(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月9日18時00分
長崎県比田勝港南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船浩和丸 |
総トン数 |
13.18トン |
全長 |
17.00メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
220キロワット |
回転数 |
毎分1,840 |
3 事実の経過
浩和丸は、昭和53年3月に進水したいか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6KEK−HT型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置、計器盤及び警報盤を備えていた。
主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付けられ、連接棒の大端部がそれぞれ2本の連接棒ボルトとナットでクランク軸に締め付けられる水平分割型になっており、動力取出軸で集魚灯用発電機などを駆動できるようになっていた。
主機の潤滑油系統は、総量50リットルの潤滑油が、クランク室下油だめから直結の潤滑油ポンプで吸引して加圧され、同油こし器から同油冷却器及び調圧弁を経て同油主管に導かれ、主軸受、クランクピン軸受など各軸受部のほかピストン冷却などに供給されたのち、油だめに戻って循環するようになっており、通常航海時の主機回転数を毎分900ないし1,000として運転中、同油主管において、圧力が6キログラム毎平方センチメートルに調整されていた。
ところで、浩和丸の主機は、昭和61年9月ごろに中古品として据え付けられたものであるが、機関メーカーからの出荷時、潤滑油ポンプから同油こし器に至る油だめ出口の配管(以下「潤滑油ポンプ吐出管」という。)として、アルミニウム製管が取り付けられていたが、いつしか同管の一部が、外径40ミリメートル(以下「ミリ」という。)ないし45ミリ、厚さ8ミリないし10ミリのゴム継手により切継ぎされていた。
A受審人は、前示主機の据付けを行った際、潤滑油ポンプ吐出管にゴム継手が取り付けられていることを知っており、その後、船長として乗船し、機関の保守管理にもあたり、3箇月ごとに潤滑油と同油こし器エレメントの取替えなどを行い、月当たり260時間の運転に従事していた。
浩和丸は、潤滑油ポンプ吐出管のゴム継手が取り替えられずに継続して使用されるうち、経年劣化によりゴムが著しく硬化し、亀裂(きれつ)を生じる状況となったが、このことにA受審人が気付かず操業を繰り返していた。
A受審人は、平成12年5月9日16時過ぎ浩和丸に赴き、機関室で主機油だめの油量点検や清水タンクの水量点検を行ったのち、操舵室において始動操作を行い、再び機関室に戻り主機周りを一瞥(いちべつ)して漏水や漏油の点検を行ったが、漏油がなかったことから異状はないものと思い、潤滑油ポンプ吐出管のゴム継手を目視や触診するなどの点検を十分に行うことなく、硬化して亀裂の生じていることに気付かないまま、出港準備にかかった。
こうして、浩和丸は、A受審人が1人で乗り組み、16時30分長崎県志多賀漁港を発し、対馬東方沖合の漁場に向け、主機を回転数毎分900の全速力前進にかけて航行中、潤滑油ポンプ吐出管のゴム継手の亀裂が進展して破口を生じ、同油が機関室に噴出して同油圧力が低下し、各軸受の潤滑が阻害されるとともに、1番シリンダにおいてピストンとシリンダライナに焼付きを生じ、連接棒に過大な慣性力が作用して連接棒ボルトが破断し、連接棒大端部がクランク軸から離脱してシリンダブロックを突き破り、18時00分尉殿(じょうどの)埼灯台から真方位132度4.9海里の地点において、主機が大音響を発した。
当時、天候は晴で風力4の東風が吹き、海上には白波があった。
A受審人は、操舵室で操船中、主機の異状に気付いて操縦ハンドルを下げて停止し、機関室へ赴いたところ油が飛散してシリンダブロックが破損していたことから、航行不能と判断し、僚船に救助を要請した。
浩和丸は、僚船に曳航(えいこう)されて長崎県佐賀漁港に引き付けられ、主機を開放した結果、1番シリンダのピストンとシリンダライナに焼付きを、同シリンダ連接棒に曲損を、シリンダブロックに破損を、全数のクランクピン軸受及び主軸受に焼損などをそれぞれ生じ、のち主機が換装された。
(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油系統のゴム継手の点検が不十分で、経年劣化により亀裂を生じた潤滑油ポンプ吐出側の同継手が取り替えられず、同継手に破口を生じて潤滑油が噴出し、ピストンとシリンダライナなどの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、出港にあたり、主機周りの点検を行う場合、潤滑油ポンプ吐出側に取り付けられたゴム継手が劣化して亀裂を生じたまま使用を継続すると、運転中、破口を生じるおそれがあったから、目視や触診を行うなどの同継手の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機周りを一瞥して漏油がなかったことから異状はないものと思い、目視や触診を行うなどの同継手の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、経年劣化によりゴムが著しく硬化し、亀裂が生じていることに気付かないまま、運転を続けて破口を生じさせ、潤滑油の噴出により潤滑の阻害を招き、ピストン、シリンダライナ、連接棒、シリンダブロック及び各軸受などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。