(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月14日06時00分
北海道厚岸港
2 船舶の要目
船種船名 |
引船第十三千代丸 |
総トン数 |
11トン |
登録長 |
10.97メートル |
幅 |
3.11メートル |
深さ |
1.35メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
102キロワット |
3 事実の経過
第十三千代丸(以下「千代丸」という。)は、昭和56年1月に漁船であったものが船尾の一部を切断するなどして改造された鋼製引船で、翌57年8月に船舶所有者が購入して台船の曳航等に使用し、船体中央部に操舵室、同室下部船尾側に長さ3.3メートルの機関室が配置されていた。機関室には、中央部にディーゼル機関の主機、左舷側船首方に同機ベルト駆動の発電機、右舷側に配電盤、蓄電池や船体付弁等をそれぞれ備えていた。
主機は、改造時以前に搭載されたもので、平成10年10月に定期検査を受検しており、船体付弁から呼び径50ミリメートルの鋼製冷却海水吸入管を介して直結冷却水ポンプに吸引された海水が、潤滑油冷却器、各シリンダのシリンダジャケットやシリンダヘッドを直接冷却し、船外に排出されるようになっていた。
A受審人は、昭和60年5月にS建設工業株式会社に入社して以来、同社が所有する千代丸を含む3隻の引船の船長及び運航責任者を兼任し、平成12年には千代丸を専ら水深の浅いところで延べ20日間ばかり稼動させたのち9月中旬から翌13年1月まで上架することとした。
ところが、主機の冷却海水管系は、長期間使用されているうち広範囲にさびを生じて腐食し、特に冷却海水吸入管の船体付弁管フランジから5センチメートル隔てた箇所で腐食が進行する状況にあった。
しかし、A受審人は、主機の運転保守にあたり、冷却海水管系のさびを生じている状態に気付いていたが、北海道厚岸港において上架した際、これまで無難に運転していたから大丈夫と思い、同管系を整備することなく、冷却海水吸入管の腐食箇所をそのままにした。
A受審人は、同年1月8日に千代丸を下架し、船首0.30メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、厚岸港第2ふ頭に左舷付けで係留して同月15日に同船の稼動を再開することとし、連日主機を暖機運転して停止した際には、冷却海水管内部の海水の凍結を防止するため、同管に付設された水抜弁を操作していた。
こうして、千代丸は、同月14日早朝主機が始動されて暖機運転中、冷却海水吸入管の前示腐食箇所に破孔が生じ、海水が漏洩して機関室に浸入し、06時00分厚岸港南防波堤灯台から真方位084度1.1海里の係留地点において、同室の船底から60センチメートルまで浸水した状態が発見された。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、港内は穏やかであった。
A受審人は、機関室の浸水の排水措置をとり、台船のクレーンで千代丸を陸揚げした。
浸水の結果、千代丸は、主機のクランク室及び蓄電池が水没し、更に同機船首側のフライホイールの回転による飛沫で発電機及び配電盤等が濡損した。
(原因)
本件浸水は、主機冷却海水管系の整備が不十分で、暖機運転中、冷却海水吸入管の経年腐食箇所に破孔が生じ、海水が漏洩して機関室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転保守にあたり、厚岸港において上架した場合、冷却海水管系の経年腐食が進行する状況にあったから、腐食箇所に破孔が生じることのないよう、同管系を十分に整備すべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで無難に運転していたから大丈夫と思い、冷却海水管系を十分に整備しなかった職務上の過失により、冷却海水吸入管の腐食箇所に生じた破孔から海水を漏洩させて機関室の浸水を招き、主機、発電機、配電盤及び蓄電池等を濡損させるに至った。