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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年仙審第2号
件名

押船第二十八庄内機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年8月3日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹、東 晴二、喜多 保)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:第二十八庄内船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
右舷機の過給機、燃料カム、燃料噴射ポンプ駆動ローラ等を損傷

原因
主機の高負荷域運転の防止措置不十分

主文

 本件機関損傷は、荒天に遭遇した際、主機の高負荷域運転の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月25日05時00分
 新潟県柏崎港北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 押船第二十八庄内 被押台船海竜
総トン数 19トン  
載貨重量   約1,200トン
全長 13.30メートル 46.80メートル
  19.00メートル
深さ   3.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ
・ディーゼル機関
 
出力 1,176キロワット  
回転数 毎分1,400  

3 事実の経過
 第二十八庄内(以下「庄内」という。)は、昭和63年4月に進水し、船首部を海竜の船尾凹部に嵌合(かんごう)して、同船とアーティーカップリングと称する油圧装置で連結した2基2軸の鋼製押船で、主機として、Y株式会社が製造した6N165−EN型ディーゼル機関を装備し、各軸系には逆転減速機及び固定ピッチプロペラを備え、専ら山形県近辺の海域で浚渫や魚礁据付等の工事に従事していた。
 主機は、機関室の左右両舷(以下、右舷側主機を「右舷機」、左舷側主機を「左舷機」という。)に据え付けられ、操舵室及びその上方に設けた上部操舵室のいずれからも遠隔操作ができるようになっていて、右舷機前部動力取出軸で、船内電源用発電機及び操舵機用油圧ポンプを直接ベルト駆動し、左舷機前部動力取出軸でアーティーカップリング用油圧ポンプを、同油圧により自動嵌脱するクラッチを介して駆動していた。
 ところで、主機は、平成3年に2基とも前示主機に換装したもので、シリンダには船尾側を1番として6番までの順番号が付され、シリンダごとにボッシュ式燃料噴射ポンプ(以下「燃料ポンプ」という。)を備え、燃料油にはA重油を使用しており、また、連続最大出力以上の出力で運転されることのないよう負荷制限装置によって燃料ポンプのラック移動が制限されていた。
 A受審人は、庄内の就航以来同船に船長として乗り組み、操船のほか機関の運転保守管理にも当たり、平成12年1月第3回定期検査の際の船体及び機関整備に立ち会い、整備業者によって主機のピストン抜き、燃料ポンプ、燃料噴射弁、吸排気弁、過給機の整備などのほか、プロペラ軸の抜き出し整備、船底掃除等も行われ、同検査を終えて翌2月から浚渫、魚礁据付等の工事に従事し、同月からの主機の運転時間は、半年余り経過したところで約400時間であった。
 庄内は、A受審人ほか1人が乗り組み、消波ブロック据付工事に就く目的で、船首1.2メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、空船で船首尾とも1.2メートルの等喫水となった海竜に作業員5人を乗せ、同年9月24日10時50分山形県酒田港を発し、両舷機を回転数毎分1,350(以下、回転数は毎分のものとする。)にかけて7ないし8ノットの全速力前進で、新潟県直江津港に向かい、同人が出港後目的地まで単独で操船に当たっていたところ、当時日本海を発達しながら近づいてきた低気圧の影響で、20時ごろから強まった南西風を右舷前方から受けて速力が徐々に低下するとともに、海上が時化(しけ)模様となってピッチングし始め、主機の負荷変動が次第に大きくなり、トルクリッチ運転となっているおそれがあったが、同人は、早く目的地に着きたいと思い、回転を下げるなどして、高負荷域運転の防止措置をとらず、操縦ハンドルの位置を出港時のままとして航行した。
 このため発電機駆動等の影響で負荷がより高い右舷機は、負荷変動に伴う回転のハンチングにより、各シリンダの燃料ポンプ駆動ローラ及び燃料カムが叩かれて摩耗し、過給機にはサージングが頻発してロータ軸に異常なスラスト力が繰り返し働き、タービン翼車がケーシングと接触するとともにロータ軸が上下に振動して軸受が著しく摩耗し、ロータ軸とタービン翼車の付け根に異常な力が作用して亀裂(きれつ)を生じた。
 その後風波が一層強まり、翌25日01時00分ごろには、船速が4ノット程度に低下したものの、A受審人は、依然主機の回転を下げないで航行中、主機のトルクリッチ運転による各シリンダの異常燃焼が進み、燃焼ガスのクランク室への吹き抜けが多くなり、02時30分ごろふと操舵室後方を振り向いたとき、右舷機煙突横のミスト抜き管から白いミストガスが排出されているのを認め、主機回転計を見たところ右舷機の回転がハンチングして1,200まで低下していたので、両舷機の回転数を1,000に下げて続航した。
 こうして庄内は、荒天の中、主機の回転は下げられて運転されたものの、過給機ロータ軸に生じていた亀裂が進展してついに折損し、右舷機が吸気不足となってシリンダから未燃焼状態の燃料油が排出され、同日05時00分柏崎港西防波堤灯台から真方位324度5.2海里の地点において、右舷機煙突から大量の白煙が噴き出した。
 当時、天候は雨で風力6の南風が吹き、海上は波が高かった。
 A受審人は、異音とともに煙突からの大量の白煙を認めて右舷機の回転を停止回転数の600に下げ、ほぼ同時に機関室に降りた甲板員が過給機の赤熱等の異状に気が付き、右舷機を停止するよう知らせてきたので投錨したうえ、05時30分ごろ右舷機を停止したが、左舷機のみでの航行は不能と判断して救助を求めた。
 庄内は、来援した巡視船に曳航されて新潟県柏崎港に入港し、のち過給機、カム軸、6番シリンダの燃料ポンプ及び駆動ローラ、並びに1ないし5番シリンダの燃料ポンププランジャ及び駆動ローラ等が新替えされた。

(原因)
 本件機関損傷は、全速力で台船を押航中、荒天に遭遇して船速が低下した際、主機の高負荷域運転の防止措置が不十分で、過給機にサージングが頻発し、燃料カム及び燃料噴射ポンプ駆動ローラに過大な力が作用した状態で運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、全速力で台船を押航中、荒天に遭遇して船速が低下したのを認めた場合、主機がトルクリッチ運転となっているおそれがあったから、回転を下げるなどして、高負荷域運転の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、早く目的地に着きたいと思い、回転を下げるなどの十分な高負荷域運転の防止措置をとらなかった職務上の過失により、高負荷域においてトルクリッチ運転を続け、右舷機の過給機、燃料カム、燃料噴射ポンプ駆動ローラ等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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