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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年函審第33号(第1)
平成13年函審第34号(第2)
件名

(第1)漁船第五十七日東丸機関損傷事件(簡易)
(第2)漁船第五十七日東丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年9月28日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二)

理事官
井上 卓

(第1、第2)
受審人
A 職名:第五十七日東丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)免状(機関限定)

損害
(第1)6番シリンダのピストン、連接棒及び過給機等の損傷
(第2)6番シリンダのピストン、シリンダヘッド、シリンダライナ、連接棒及び過給機等の損傷

原因
(第1)発電機原動機吸気弁の注油状態の点検不十分
(第2)発動機原動機吸気弁の整備不十分

裁決主文

(第1)
 本件機関損傷は、発電機原動機吸気弁の注油状態の点検が不十分で、強制潤滑系統の注油量が不足して弁棒が固着したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
(第2)
 本件機関損傷は、発電機原動機吸気弁の整備が不十分で、弁ばねが折損して弁棒が脱落したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

(第1)
 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
(第2)
 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成12年6月20日13時00分
 北海道利尻島南西方沖合
(第2)
 平成12年6月27日04時00分
 北海道利尻島南西方沖合

2 船舶の要目
(第1、第2)
船種船名 漁船第五十七日東丸
総トン数 97トン
全長 33.27メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 500キロワット(計画出力)
回転数 毎分380(計画回転数)

3 事実の経過
 第五十七日東丸(以下「日東丸」という。)は、昭和57年7月に進水した、刺網漁業に従事する鋼製漁船で、船内電源装置として、機関室中央部に据え付けられた主機の左右両舷側に電圧225ボルト容量180キロボルトアンペア3相交流発電機各1台を備え、同機が原動機(以下「補機」という。)により駆動されていた。
 補機は、右舷側を1号補機、左舷側を2号補機と称し、いずれも同年6月に昭和精機工業株式会社が製造した6KFL−HT型と呼称する、定格出力161キロワット同回転数毎分1,200の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関が設置されており、1号補機の船尾側及び2号補機の船首側から各シリンダに順番号が付されていた。
 補機の潤滑油系統は、クランク室下部の油受から直結式潤滑油ポンプに吸引された油が、油こし器及び油冷却器を経て油主管に入り、主軸受、クランクピン軸受及びピストンピンの系統とカム軸及び動弁注油等の系統とに分岐し、各部を潤滑あるいは冷却するようになっていた。吸気弁及び排気弁は、それぞれ1個がシリンダヘッドに直接組み込まれ、弁棒が動弁装置に駆動されて弁案内を上下往復する箇所には、潤滑油が動弁注油管からシリンダヘッド内部油路を介し導かれていて、強制潤滑系統による注油がなされていた。吸気弁は、全長188ミリメートル(以下「ミリ」という。)弁棒軸部基準径13.5ミリの耐熱鋼製きのこ弁で、弁棒上部の溝と弁ばね受との間に二つ割の弁コッタがはめ込まれており、弁ばね受下方には二重式コイルばねの直径及び巻方向がそれぞれ異なる、線径4.0ミリ総巻数10の内側弁ばねと線径5.5ミリ総巻数7.5の外側弁ばねが装着されていた。
 また、1号補機及び2号補機は、いずれも平成10年4月定期検査受検の際の開放整備された後、潤滑油が適宜交換されていたものの、シリンダヘッドや吸気弁等が整備されないまま、運転が繰り返されていた。
(第1)
 日東丸は、平成12年4月から北海道小樽港及び同岩内港を根拠地とし、通常毎回1航海5日間として利尻島南西方沖合の武蔵堆漁場における操業を繰り返しており、A受審人ほか7人が乗り組み、船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同年6月18日14時30分小樽港を発し、同漁場に至って操業を行った。
 ところで、A受審人は、同年2月日東丸の甲板員として乗り組み、越えて4月に機関長に昇進して機関の運転保守にあたっていたもので、操業にあたり、いつものように小樽港の出港前に1号補機を始動して帰港するまで連続運転することとした。
 ところが、1号補機は、シリンダヘッドが長期間整備されないまま運転が続けられているうち、カーボン粒子やスラッジ等の燃焼生成物が潤滑油に混入してシリンダヘッド内部油路に詰まり始め、出港後6番シリンダ吸気弁の注油量が次第に不足する状況となった。
 しかし、A受審人は、操業中には甲板作業に従事しながら2時間経過ごとに機関室で燃料油を移送していたが、これまで無難に運転していたから大丈夫と思い、毎日定期的に1号補機の吸気弁の注油状態を点検しなかったので、6番シリンダ吸気弁の注油量が次第に不足する状況に気付かず、そのまま同機を運転した。
 こうして、日東丸は、武蔵堆漁場で操業を続けて主機を停止回転数にかけクラッチを中立として揚網中、1号補機の6番シリンダ吸気弁の弁棒と弁案内とが注油量の不足によりついに固着し、開弁状態の弁傘底面がピストン頂面にたたかれ、同年6月20日13時00分北緯44度56分東経140度50分の地点において、同弁棒が折損し、弁傘部が落下してピストンとシリンダヘッドとに挟撃され、同機が異音を発した。
 当時、天候は曇で風力3の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、甲板上で異音に気付き、機関室に急行して1号補機を停止し、予備の2号補機を始動して船内電源を復旧後、前示弁棒の折損を認め1号補機の運転を断念し、その旨を船長に報告した。
 日東丸は、同月23日21時00分小樽港に帰港し、翌24日1号補機を精査した結果、6番シリンダのピストン、シリンダヘッドのほかに落下した弁傘部の破片によるシリンダライナ、連接棒及び過給機等の損傷が判明し、のち各損傷部品が新替えされた。
(第2)
 日東丸は、1号補機の事故(第1)後、修理用の各部品が取り寄せられるまで2号補機を運転し、操業が再開されることとなった。
 ところで、2号補機は、以前には1号補機と交互に切り替えられて運転されていたが、外気の影響でシリンダヘッドカバー内面に結露が発生したことから、吸気弁の内外両側弁ばねにさびを生じ、同弁ばねの経年衰耗が助長される状況にあった。
 しかし、A受審人は、平成12年4月に吸気弁の弁ばねがさびを生じる状態に気付いて2号補機を予備としていたが、また、シリンダヘッドが長期間整備されていないことを知っていたものの、操業が再開されるにあたり、1航海だけなら運転を続けて大丈夫と思い、出航前に同機のシリンダヘッドを開放するなどして吸気弁を整備することなく、そのまま同機を運転することとした。
 こうして、日東丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同年6月25日昼過ぎ2号補機を始動して15時00分小樽港を発し、武蔵堆漁場に至って操業を行い、翌26日19時00分揚網を終え、主機を停止して漂泊中、同月27日04時00分北緯44度55分東経140度24分の地点において、2号補機の6番シリンダ吸気弁の内外両側弁ばねが経年衰耗の進行により相次いで折損し、弁コッタが外れ、弁棒が脱落してピストンとシリンダヘッドとに挟撃され、同機が異音を発した。
 当時、天候は曇で風力3の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、自室で休息中、異音発生の連絡を受けて機関室に急行し、2号補機を停止した後、6番シリンダ吸気弁の内外両側弁ばねが折損して弁棒が脱落したことを認め同機の運転を断念し、船内電源を喪失して航行不能に陥った旨を船長に報告した。
 日東丸は、僚船により小樽港に曳航され、2号補機を精査した結果、6番シリンダのピストン、シリンダヘッド、シリンダライナ、連接棒及び過給機等の損傷が判明し、のち中古機関と換装された。

(原因)
(第1)
 本件機関損傷は、補機吸気弁の注油状態の点検が不十分で、強制潤滑系統のシリンダヘッド内部油路の詰まりにより注油量が不足したまま運転され、弁棒が弁案内と固着して弁傘底面がピストン頂面にたたかれたことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は、補機吸気弁の整備が不十分で、弁ばねが経年衰耗の進行により折損し、弁棒が脱落してピストンとシリンダヘッドとに挟撃されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
(第1)
 A受審人は、操業中に1号補機を運転する場合、強制潤滑系統の注油量が不足しないよう、毎日定期的に同機の吸気弁の注油状態を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで無難に運転していたから大丈夫と思い、吸気弁の注油状態を十分に点検しなかった職務上の過失により、注油量が不足したまま運転して弁棒と弁案内との固着を招き、弁棒が折損し、弁傘部が落下してピストン、シリンダヘッド、シリンダライナ、連接棒及び過給機等の損傷を生じさせるに至った。
(第2)
 A受審人は、1号補機の事故後操業の再開にあたり、予備としていた2号補機を運転する場合、シリンダヘッドが長期間整備されていなかったから、吸気弁の弁ばねにさびを生じるなど経年衰耗したものを使用しないよう、出航前に同機のシリンダヘッドを開放するなどして同弁を十分に整備すべき注意義務があった。しかるに、同人は、1航海だけなら運転を続けて大丈夫と思い、吸気弁を十分に整備しなかった職務上の過失により、弁ばねの経年衰耗を進行させて折損を招き、弁コッタが外れ、弁棒が脱落してピストン、シリンダヘッド、シリンダライナ、連接棒及び過給機等の損傷を生じさせるに至った。





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