号灯浮標(以下、灯浮標名については「東京西」を省略する。)と第2号灯浮標との間に向けることとして西進し、06時59分半東京灯標から075度1,050メートルの地点において、9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)のとき、針路を第1号灯浮標に向く276度に定め、同灯浮標と第2号灯浮標との間で12.0ノットの速力となるよう、機関を12.8ノットの港内全速力前進にかけ、増速しながら進行した。
 定針したころB受審人は、第1号灯浮標の南東側300メートルばかりのところに、停留中のクレーン付台船安田55号(以下「台船」という。)を引航した公陽丸を初めて認め、その姿形からいずれ航路筋を横切って北東方の埋立地に向かうものと判断したが、そのときは航路筋を航行中のコンテナ船の通過を待って待機していたため、とくに気に留めず、同じころA受審人も同引船列を初めて認めたが、同様に気に留めないまま周囲の見張りを続けた。
 07時03分少し過ぎB受審人は、東京灯標から006度370メートルの地点に至り、10.3ノットとなった速力で同灯標を左舷側に航過したとき、公陽丸引船列が動き出しそうな様子がうかがえたため、進路警戒船に対して同引船列と連絡をとって同船の意向を確認するよう指示するとともに、右舵10度を令し、第1号灯浮標と第2号灯浮標との中央に向け転針を開始した。
 07時04分B受審人は、東京灯標から332度450メートルの地点に達し、針路が第1号及び第2号灯浮標の中央に向く287度に整定したころ、公陽丸引船列に向かっていた進路警戒船から同引船列が航路筋を横切り始めたとの連絡を受け、ほぼ同時に自らも左舷船首15度1,450メートルに航路筋の横切りを開始した同引船列を確認したことから、警告のため長音1回を吹鳴するとともに、進路警戒船に対して同引船列を停止させ、第1号灯浮標付近で待機させるよう指示した。
 B受審人は、公陽丸引船列が横切りを開始したことで衝突のおそれが生じたことを認識したが、今までこのような場合、進路警戒船の停止要請の警告に対して小型船側が直ちに反応し、停止、もしくは回頭するなどして自船の進路を避け、問題なく航行することができていたことから、今回も同引船列が停止するものと思い、直ちに機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく、10.7ノットとなった速力で続航した。
 一方、A受審人は、B受審人と同じころ、公陽丸引船列が航路筋を横切り始めたことに気付き、衝突のおそれが生じたことを認識したが、B受審人の指示により進路警戒船が同引船列を停止させるために向かっていることを知り、同人に任せておけば大丈夫と思い、直ちに衝突を避けるための措置をとるよう同人に要請することなく、様子を見守ることとした。
 07時05分B受審人は、東京灯標から313度730メートルの地点に至ったとき、公陽丸引船列を左舷船首12度990メートルに認め、11.0ノットとなった速力で進行中、進路警戒船から同引船列が停止しないとの連絡を受けたため、直ちに機関を停止し、長音を連吹しながら右舵一杯を令し、同時05分半同灯標から308度890メートルの地点で機関全速力後進を令した。
 07時06分少し前B受審人は、ようやく機関が後進にかかったことを知ったが、まもなく公陽丸引船列はコンテナの陰に入って見えなくなり、右舵一杯のままゆっくりと回頭中、07時07分東京灯標から305度1,510メートルの地点において、せ号は、315度を向首して8.0ノットの速力となったその船首が、台船の右舷側前部にほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、公陽丸は、鋼製引船で、C受審人が1人で乗り組み、船首尾とも0.5メートルの等喫水となった台船を長さ30メートルの曳索で船尾に引き、全長約75メートルの引船列を形成し、船首1.0メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、同日06時20分東京都大田区京浜大橋の東側100メートルの定係地を発し、同地の北西側500メートルの京浜運河東岸で作業員2人を台船に乗せ、京浜港東京区第4区中央防波堤外側埋立地(その2)に向かった。
 C受審人は、平成12年6月から、早朝、前示埋立地に向かい、夕方、定係地に戻るという行程で就業し、その間、東京西航路に至る航路筋を朝夕横断していたが、公陽丸引船列が港則法で定める小型船に属すことを理解し、大型船と遭遇する際には衝突のおそれの有無にかかわらず、航路筋脇で待機するか、積極的に避けることとしていた。
 C受審人は、いつものように第1号灯浮標の南東側から直角に航路筋を横切ることとし、大井ふ頭その2南側の水路を東進して大井信号所南方から同灯浮標の南東側に向かったところ、東京西航路に向け北西進する3隻のコンテナ船を認めたことから、それらをやり過ごすため減速し、06時58分同灯浮標の南東側320メートルの、東京灯標から283度1,760メートルの地点で停留した。
 06時59分C受審人は、東京灯標東側の、自船から1.6海里ばかりのところに東京西航路に向かう態勢のせ号を初めて認めたが、同船の右舷側が見えたことから、東京灯標の南側を大回りして航路筋に向かうものと判断して同船から目を離し、船首を航路筋と直角となる045度に向けて横切る機会を待った。
 07時03分半C受審人は、3隻目のコンテナ船が通過したところで航路筋を横切るべく発進することとしたが、先に視認したせ号は東京灯標の南側を大回りするから同船の前方を横切ることができるものと思い、その動静を十分に監視していなかったため、そのころ第1号灯浮標と第2号灯浮標との中央に向け転針中の同船の船首が、右舷船首44度1,450メートルに接近し、自船が航路筋の横切りを開始すると衝突のおそれが生じる状況であることに気付かず、前示停留地点において、針路を045度に定め、機関を回転数毎分630にかけ、6.0ノットの速力で発進し、小型船及び雑種船以外の船舶であるせ号の進路を避けることなく進行した。
 ところで、C受審人は、平素、航路筋を横切るような場合、操舵室天井から顔を出して周囲の見張り及び操舵操船に従事していたが、当日は操舵室内にいたため、その後自船に向け発せられたせ号の長音の連吹にも、近寄ってきた進路警戒船の警告信号にも気付かず、さらに07時05分少し前同船が右舷側間近に接近し、自船を停止させようと汽笛信号や拡声器により警告したが、これにも気付かないまま続航した。
 07時06分C受審人は、東京灯標から298度1,550メートルの地点に至ったとき、船首方に回り込んだ進路警戒船と、右舷船首51度350メートルに接近したせ号の船首とをようやく認め、同船がゆっくり右回頭していたことから衝突の危険を感じたものの、航路筋の横断を開始するまでに通常より15分程度の遅れを生じており、第2号灯標と並航するまで200メートル余りであったことから、何とかせ号の船首方を突っ切って遅れを取り戻すこととし、機関を8.0ノットの全速力前進にかけ、増速して進行中、原針路のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、公陽丸は、損傷がなく、せ号は、船首部に小破口を伴う凹損を生じ、台船は右舷側前部に破口を生じて浸水したが、のち両船とも修理され、衝突の衝撃で転落した台船の作業員1人は進路警戒船に救助された。

(原因)
 本件衝突は、京浜港東京区において、小型船である公陽丸引船列が、動静監視不十分で、小型船及び雑種船以外の船舶であるせ号の進路を避けなかったことによって発生したが、せ号が、早期に衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 せ号の運航が適切でなかったのは、船長が水先人に対し、早期に衝突を避けるための措置をとるよう要請しなかったことと、水先人が、早期に衝突を避けるための措置をとらなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、京浜港東京区において、航行船の通過を待って航路筋脇で待機中、東京灯標東側から東京西航路に向かう態勢の小型船及び雑種船以外の船舶であるせ号を認め、その後同船に先行する航行船が通過したのち、航路筋を横切るべく発進しようとする場合、せ号の前方を安全に横切ることができるかどうか判断できるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、せ号が東京灯標の南側を大回りするから同船の前方を横切ることができるものと思い、その動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、せ号が東京灯標の北側を通過して接近していることに気付かないまま航路筋の横切りを開始し、公陽丸が引く台船とせ号との衝突を招き、台船の右舷側前部に破口を、せ号の船首部に小破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、京浜港東京区において、東京西航路に至る航路筋に向け航行中、それまで航路筋脇で待機していた公陽丸引船列が同筋を横切り始め、衝突のおそれが生じたことを認めた場合、早期に衝突を避けるための措置をとるよう、水先人に要請すべき注意義務があった。しかるに、同人は、進路警戒船が水先人の指示で公陽丸引船列を停止させるために向かっていることを知り、水先人に任せておけば大丈夫と思い、早期に衝突を避けるための措置をとるよう、水先人に要請しなかった職務上の過失により、水先人による避航措置が遅れて、せ号と公陽丸が引く台船との衝突を招き、せ号及び台船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、京浜港東京区において、東京西航路に至る航路筋に向け航行中、それまで航路筋脇で待機していた公陽丸引船列が同筋を横切り始め、衝突のおそれが生じたことを認めた場合、早期に機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、進路警戒船の警告により公陽丸引船列が停止するものと思い、早期に衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、せ号と公陽丸が引く台船との衝突を招き、せ号及び台船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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