(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年2月26日16時00分
兵庫県津名港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二明盛丸 |
総トン数 |
466トン |
全長 |
50.92メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
回転数 |
毎分315 |
3 事実の経過
第二明盛丸(以下「明盛丸」という。)は、昭和62年2月に進水した砂利採取運搬船で、富士ディーゼル株式会社製の6S27F2型ディーゼル機関を主機として装備し、主機の船尾側架構上に、I株式会社製のVTR201−2型と称する軸流式排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を備えていた。
過給機は、排気入口ケーシング、タービン車室、ブロワ車室及び軸流タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸などで構成されており、主機の排気ガスに曝される排気入口ケーシング及びタービン車室には、熱ひずみ防止のために冷却水ジャケットが設けられ、主機の冷却清水系統から冷却水が供給されるようになっていた。
ところで、冷却水ジャケットの水冷壁(以下「水冷壁」という。)は、排気ガス側からの腐食と冷却水側からの浸食とによって経年的に衰耗するため、過給機の取扱説明書には、稼動後2年以上経過したケーシングについては水冷壁を6箇月ごとに点検し、肉厚が3ミリメートル以下のところを発見した場合は応急補修を行うか速やかに新品と取り替えるよう記載されていた。
A受審人は、平成6年1月から機関長として乗り組み、1人で機関の運転及び保守管理に当たっていたもので、同11年3月に定期検査工事で修理業者に過給機を開放・整備させた際、水冷壁は長期間使用すると衰耗して破孔するおそれがあること及び排気入口ケーシングが取替え後5年以上経過していることを知っていたものの、過給機は清水で冷却されているうえ主機の燃焼状態もよかったので水冷壁はまだ破孔するほど衰耗していないだろうと思い、修理業者に同ケーシングの水冷壁の肉厚計測を指示するとともに、自らも目視点検を行うなど、同水冷壁の点検を十分に行わなかったので、同ケーシングの水冷壁に著しく衰耗している部分が存在し、破孔するおそれのある状態になっていることに気付かないまま、その後も月間100時間ほど主機を運転しながら運航を続けていた。
こうして、明盛丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首0.6メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、同12年2月26日15時30分兵庫県津名港を発して同県家島港に向かい、主機を全速力前進にかけて航行中、過給機排気入口ケーシング水冷壁の著しく衰耗していた部分が破孔して、冷却水が排気ガス側に噴出し、同日16時00分津名港佐野東防波堤灯台から真方位129度1,500メートルの地点において、煙突から白煙が噴き上げた。
当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、船尾甲板上で出港後の後片付けをしているときに煙突から白煙が噴出するのを認め、機関室に急行して直ちに主機を停止した。
この結果、明盛丸は、過給機の損傷によって主機の運転が不能となり、僚船に曳航されて家島港に引き付けられ、のち過給機排気入口ケーシングを新替えした。
(原因)
本件機関損傷は、定期検査工事で主機過給機の開放・整備が行われた際、排気入口ケーシングの水冷壁の点検が不十分で、同水冷壁が著しく衰耗している状態のまま、過給機の運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、定期検査工事で主機過給機の開放・整備を行った場合、過給機の水冷壁は長期間使用すると破孔するおそれがあること及び排気入口ケーシングが取替え後5年以上経過していることを知っていたのであるから、過給機の運転中に水冷壁が破孔することのないよう、修理業者に肉厚計測を行わせるとともに、自らも目視点検を行うなど、排気入口ケーシングの水冷壁の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、過給機は清水で冷却されているうえ主機の燃焼状態もよかったので水冷壁はまだ破孔するほど衰耗していないだろうと思い、同水冷壁の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、主機の運転中に過給機排気入口ケーシングの水冷壁に破孔を生じさせるに至った。