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平成13年神審第18号
件名

漁船第二十八廣漁丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年9月11日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、阿部能正、西田克史)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第二十八廣漁丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
潤滑油ポンプを損傷、主軸受メタル及びクランクピン軸受メタルを焼損

原因
主機潤滑油ポンプの点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機潤滑油ポンプの点検が不十分で、主機の運転中に、同ポンプが損傷して潤滑油圧力が著しく低下したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月24日11時18分
 高知県高知港南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八廣漁丸
総トン数 97.40トン
全長 36.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,250キロワット
回転数 毎分1,000

3 事実の経過
 第二十八廣漁丸(以下「廣漁丸」という。)は、昭和56年4月に進水した、かつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、株式会社新潟鉄工所製の6PA5LX型と称するディーゼル機関を主機として装備し、主機の船尾側にクラッチ式の減速逆転機を設け、船橋から主機の回転数制御及びクラッチの遠隔操作ができるようになっていた。
 主機は、同60年2月に製造され、連続最大出力1,250キロワット同回転数毎分1,000(以下、回転数は毎分のものを示す。)の原機に負荷制限装置を付設し、計画出力672キロワット同回転数810として登録されたもので、平成10年3月に廣漁丸に搭載されたが、その後は、同装置が取り外されて運転されていた。
 主機の潤滑油系統は、いわゆるセミドライサンプ方式で、クランク室底部の油だめの潤滑油が、直結駆動の潤滑油ポンプ(以下「潤滑油ポンプ」という。)またはプライミング用の電動予備潤滑油ポンプで吸引・加圧され、潤滑油冷却器及び潤滑油こし器を経て主機入口管に至り、主軸受やクランクピン軸受等を潤滑して油だめに戻る一方、潤滑油冷却器を経た潤滑油の一部が潤滑油圧力調整弁(以下「調圧弁」という。)を通って別置きの潤滑油槽に流入し、同槽をオーバーフローした潤滑油が油だめに戻るようになっていた。また、潤滑油圧力は、調圧弁によって約6キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調整され、同圧力が2.5キロ以下に低下すると、潤滑油圧力低下警報装置が作動し、機関室及び船橋の各警報盤で警報ランプが点灯すると同時に警報ブザーが鳴るようになっていた。
 ところで、潤滑油ポンプは、ポンプケーシング内に主動歯車及び従動歯車を内蔵した歯車式で、両歯車の先端とポンプケーシングとの隙間が非常に小さいうえ、両歯車軸の両端がそれぞれ軸受ブッシュで支持されていることから、同ブッシュが磨耗すると、軸心に振れが生じて歯面が磨耗し、潤滑油圧力が低下するとともに運転音が高くなり、さらに同ブッシュの磨耗が進行して軸心の振れが大きくなると、歯先がポンプケーシングに接触して同ケーシング内面が磨耗し、潤滑油圧力が急激に低下するおそれがあった。
 廣漁丸は、毎年1月の休漁期に主機及び過給機等の開放整備を行い、2月初めから12月初めごろまでの漁期中、漁場を土佐沖から三陸沖に移動しながら1航海が3ないし7日の操業を繰り返しており、航海中の主機の回転数は850までとしていたものの、漁場では、魚群を見つけると急速に950まで回転数を上げて追跡し、魚群に追いついたら頻繁に回転数を上下させるとともにクラッチも多用しながら漁を行うなど、厳しい条件で主機の運転を行っていた。
 A受審人は、平成3年2月から機関長として廣漁丸に乗り組み、半年毎に潤滑油を取り替え、同油こし器を10ないし14日ごとに掃除するなどしながら主機の運転及び保守管理に当たっていたところ、同12年2月17日ごろに主機の潤滑油圧力が低下しているのを、次いで、翌々19日朝に潤滑油ポンプの運転音が高いことをそれぞれ認めたが、調圧弁で圧力調整が可能であったことから、しばらくはそのまま運転できるものと思い、直ちに同ポンプの点検を行わず、更に、同月22日高知県佐賀港に入港した際にも、同ポンプの点検を行わなかったので、整備来歴が不明であった同ポンプの軸受ブッシュの磨耗が進行していることに気付かなかった。
 こうして、廣漁丸は、A受審人ほか16人が乗り組み、操業の目的で、船首2.5メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、同月23日10時15分佐賀港を発し、同日18時ごろ土佐沖の漁場に至って漂泊したのち、翌24日05時から操業を開始した。その後、同船は、前示の方法で主機を運転しながら操業を繰り返していたところ、潤滑油ポンプの歯車がポンプケーシングに接触するようになり、調圧弁が異物をかみ込んで作動不良になったことも相まって、潤滑油圧力が急激に低下したが、そのまま主機の運転を続けているうち、主軸受メタルやクランクピン軸受メタルが焼き付き始め、主機の回転数を950に上げて魚群を追跡したのち、魚群に追いついて主機の回転数を下げたところ、同日11時18分北緯32度30分東経133度40分の地点において、潤滑油圧力低下警報装置が作動した。
 当時、天候は曇で風力4の西風が吹き、海上は穏やかであった。
 船首配置に就いていたA受審人は、船橋当直者から警報装置が作動した旨の連絡を受け、機関室に急行して主機の潤滑油圧力が著しく低下しているのを認め、直ちに主機を停止して潤滑油こし器の掃除を行ったが、操業直前で慌てていたこともあり、こし網の点検を十分に行わず、こし網に金属粉が付着していることに気付かぬまま、同こし器を復旧した。
 その後、A受審人は、予備潤滑油ポンプを運転して主機を始動し、主機の回転数が上昇したころ予備潤滑油ポンプを停止したが、間もなく潤滑油圧力低下警報装置が作動したので、再度主機を停止して潤滑油こし器を点検し、こし網に多量の金属粉が付着しているのを認めたため、主機の運転は不可能と判断し、その旨を船長に報告した。
 廣漁丸は、僚船に曳航されて佐賀港に引き付けられ、修理業者によって精査された結果、潤滑油ポンプが損傷し、調圧弁に異物をかみ込んだと考えられる傷が認められたほか、すべての主軸受メタル及びクランクピン軸受メタルが焼損し、クランク軸及び4番シリンダの連接棒等にも損傷が判明したので、のち、損傷部品の取替え修理が行われた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理に当たり、潤滑油圧力が徐々に低下するとともに潤滑油ポンプの運転音が高くなった際、同ポンプの点検が不十分で、同ポンプが損傷して潤滑油圧力が著しく低下した状態のまま主機の運転が続けられ、主機各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理に当たり、潤滑油圧力が徐々に低下するとともに潤滑油ポンプの運転音が高くなったのを認めた場合、軸受ブッシュが磨耗しているなどのおそれがあったから、歯車がポンプケーシングに接触して同ポンプが損傷することのないよう、速やかに同ポンプを点検すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、調圧弁で圧力調整が可能であったことから、しばらくはこのまま運転できるものと思い、速やかに潤滑油ポンプを点検しなかった職務上の過失により、操業中に同ポンプを損傷させ、潤滑油圧力が著しく低下した状態のまま主機の運転を続けて各部の潤滑阻害を招き、主軸受メタル及びクランクピン軸受メタルを焼損させたほか、クランク軸等にも損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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