(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月15日12時50分
沖縄県那覇港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートエキサイター |
登録長 |
3.89メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
89キロワット |
3 事実の経過
エキサイターは、定員4名で最大積載重量が350キログラムのヤマハ発動機株式会社製のエキサイター1430TR型と称するFRP製プレジャーボートで両舷にそれぞれ2つの座席を備え、船尾右舷側の座席に操縦ハンドルが、船尾左舷側座席の下に容量75リットルの燃料油タンクが設けられていた。
主機は、ガソリンを使用燃料とする総排気量1,131立方センチメートルの水冷2サイクル3気筒エンジンで、船尾側の両座席に挟まれて配置され、軸流一段式ジェットポンプを駆動して回転数毎分6,750の連続最大出力時に最高時速約80キロメートルでエキサイターを航走させることができた。
操縦ハンドルの前面には、エンジンの始動及び停止スイッチなどと共にマルチファンクションメータと称する計器盤が装備され、エンジンの回転数、船速、燃料油の残量、潤滑油の残量のほか、機能を切り替えることで航走距離、航走時間なども確認できるようになっていた。
燃料油タンクは、吸引口から同タンク底までの距離が50ミリメートル異なる主燃料油通路及び予備燃料油通路を備え、同タンクとキャブレタとの間に取り付けられた燃料コックで主燃料油通路の開閉及び予備燃料油通路の選択ができ、主燃料油通路で燃料油が吸引できなくなった場合、予備燃料油通路を選択すれば更に16リットルの同油が使用できるようになっていた。
計器盤に付設された燃料計は、4区分された表示灯で表示され、燃料油の残量が62リットル以上であれば4区分の表示灯が全て点灯、48ないし62リットルであれば3区分の表示灯が点灯、35ないし48リットルであれば2区分の表示灯が点灯、19ないし35リットルであれば1区分の表示灯が点灯し、19リットル以下になれば1区分の表示灯、警告表示部に新たに表示される「FUEL」表示及び警告灯がそれぞれ点滅すると共にブザーが鳴動する燃料油残量警報が作動するようになっていた。
ところで、メーカーは、主機の連続最大出力時における燃料消費量が毎時53リットルで航続時間が約80分間である旨を取扱説明書に記載し、取扱者に燃料油消費に対する注意を促していた。
A受審人は、平成12年3月エキサイターを購入したのち、自宅に保管して自らトレーラーで運搬して沖縄県中頭郡北谷町沖合、那覇港沖合などで20回ほど遊漁、遊覧などを行い、同年6月15日沖縄県宜野湾市真志喜4−4−1に所在する宜野湾港マリーナに向い、途中給油所でエキサイターの燃料油タンクを満杯とした。
こうして、エキサイターは、A受審人が単独で乗り組み、友人1人を乗せて那覇港周辺を遊覧する目的で同日09時00分同マリーナを発し、那覇港内を約10往復したのち、同港西方沖合のチービシと呼ばれる慶伊瀬島を周回し、北谷町沖合に向って時速約40キロメートルで航走中、同島北方沖合に至ったとき燃料油残量警報が作動した。
これよりさき、A受審人は、航走中、燃料計をしばしば見て燃料油が少なくなりつつあることを知っていたものの、那覇港の港内から港外へと続航するにあたり、計器盤の機能を活用してこれまでの航走距離と燃料計に表示された燃料油の残量とを比較検討するなど、同油の残量に対する配慮を十分に行うことなく、目的地までの燃料油が残っているものと思い、陸地から遠く離れる港外へと長時間の航走を続けていた。
エキサイターは、燃料油残量警報に気付いたA受審人が燃料コックを予備燃料油通路に切り替え、北谷町沖合への針路を転針して発航地へ戻ることにしたものの、途中燃料油切れとなり、12時50分那覇港新港第1防波堤北灯台から真方位335度5,000メートルの地点において、発航してから約150キロメートル航走したとき、主機が自停して運航不能となった。
当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、海上は穏やかであった。
その結果、A受審人は、携帯電話で友人に救助を求めたものの、同電話の電源切れで連絡が取れなくなって漂流し、救助依頼を受けた海上保安庁のヘリコプターに翌16日発見され、07時15分巡視艇に救助された。
(原因)
本件運航阻害は、那覇港沖合において遊覧する際、航走距離と燃料油の残量とを比較検討するなど、燃料油の残量に対する配慮が不十分で、長時間の航走を続けているうちに燃料切れを起こしたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、那覇港沖合において遊覧する場合、長時間の航走を続けると燃料切れを起こすおそれがあったから、計器盤の機能を活用して航走距離と燃料油の残量とを比較検討するなど、同油の残量に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、目的地までの燃料油が残っているものと思い、燃料油の残量に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、長時間の航走を続けたことによる燃料切れを生じさせ、主機の自停による運航阻害を招き、漂流したのち巡視艇に救助されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。