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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年仙審第19号
件名

漁船第二十一八晃丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年9月20日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹、東 晴二、喜多 保)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:第二十一八晃丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)

損害
全シリンダのピストン及びシリンダライナにかき傷

原因
主機の運転監視不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の運転監視が不十分で、潤滑油温度が異常上昇したまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月10日20時00分
 新潟県佐渡島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十一八晃丸
総トン数 99.79トン
全長 36.17メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 441キロワット
回転数毎分 385

3 事実の経過
 第二十一八晃丸(以下「八晃丸」という。)は、昭和50年5月に進水したいか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、株式会社松井鉄工所が同年3月に製造した6M26KGHS型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室から主機及び逆転減速機の遠隔操作ができるようになっていた。
 主機の冷却は海水冷却式で、海水が主機直結の冷却水ポンプにより海水吸入弁、こし器を通して吸引され、潤滑油冷却器に送られて分岐し、一方が空気冷却器を経て入口集合管に入り、シリンダ及びシリンダヘッドを冷却したのち出口集合管で合流して船外へ放出され、他方が過給機、逆転減速機の潤滑油冷却器をそれぞれ冷却したのち船外へ放出され、各シリンダの出口及び出口集合管には冷却水温度計が取り付けられていた。また、主機の潤滑油冷却器は、横型の円筒多管式冷却器で、潤滑油温度計が入口及び出口側に取り付けられ、常用時入口温度が摂氏55度(以下、温度は「摂氏」を省略する。)で、出口温度が50度であった。
 主機の警報装置は、機関室及び操舵室に設けられ、潤滑油圧力が入口主管において常用時2.5キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力単位は「キロ」という。)で、1.4キロに低下すると警報が作動し、冷却水温度が出口集合管において常用時45度のところ85度以上に上昇すると警報が作動し、それぞれ警報表示ランプが点灯して警報音を発するようになっていた。
 A受審人は、平成7年11月八晃丸に機関長として乗り組み、機関の運転及び保守管理に当たり、主機潤滑油冷却器については、検査工事ごとに整備業者が陸揚げしたうえ、管巣を抜き出して冷却水側及び潤滑油側を掃除していたもので、同10年4月の定期検査工事において同冷却器の掃除が行われ、翌5月から八晃丸は、1航海が約1箇月の操業を開始し、鳥取県から北海道稚内沖合にかけての日本海側及び北海道釧路から青森県沖合にかけての太平洋側海域で操業を繰り返し、同年12月にその年の操業を終了して4箇月余り休漁することになった。
 翌11年4月八晃丸は、北海道函館市内の造船所に合入渠し、機関関係についてはA受審人が機関員を指揮して主機の吸排気弁等を整備し、例年どおり翌5月からの操業を繰り返していたところ、いつしか、主機潤滑油冷却器の冷却水側が管内で繁殖して死滅した貝殻やごみくず等による目詰りで冷却水の流れが悪くなり、運転中、冷却水量が減少して出口集合管の冷却水温度が45度以上に上昇する一方、潤滑油冷却器出口における潤滑油温度が50度以上となったが、同人は、主機が支障なく運転されていることから大丈夫と思い、温度を計測するなどの十分な主機の運転監視を行わなかったので、潤滑油及び冷却水の各温度が常用時よりも高くなっていることに気付かなかった。
 こうして、八晃丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首1.6メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成11年12月10日15時00分石川県小木港を発し、主機を回転数毎分380にかけて10ノットの全速力前進で、新潟県佐渡島西方沖合の漁場に向けて航行中、主機は、潤滑油冷却器冷却水側の目詰まりによる冷却水量の減少が進み、潤滑油温度が更に上昇したことから、同油の粘度が著しく低下して油圧が低下するようになり、同日20時00分北緯38度07分東経137度12分の地点において、潤滑油圧力低下と冷却水温度上昇の各警報が相次いで作動し、ピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑が阻害されて双方にかき傷を生じた。
 当時、天候は曇で風力3の南南東風が吹き、海上はやや波があった。
 A受審人は、冷凍機室の見回りを終えて無人の機関室に向かう途中、操舵室の警報が鳴っている旨を知らせに来た船長と出会い、機関室へ急行して潤滑油と冷却水の各警報が作動しているのを認めて主機を停止し、海水こし器を開放したものの汚れが少なく、以前に潤滑油冷却器が目詰まりしたことがあるのを思い出し、同冷却器の入口側カバーを開放したところ、貝殻やごみくず等で管巣入口部分が3分の2ほど詰まっていたので掃除をし、再始動したところ冷却水温度が正常に戻ったが、主機の回転数を全速力時にすると少し異音を発生するうえ、集魚灯用補機の調子も思わしくなかったことから操業を打ち切り、八晃丸は、主機の回転を下げて自力で山形県酒田港に入港した。
 主機は、修理業者によって開放点検された結果、全シリンダのピストン及びシリンダライナにかき傷が認められ、のちピストンが全数新替えされ、シリンダライナが全数再クロムメッキを施して修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、機関の運転管理に当たり、主機の運転監視が不十分で、潤滑油冷却器冷却水側の目詰まりにより潤滑油温度が異常上昇したまま運転が続けられ、同油の粘度が著しく低下してピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、機関の運転管理に当たる場合、主機の潤滑油や冷却水の温度が異常上昇したことを察知できるよう、温度を計測するなどして、主機の運転監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機が支障なく運転されていることから大丈夫と思い、温度を計測するなどの十分な主機の運転監視を行わなかった職務上の過失により、潤滑油冷却器冷却水側の目詰まりにより潤滑油温度が異常上昇したまま運転を続け、同油の粘度が著しく低下してピストンとシリンダライナとの摺動面に潤滑阻害を招き、全シリンダのピストン及びシリンダライナにかき傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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