(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年10月26日14時00分
鹿児島県奄美大島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート瑞穂丸 |
登録長 |
9.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
220キロワット |
3 事実の経過
瑞穂丸は、平成2年に進水したFRP製プレジャーボートで、主機としてヤマハ発動機株式会社が製造したNO2型と称するディーゼル機関を備え、同機をセルモータで始動するようになっていた。
電気系統は、並列に接続された直流電圧12ボルトの蓄電池2個から全ての電気機器に給電され、蓄電池は主機駆動の充電器で充電されるようになっており、電流計が付設されていたものの、低電圧警報装置などの警報装置は付設されていなかった。
電気機器は、本多電子株式会社が製造したHE−7501DGP型と称する消費電力が60ワットの魚群探知機兼衛星航法装置(以下「魚群探知機」という。)、主機始動用セルモータ、航海灯、巻揚機、魚釣機などが備えられていた。
A受審人は、平成12年3月の定期検査時に蓄電池が新替えされた瑞穂丸を同年8月に購入し、鹿児島県平田漁港から片道20分ほどの陸地近くの釣り場及び片道40分ほどの浮魚礁での釣りをそれぞれ半々の割合で1箇月に5ないし6回、いずれも1回に5ないし6時間行い、陸地近くでの釣り中には主機を停止するものの、釣果によって2ないし3回釣り場のポイントを移動するので1回当たりの主機停止時間が短いこと、浮魚礁での釣りが流し釣りで主機を連続運転していたことなどから、平素魚群探知機を出港から帰港までの間連続使用していた。
A受審人は、瑞穂丸を購入したとき蓄電池が2個では少ないので増設及び配線替えの工事を鉄工所に依頼していたものの、同工事の早期施工を強く要請しないまま、これまで蓄電池の使用に問題がなかったので魚群探知機を連続使用しても大丈夫と思い、蓄電池を主機始動用とその他機器用とに分割してそれぞれ専用にするなど、蓄電池の放電に対する配慮を十分に行うことなく、同機の連続使用を続けていた。
こうして、瑞穂丸は、A受審人が単独で乗り組み、同年10月26日09時00分平田漁港を発し、釣りの目的で奄美大島西方沖合の船瀬に向い、同時15分目的地に到着した。
A受審人は、発航したとき衛星航法装置として使用するために魚群探知機のスイッチを入れ、船瀬に到着したのち同機を魚群探知機に切り替えて魚群を探索して同時30分魚影を見つけたことから主機を停止し、投錨して魚群探知機のスイッチを入れたまま釣りを続けた。
瑞穂丸は、釣果が良かったことから釣り場のポイント移動が行われず、主機が停止されて蓄電池が充電されないまま魚群探知機が長時間使用され、蓄電池が過放電して主機の始動ができなくなるおそれのある状況となっていた。
瑞穂丸は、A受審人が釣果を得て、揚錨のため巻揚機を運転しようと主機の始動を試みたとき蓄電池が過放電しており、同日14時00分枝手久島ユンゴ山頂から真方位227度1,200メートルの地点において、主機が始動できず運航不能となった。
当時、天候は曇で風力2の北風が吹いていた。
この結果、瑞穂丸は、同日14時30分走錨し始め、潮に流されるなどして漂流し、翌27日14時00分捜索中の巡視船に発見救助されて発航地に引き付けられ、のち蓄電池を4個に増やし、主機始動用とその他機器用とに分割してそれぞれ専用にする措置が講じられた。
(原因)
本件運航阻害は、奄美大島西方沖合において釣りを行う際、蓄電池の放電に対する配慮が不十分で、主機を停止して蓄電池が充電されないまま魚群探知機が長時間使用され、蓄電池が過放電してセルモータ始動方式の主機が始動不能になったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、奄美大島西方沖合において釣りを行う場合、主機を停止して蓄電池を充電しないまま魚群探知機を長時間使用すると、蓄電池が過放電してセルモータ始動方式の主機が始動不能になるおそれがあったから、蓄電池を主機始動用とその他機器用とに分割してそれぞれ専用にするなど、蓄電池の放電に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これまで蓄電池の使用に問題がなかったので魚群探知機を連続使用しても大丈夫と思い、蓄電池の放電に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、魚群探知機を長時間使用し続けたことによる蓄電池の過放電を生じさせ、主機が始動不能となる運航阻害を招き、漂流したのち捜索中の巡視船に救助されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。