(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年12月26日03時25分
北海道稚内港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六十七朝洋丸 |
総トン数 |
124.28トン |
全長 |
38.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
753キロワット |
3 事実の経過
第六十七朝洋丸(以下「朝洋丸」という。)は、北海道稚内港を基地として東経153度の線以西のオホーツク海及び北海道松前郡白神岬突端正西の線以北の日本海の両海域を操業区域とし、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか13人が乗り組み、操業の目的で、ロシア人オブザーバー1人を乗船させ、船首1.5メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成10年12月21日22時00分同港を発し、北緯46度43分東経141度30分付近の西サハリン漁場に向かい、翌22日06時ごろから操業を開始し、まだらなど約30トンを漁獲したところで操業を打ち切り帰航の途に就き、同月25日20時30分同漁場を発進した。
A受審人は、船橋当直を漁労長と自らとが交互に、1時間交替の甲板員1人とともに当たることとしていた。
翌26日00時00分A受審人は、甲板員とともに船橋当直に就いて航行し、01時55分稚内港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から350度(真方位、以下同じ。)16.5海里の地点で、針路を170度に定めて自動操舵により、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で進行した。
03時00分A受審人は、北防波堤灯台から351度6.4海里の地点に達し、当直を終えた甲板員が次直者を呼びに行こうとしたとき、間もなく入港時刻になることから1人で当直を行う旨を告げ、以後、単独の船橋当直に当たることとしてレーダーを一瞥し、稚内港の北副防波堤に接近した時点で入港操船の指揮をとればよいと思い、少し前から始めた操業日誌の記載を続けることとした。
ところで、操業日誌は、漁獲物の水揚げ時に漁業協同組合に提出する必要があり、提出前に魚種別漁獲高の日計及び漁期初めからの累計を小数点第3位まで記載し、同乗したオブザーバーに提示して署名を受けることになっていたことから、A受審人は、入港後に記載を行うとオブザーバーが離船してホテルに宿泊することとなるので、入港下船時までに船内で署名を得るようにしていた。
こうしてA受審人は、船橋後部右舷側の海図台で、椅子に腰を掛けて船尾方を向いた姿勢で操業日誌の記載に当たり、同日誌の漁獲高の計算に熱中し、前路の見張りを行うことなく、また作動させていたレーダーには自動衝突予防援助装置も装備されていたもののこれのスイッチを切っていたこともあり、自船が稚内港の北副防波堤に向首接近していることに気付かず続航中、03時25分少し前ふと船首方を見たとき、至近に同防波堤東端の稚内港北副防波堤東灯台の赤灯を認め、直ちに機関を全速力後進にかけたが効なく、朝洋丸は、03時25分北防波堤灯台から056度690メートルの北副防波堤基部の消波ブロックに原針路、原速力のまま衝突した。
当時、天候は曇で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
防波堤衝突の結果、船首部に破口等を生じたが、自力入航ののち修理された。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、漁場から稚内港に帰航中、前路の見張りが不十分で、同港の北副防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き漁場から稚内港に帰航する場合、入港時刻が間近であったから、同港の北副防波堤に衝突しないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、同防波堤に接近した時点で入港操船の指揮をとればよいと思い、操業日誌に記載する漁獲高の計算に熱中し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路の北副防波堤に気付かず、同防波堤に向首進行して衝突を招き、船首部に破口等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。