(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月25日05時45分
宮城県気仙沼湾西湾入口南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八光栄丸 |
漁船第2豊漁丸 |
総トン数 |
4.8トン |
1.0トン |
登録長 |
11.52メートル |
7.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
80 |
19 |
3 事実の経過
第八光栄丸(以下「光栄丸」という。)は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.35メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、平成12年4月25日05時20分宮城県日門漁港を発し、同県竜舞埼南東方沖合3海里ばかりの漁場に向かった。
A受審人は、発航してから宮城県館鼻埼南方沖合に設置された定置網を替わしながら東航し、05時35分岩井埼灯台から195度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点において、針路を漁場に向く103度に定め、機関を回転数毎分2,000の前進にかけ、11.0ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。
A受審人は、立った姿勢で操舵操船に当たり、05時42分少し前岩井埼灯台から152度1.8海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1,100メートルのところに船首を北寄りに向けている第2豊漁丸(以下「豊漁丸」という。)を初めて視認したが、一瞥(いちべつ)して同船までの距離は十分あるように見えたので着替えのためしばらく操舵室を離れても大丈夫と思い、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、同船の動静監視を十分に行わないまま、舵中央として操業準備のため同室後方に出て船尾を向いて着替えをしながら続航した。
A受審人は、05時44分岩井埼灯台から143度2.1海里の地点に達したとき、豊漁丸が正船首340メートルとなり、同船が停留状態で揚縄をしていたが、その後衝突のおそれのある態勢で同船に接近したものの、依然として動静監視を行っていなかったので、そのことに気付かないまま進行した。
A受審人は、豊漁丸を避けないまま同じ針路、同じ速力のまま続航中、05時45分わずか前着替えを終え、振り返って前方を見たところ、船首至近に同船を認め、左舵一杯をとったが及ばず、05時45分岩井埼灯台から141度2.3海里の地点において、光栄丸は、083度に向首したとき、原速力のまま、その船首が豊漁丸の左舷中央部に後方から54度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。
また、豊漁丸は、はえ縄漁業に従事する木製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.24メートル船尾0.86メートルの喫水をもって、同日03時15分宮城県小鯖漁港を発し、04時ごろ気仙沼湾大根の南側の漁場に至って操業を開始した。
B受審人は、長さ約50メートルの幹縄3本を大根の南側500メートルばかりのところから東の方に約800メートルの間隔で北北東方向に順次投縄し、その後揚縄にかかり、05時30分ごろ前示衝突地点付近で、漁ろうに従事していることを示す形象物を表示しないまま、機関を停止回転とし、船首が宮城県御崎岬の先端に向いて停留した状態で、左舷船首部で2回目の素手による揚縄を開始した。
B受審人は、05時44分揚縄を半分ほど終え、029度に向首しているとき、左舷船尾74度340メートルのところに光栄丸を視認することができ、その後同船が衝突のおそれのある態勢のまま自船を避けずに接近していたが、接近する船があれば自船を避けてくれるものと思い、久しぶりの豊漁であったこともあり揚縄作業に専念していて、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、機関を後進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとらないまま同作業を続けた。
B受審人は、05時45分わずか前左舷船尾至近に迫った光栄丸に初めて気付き、大声で叫んだが効なく、豊漁丸は、029度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、光栄丸は右舷船首部外板に破口を伴う亀裂を生じ、のち修理され、豊漁丸は船体が中央部で分断し、のち廃船となった。
(原因)
本件衝突は、宮城県気仙沼湾西湾入口南東方沖合において、東航中の光栄丸が、動静監視不十分で、前路に停留している豊漁丸を避けなかったことによって発生したが、豊漁丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、宮城県気仙沼湾西湾入口南東方沖合を東航中、前路に豊漁丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して同船までの距離が十分あるように見えたので着替えのためしばらく操舵室を離れても大丈夫と思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま進行して同船との衝突を招き、光栄丸の右舷船首部外板に破口を伴う亀裂を生じさせ、豊漁丸の船体を中央から分断させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、宮城県気仙沼湾西湾入口南東方沖合において、機関を中立として揚縄を行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する船があれば自船を避けてくれるものと思い、揚縄作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、避航しないまま接近する光栄丸に気付かず、機関を後進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとらないまま揚縄作業を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。