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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成12年門審第112号
件名

漁船第十八海王丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年8月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(相田尚武、原 清澄、米原健一)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:第十八海王丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
1番及び2番主軸受、シリンダライナ及びクランクピン軸受等を損傷

原因
主機シリンダヘッドの点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機シリンダヘッドの点検が不十分で、排気弁案内から漏洩した排気ガスにより潤滑油が汚損劣化し、同油圧力が低下したまま運転が続けられ、潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年1月17日05時00分
 長崎県比田勝港北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八海王丸
総トン数 16トン
全長 18.90メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 380キロワット
回転数 毎分2,030

3 事実の経過
 第十八海王丸(以下「海王丸」という。)は、昭和63年4月に進水したいか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、株式会社Kが製造したEM665A−A型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置、計器盤及び警報盤を備えていた。
 主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付けられ、動力取出軸でバッテリー充電用発電機、操舵機用油圧ポンプのほか、集魚灯用発電機などをそれぞれ駆動できるようになっていた。
 主機のシリンダヘッドは、排気弁2本、吸気弁2本をそれぞれ配置した4弁式で、各弁が動弁装置により開閉されるようになっており、同ヘッド上部がヘッドカバーで密閉され、ロッカーアーム軸受部や各弁棒と弁案内との摺動部(しゅうどうぶ)などが強制潤滑方式により注油されていた。
 また、主機の潤滑油系統は、総量68リットルの潤滑油が、クランク室下オイルパンから直結の潤滑油ポンプで吸引して加圧され、潤滑油冷却器から同油こし器を経て同油主管に導かれ、各軸受部及び動弁装置などに供給されたのち、オイルパンに戻って循環するようになっており、同油系統には、同油圧力が0.5キログラム毎平方センチメートル(以下圧力は「キロ」で示す。)以下になると、操舵室の警報盤に組み込まれた警報ランプが点灯し、警報ブザーが作動する潤滑油圧力低下警報装置が備えられていた。
 A受審人は、就航時から海王丸に乗船し、主機の取扱いは甲板員の弟に一任し、始動前にオイルパン内の潤滑油量の点検と補給を、約350時間ごとに潤滑油の取替えを、適宜に同油こし器の交換などをそれぞれ行わせながら、年間約4,600時間の運転に従事していた。
 ところで、海王丸の主機は、平成7年ごろピストン抜出し及び吸・排気弁すり合せなどのシリンダヘッド整備を含む全般的な開放整備が行われたが、その後運転が続けられるうち、継続使用されていた排気弁棒と同弁案内の摩耗が進行し、摺動部から排気ガスがシリンダヘッド上部に漏洩(ろうえい)するようになり、潤滑油系統に燃焼残渣(ねんしょうざんさ)が混入して同油系統が汚損し始め、同油こし器が目詰まりするようになった。
 A受審人は、同11年7月ごろ潤滑油圧力が低下したので、弟に同油及び同油こし器を取り替えさせたものの、その後再び同油圧力が低下したため、修理業者に相談したが適切な助言を得られなかったことから、定期的に同油の取替えを行えば大事に至ることはないものと思い、ヘッドカバーを開けてシリンダヘッドの点検を行うことなく、排気ガスがシリンダヘッド上部に漏洩していることに気付かないまま、主機の運転を続けていた。
 そのため、海王丸は、主機排気弁案内から排気ガスが吹き抜けるようになり、潤滑油こし器の目詰まりが激しくなって、更に同油圧力が低下したものの、警報設定値までは至らないまま操業を繰り返すうち、1番及び2番主軸受部並びにシリンダライナとピストンの潤滑が阻害され、かき傷を生ずる状況となった。
 こうして、海王丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、同12年1月16日15時00分長崎県比田勝港を発し、16時40分ごろ対馬北東方沖合の漁場に至って操業に従事し、翌17日04時ごろ水揚げのため、漁場を発進し、同県下県郡位之端港へ向け、主機を回転数毎分1,650の全速力前進にかけて航行中、1番及び2番主軸受部に焼付きを生じ、シリンダライナとピストンが焼き付き始め、05時00分尉殿埼灯台から真方位058度4.7海里の地点において、主機の回転数が低下した。
 当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、海上には波高約1.5メートルの波浪があった。
 A受審人は、操舵室で操船中、主機の異状に気付いて操縦ハンドルを下げたところ、潤滑油圧力低下警報装置が作動するとともに、主機が自然に停止し、機関室へ赴いたところ異臭を感じたことから、再始動を断念し、僚船に救助を要請した。
 海王丸は、僚船に曳航されて位之端港に引き付けられ、のち主機を開放した結果、1番及び2番主軸受に焼付きを、全数のシリンダライナとクランクピン軸受にかき傷を、クランク軸とシリンダブロックに異常摩耗などをそれぞれ生じており、のち主機は換装された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機潤滑油圧力が低下した際、シリンダヘッドの点検が不十分で、排気弁案内から漏洩した排気ガスにより潤滑油が汚損劣化し、同油圧力が低下したまま運転が続けられ、主軸受など各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機潤滑油圧力の低下を認め、同油こし器を交換しても同油圧力の改善が見られなかった場合、排気弁案内からの排気ガスの漏洩を発見できるよう、ヘッドカバーを開けてシリンダヘッドの点検を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定期的に潤滑油の取替えを行えば大事に至ることはないものと思い、ヘッドカバーを開けてシリンダヘッドの点検を行わなかった職務上の過失により、排気弁案内からの排気ガスの漏洩に気付かないまま、潤滑油を汚損劣化させ、潤滑の阻害を招き、各軸受、シリンダライナ及びクランク軸などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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