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平成13年神審第45号
件名

漁船芳久丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年9月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:芳久丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
発電機の巻線等を短絡・焼損

原因
甲板洗浄用ホースの取扱不適切

裁決主文

 本件機関損傷は、甲板洗浄用ホースの取扱いが不適切で、運転中の集魚灯用発電機が、機関室通風口から機関室内に浸入した海水飛沫を吸引したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年10月6日20時00分
 兵庫県浜坂港北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船芳久丸
総トン数 19トン
登録長 19.48メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 529キロワット
回転数 1,400

3 事実の経過
 芳久丸は、船体のほぼ中央部に操舵室を有し、操舵室後部の機関室囲壁両舷に通路を設けた、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、クラッチ式逆転減速機付のディーゼル機関を主機として装備し、主機の船首側動力取出し軸からエアクラッチを介して、太陽電機株式会社製のTEW−400型と称する、220ボルト400キロボルトアンペアの集魚灯用3相交流発電機(以下「発電機」という。)を駆動するようになっていた。
 発電機は、軸端部に取り付けた冷却ファンによる自己冷却型で、発電機カバー前後の両側面にそれぞれスリット状の通風口が設けられていて、一方の通風口から周辺の空気を吸引して巻線等を冷却し、他方の通風口から冷却後の空気を排出するようになっており、60個の集魚灯のほか、12台のいか釣り機、雑用海水ポンプ及び舵機室内の海水ポンプ(以下「海水ポンプ」という。)等に電源を供給していた。
 ところで、機関室囲壁の船首側両側面には、通路床面上約70センチメートル(以下「センチ」という。)のところに、縦12センチ横56センチの機関室通風口が各1個設けられ、同通風口は発電機の斜め上方に位置し、同通風口には、雨水や海水が機関室内に浸入するのを防止するために、縦横各約80センチ奥行き約7センチのカバー(以下「通風口カバー」という。)が取り付けられていて、通路床面上20センチほどに位置する同カバーの下部のみが開口していた。
 芳久丸は、五島列島周辺から青森県沖合にかけての日本海側で、季節によって漁場を移動しながら、1回が2ないし5日間の操業を周年にわたって繰り返しており、甲板上を洗浄する場合、左舷側は海水ポンプで、右舷側は雑用海水ポンプでそれぞれ別々に洗浄し、洗浄が終了すると、雑用海水ポンプ系統については、操舵室右舷船首部に設けられた海水弁を開弁したまま同ポンプを停止し、外径約48ミリメートルの甲板洗浄用ビニールホース(以下「洗浄用ホース」という。)を、右舷側通路上の通風口カバー下部に、コイル状に巻いて格納するようにしていた。
 A受審人は、就航時から船長として乗り組んでおり、雑用海水ポンプを始動すると、通風口カバー下部の洗浄用ホース先端部が海水圧力によって振れ回ることを知っていたが、普段、操業中に甲板上を洗浄する場合、操舵室船尾側の壁面に設けた遠隔発停スイッチで雑用海水ポンプと海水ポンプを同時に始動し、使用していない方のホースからも海水を放出状態にしたまま、片舷ずつ洗浄していた。
 芳久丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成10年10月4日10時ごろ兵庫県浜坂港を発し、同港北方沖合の漁場に至って同日18時ごろから操業を開始し、夕方から翌朝までの操業を2日間行った。
 A受審人は、翌々6日も同様に18時ごろから操業を開始し、主機で発電機を駆動しながら集魚灯を点灯させて操業中、甲板上がいかの墨などで汚れてきたので甲板上の洗浄を行うことにしたが、雑用海水ポンプを始動するに当たって、今まで問題がなかったので大丈夫と思い、洗浄用ホース先端部が振れ回って通風口カバー内に入り込むことのないよう、同先端部を通風口カバーから離れた場所に固縛するなど、同ホースの取扱いを適切に行うことなく、いつもどおり同ポンプと海水ポンプを同時に始動し、同日19時35分ごろ海水ポンプの甲板洗浄用ホースで左舷甲板の洗浄から開始した。
 こうして、芳久丸は、A受審人が海水ポンプの甲板洗浄用ホースで左舷甲板を洗浄中、雑用海水ポンプの洗浄用ホース先端部が海水圧力によって振れ回っているうち、いつしか、同先端部が通風口カバー内に入り込み、海水飛沫が機関室内に浸入するようになっていたところ、同日20時00分北緯36度40分東経134度23分の地点において、運転中の発電機が、海水飛沫を吸引したことによって巻線等が短絡・焼損した。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、集魚灯が消灯するとほぼ同時に洗浄中のホースからも海水が出なくなったので機関室に急行し、電圧計の指針がゼロになり、機関室内に異臭が立ち込めるとともに発電機のケーシングが濡れているのを認めたので、発電機が焼損したことを知った。
 この結果、芳久丸は、操業が不能となり、操業を中止して浜坂港に引き返し、のち焼損した発電機巻線を巻き替えるなどの修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、漁場において操業中、甲板洗浄作業を行うために雑用海水ポンプを始動する際、洗浄用ホースの取扱いが不適切で、同ホース先端部がポンプ始動後に振れ回って通風口カバー内に入り込み、運転中の発電機が、機関室通風口から機関室内に浸入した海水飛沫を吸引したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、漁場において操業中、甲板洗浄作業を行うために雑用海水ポンプを始動する場合、同ポンプを始動すると、機関室通風口下部に格納している洗浄用ホース先端部が海水圧力によって振れ回ることを知っていたのであるから、同ホース先端部が振れ回って通風口カバー内に入り込むことのないよう、同先端部を機関室通風口から離れた場所に固縛するなど、同ホースの取扱いを適切に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、今まで問題がなかったので大丈夫と思い、同ホースの取扱いを適切に行わなかった職務上の過失により、同ホース先端部がポンプ始動後に振れ回って通風口カバー内に入り込み、運転中の発電機が機関室通風口から浸入した海水飛沫を吸引する事態を招き、同発電機の巻線等を短絡・焼損させるに至った。





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