(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月29日12時50分
対馬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二明神丸 |
総トン数 |
85トン |
登録長 |
33.50メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
673キロワット |
回転数 |
毎分810 |
3 事実の経過
第二明神丸(以下「明神丸」という。)は、昭和60年12月に進水した、大中型まき網漁業船団の灯船として操業に従事する鋼製漁船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が製造した6PA5LX型と称するディーゼル機関を備え、同機には同社製のNHP25AH型過給機が装備され、操業時主機は船橋で遠隔操作されていた。
主機は、定格出力1,250キロワット同回転数毎分1,000(以下、回転数は毎分のものとする。)の機関を燃料制限し、連続最大出力を673キロワット同回転数810としたものであったが、いつしか燃料制限装置の上限設定が変更され、全速力時の回転数を930として運転されていた。
ところで明神丸は、周年日本海中南部及び東シナ海で操業しており、年間の操業日数が約260日で、1日に1ないし3回の操業中、主機操縦ハンドルを回転数930相当位置から停止回転数相当位置まで急激に下げる操作によって過給機にサージングが生じており、1日当たり平均5ないし6回の頻度でサージングが生じていたことから、過給機インペラのスプライン加工部などに亀裂を生じるおそれがあった。
A受審人は、平成9年4月から機関長として乗船して機関の管理に当たっていたもので、乗船当初より操業中1日に何回も過給機にサージングを生じることを認めて操船者である船長に対し、過給機に悪い影響があるので回転数をゆっくり下げるようにたびたび申し入れたものの、操船上の必要性からか機関操作は改善されなかった。
明神丸は、過給機のサージングが繰り返されるうちインペラのスプライン加工部に亀裂を生じていたところ、平成11年5月中間検査で入渠し、過給機が開放整備されることとなった。
A受審人は、過給機の検査に際し、造船所に任せておけばインペラなど重要部についてはカラーチェックによる亀裂の有無点検など全てやってくれるものと思っていたところ、船主及び造船所から過給機の整備を請け負った業者はカラーチェックについての指示がなかったことからこれを施行せず、インペラのスプライン加工部に亀裂が生じていたことに気付かず、過給機のインペラを交換しないまま工事を完了した。
こうして明神丸は、同月17日出渠して20日から操業を始め、28日12時00分A受審人ほか5人が乗り組み、船首1.65メートル船尾2.60メートルの喫水で、僚船とともに島根県浜田港を発して対馬東方沖合の漁場に至って錨泊し、翌29日11時20分主機を始動後魚群がはねるのを発見して操業にかかり、主機回転数を種々に使用中、亀裂の進展していた過給機のインペラが破断し、12時50分北緯34度37分東経130度36分の地点において、過給機が大音を発した。
当時、天候は晴で風力3の西北西風が吹き、海上は穏やかであった。
甲板で作業中のA受審人は、機関室に赴いて過給機ブロワケースが割れているのを認めた。
損傷の結果、明神丸は、操業中の船団から離れ、過給機が損傷したまま主機を最低速回転で運転して帰港し、のち過給機が整備済みの完備品と取り替えられた。
(原因)
本件機関損傷は、操業中主機操縦ハンドルを、連続最大出力時の回転数を超えた全速力回転数相当位置から停止回転数相当位置まで急激に下げる操作によって過給機にサージングが生じるのを認めた際、操業中は主機回転数の上限を連続最大出力時の回転数とし、急激に回転数を下げないようにするなど過給機のサージング防止措置が不十分で、サージングの頻発でインペラに亀裂が生じたことと、過給機を開放整備した際、インペラの点検が不十分で、同亀裂に気付かないまま運転が続けられたこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が、過給機のサージング防止措置が不十分であったこと及びインペラの点検が不十分であったことは本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、操船者である船長に対して回転数をゆっくり下げるようにたびたび申し入れていたこと及び船主が過給機の開放整備を造船所に一任していたことに徴し、同受審人の職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。