(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月21日06時10分
鹿児島県与論島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船いちき丸 |
登録長 |
5.20メートル |
機関の種類 |
4サイクル2シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
5キロワット |
回転数 |
毎分2,000 |
3 事実の経過
いちき丸は、昭和52年4月に進水した一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した2LK型と称する、使用燃料がA重油で無過給のディーゼル機関を備えていた。
いちき丸の一般配置は、船首側から順に、船首側倉庫、氷倉庫、船尾側倉庫、機関室が配置され、甲板上に船橋などの構造物はなく、機関室船尾側の甲板で操船するようになっていた。
機関室は、四角い2個のふたを被せて閉鎖するようになっており、甲板下となる同室中央に主機が、同室左舷船尾側船底に容量24リットルの燃料油タンクがそれぞれ配置されていた。また、船尾側倉庫には、それぞれに予備の燃料油20リットルが入った2個の缶が格納されていた。
主機の燃料油系統は、燃料油タンクから外径17ミリメートル(以下「ミリ」という。)肉厚2.5ミリの耐圧・耐油性ゴムホース(以下「ゴムホース」という。)を通り、吸込揚程が小さいことから主機直結でダイヤフラム式の燃料油供給ポンプに吸引された燃料油が0.1キログラム毎平方センチメートルに加圧されたのち、ろ紙式燃料油こし器に至り、同こし器から外径12ミリ肉厚2.5ミリのゴムホースを通って燃料噴射ポンプに供給され、同ポンプから外径6ミリ肉厚2.25ミリの鋼管である燃料高圧管を通って燃料噴射弁に至り、必要量が各シリンダ内に噴射されて余剰の同油はゴムホースを通って燃料油タンクに戻るようになっていた。
主機の燃料油系統の空気抜きは、燃料油こし器、燃料噴射ポンプの順でそれぞれに付設された空気抜き弁から空気を抜いたのち、燃料高圧管を燃料噴射弁に取り付けている袋ナットを緩めて系統内の空気を抜く必要があり、いずれの空気抜きも主機を回転させ、燃料油供給ポンプを動かして燃料油を供給しながら行うよう、主機取扱説明書に記載されていた。
ところで、ゴムホースは、長期間の使用、機関振動、主機が発する熱、燃料油などの影響を受けて経年劣化すると材質が脆弱となり、振動、衝撃などによって亀裂を生じるおそれがあることから、目視で同ホースのひび割れ、傷の有無などを定期的に点検し、状況によっては同ホースを取り替える必要があった。
A受審人は、平成4年いちき丸を購入し、機関の保守管理にあたり、整備を全て業者に任せ、自らは燃料油及び潤滑油量を点検して必要に応じて補給を行うのみで、年に数回出漁する程度であったことから、発航前に機関室のふたを開けて同室内の点検を行うなどしないまま、主機を始動してそのまま出漁することを繰り返していた。
こうして、いちき丸は、A受審人が単独で乗り組み、同12年9月20日17時00分鹿児島県茶花漁港を発し、いか釣りの目的で沖縄島辺戸岬北西方沖合の漁場に向い、18時30分同漁場に到着して操業を行い、いか約30キログラムを漁獲して操業を終え、翌21日04時30分同漁場を発進して帰港中、経年劣化していた燃料油供給ポンプと燃料油こし器とを接続するゴムホースが機関振動などでいつしか亀裂を生じ、燃料油が機関室内に噴出し続け、同日06時10分与論港灯台から真方位233度1.0海里の地点において、燃料油が供給されなくなった主機が自停した。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹いていた。
A受審人は、機関室のふたを開け、燃料油が同室内全面に吹き付けられ、燃料油タンクの残量が少なくなっていることを認め、予備の燃料油20リットルを同タンクに補給して燃料油系統の空気抜きを行ったのち、主機の始動を10数回約20分間かけて試みたが、空気抜きが不十分であったかして再始動ができなかったものの、それまで燃料油系統に何事もなかったことから、同系統のゴムホースに亀裂が生じていることはあるまいと思い、漏洩箇所の特定、何かを同箇所に巻きつけて漏洩量を減じる仮修理、空気抜きに十分な時間をかけたのちの再始動など、燃料油の漏洩に対する措置を十分に行うことなく、主機が運転不能と判断した。
その結果、いちき丸は、潮に流されるなどして漂流し、翌22日06時10分操業を終え帰港中の漁船に発見救助されて鹿児島県与論港に引き付けられ、その直後に主機の始動を試みたところ容易に始動できる状況であった。また、燃料油系統ゴムホースに亀裂が認められたが、修理されずに陸揚げ保管とされた。
(原因)
本件運航阻害は、主機が自停して機関室内に主機燃料油の漏洩を認め、再始動ができなくなった際、同油の漏洩に対する措置が不十分で、漏洩箇所の特定、仮修理、空気抜きに十分な時間をかけたのちの再始動などが行われなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機が自停して機関室内に主機燃料油の漏洩を認め、再始動ができなくなった場合、同油が漏洩して主機に供給されなくなって自停したのであるから、同油が供給されるよう、漏洩箇所の特定、仮修理、空気抜きに十分な時間をかけたのちの再始動など、同油の漏洩に対する措置を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、それまで燃料油系統に何事もなかったことから、同系統のゴムホースに亀裂が生じていることはあるまいと思い、同油の漏洩に対する措置を十分に行わなかった職務上の過失により、主機が運転不能と判断し、漂流したのち、操業を終え帰港中の漁船に発見救助されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。