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平成13年函審第29号
件名

漁船第八十一美島丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年9月19日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、織戸孝治)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第八十一美島丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
ピストン、シリンダライナのほか連接棒大端部、クランクピン軸受、クランク軸等の焼損

原因
主機軸受の潤滑油量の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機油受の潤滑油量の点検が不十分で、同油量が著しく不足して潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月15日14時00分
 北海道知床岬南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十一美島丸
総トン数 19トン
登録長 17.25メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 478キロワット
回転数 毎分1,450

3 事実の経過
 第八十一美島丸(以下「美島丸」という。)は、昭和62年10月に進水した、刺網漁業及びはえ縄漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社新潟鉄工所が製造した6NSD−M型と呼称するディーゼル機関を備え、操舵室に同機の遠隔操縦装置及び計器盤を装備していた。
 主機は、回転数及び燃料を制限する装置を付設して計画出力257キロワット同回転数毎分1,180の機関としたものであったが、就航後に同装置の設定が解除されており、また、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
 主機の潤滑油系統は、総油量が125リットルで、クランク室下部の油受から直結式潤滑油ポンプに吸引された油が、油冷却器を経て油圧力調整弁で4.0ないし6.0キログラム毎平方センチメートルに調圧され油こし器から油主管に入り、主軸受、クランクピン軸受及びピストンピンの系統、ピストン噴油金具の系統並びにカム軸及び動弁注油の系統等にそれぞれ分岐し、各部の潤滑あるいは冷却を行い油受に戻っていた。また、主機は、クランク室中央部下方に油受の検油棒が差し込まれており、機側にのみ潤滑油圧力計が装備され、潤滑油圧力が2.0キログラム毎平方センチメートル以下に低下すると操舵室の計器盤内に組み込まれた警報ブザー及び警報灯で潤滑油圧力低下警報が発せられるようになっていた。
 A受審人は、美島丸に就航以来船長として乗り組み、操船のほか主機の運転保守にあたり、北海道知円別漁港を根拠地として例年7月から11月20日までが刺網漁業、その後翌年1月末までがはえ縄漁業、2月から3月末までが再び刺網漁業を操業するもので、平成11年には3月末以降の休漁期間を利用して船体等の整備を行い、越えて7月に刺網漁業の日帰り操業を開始し、通常出港時から入港時まで10時間ばかり主機の連続運転を繰り返しており、同機の潤滑油については運転による消費分に見合う油量の補給及び3箇月経過ごと新油との交換等を甲板員に取り扱わせていた。
 美島丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同年11月15日01時00分知円別漁港を出航して知床岬沖合の漁場に向かった。
 ところが、A受審人は、知円別漁港の出航前に主機を始動する際、それまで連日の運転により油受の潤滑油量が消費されて補給を要する状態であったが、潤滑油が補給されているものと思い、同油量を点検しなかったので、その状態に気付かなかった。
 こうして、美島丸は、主機の潤滑油が補給されないまま、03時30分漁場に到着して操業し、きちじ約150キログラムを漁獲した後13時00分帰途に就き、A受審人が単独で操船して主機を全速力前進の回転数毎分1,300にかけ航行中、油受の潤滑油量が消費に伴い著しく不足して潤滑油ポンプが空気を吸い込み、各部の潤滑が阻害され、14時00分知床岬灯台から真方位133度4.2海里の地点において、2番及び5番シリンダのシリンダライナ摺動面の油膜が途切れてピストンが焼き付き始め、操舵室の警報ブザーが鳴るとともに潤滑油圧力低下警報灯が点灯した。
 当時、天候は曇で、風力1の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、操舵室で直ちに主機を停止回転数に減速してクラッチを中立位置とし、甲板員を機関室に急行させたところ、機側で潤滑油圧力の異常を認めて停止した旨の報告を同人から受け、同機の運転を断念した。
 美島丸は、僚船により知円別漁港に曳航され、主機を精査した結果、前示シリンダのピストン、シリンダライナのほか連接棒大端部、クランクピン軸受、クランク軸等の焼損が判明し、新機関と換装された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機油受の潤滑油量の点検が不十分で、潤滑油が補給されないまま運転が続けられ、同油量が著しく不足して潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転保守にあたり、出航前に同機を始動する場合、油受の潤滑油量が運転により消費されて不足しないよう、同油量を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油が補給されているものと思い、油受の潤滑油量を十分に点検しなかった職務上の過失により、同油を補給しないまま運転を続け、同油量が著しく不足して各部の潤滑が阻害される事態を招き、ピストン、シリンダライナのほかクランク軸等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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