(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月7日04時20分
長崎県福江港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八豊日丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
18.25メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット(定格出力) |
回転数 |
毎分1,400 |
3 事実の経過
第十八豊日丸(以下「豊日丸」という。)は、平成元年1月に進水したまき網漁業船団の鋼製運搬船で、主機として、Y株式会社が製造した6N165−EN型と称するディーゼル機関を備え、操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
主機は、各シリンダに船首側を1番として順番号が付されており、クランク室底部に約200リットル入れられた潤滑油が、直結の潤滑油ポンプで吸引・加圧され、目の大きさが200メッシュの金網式潤滑油こし器及び潤滑油冷却器を経て潤滑油主管に至り、同主管から各シリンダに分岐して主軸受、クランク軸受、ピストンピン軸受に供給されたのち油だまりに戻って循環するようになっていた。
豊日丸は、夕刻出港して五島列島周辺海域で操業し、翌朝帰港する運航形態で、年間約200日出漁しており、主機運転時間は月間約300時間であった。
A受審人は、豊日丸就航時から船長として乗船していたが、同就航時から機関管理の全てをB受審人に任せていた。
B受審人は、平成9年10月ピストン抜き整備を施行し、その後2ないし3箇月ごとに潤滑油の取替え及び潤滑油こし器の掃除を業者に依頼して主機の管理に当たっていたが、同12年3月初旬潤滑油こし器の掃除を依頼した際、同業者が潤滑油こし器の金網に長さ約10ミリメートル幅5ミリメートルの破損を生じさせたが、いつもの業者に任せているので大丈夫と思い、潤滑油こし器を点検することなく、このことに気付かなかった。
主機は、潤滑油中の劣化物や燃焼残渣(ざんさ)などの異物が潤滑油こし器で取り除かれないまま運転が続けられるうち、異物が1番シリンダクランクピン軸受に侵入し、同軸受の潤滑が阻害されるようになった。
こうして豊日丸は、A受審人、B受審人ほか2人が乗り組み、船首1.5メートル船尾2.0メートルの喫水で、平成12年6月6日17時僚船とともに長崎県奈留島港を発し、五島列島福江島南方の漁場に至って操業し、翌7日03時操業を終え、主機回転数を毎分約1,350の全速力で同港に向け福江港沖合を航行中、1番シリンダのクランクピン軸受が焼損し、同時に同シリンダの油穴が塞がれてピストンピン軸受が焼損するとともにピストンが過熱膨張し、04時20分黄島灯台から真方位005度6.6海里の地点において、主機が異音を発するとともに回転が低下した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
船橋当直中のB受審人は、直ちに機関室に赴いて主機を停止した。
損傷の結果、豊日丸は、航行不能となって僚船に引かれて帰港し、のち前示の損傷部品及びクランク軸、全主軸受メタルなどが取り替えられて修理された。
(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油こし器の掃除を業者に依頼した際、同こし器の点検が不十分で、同こし器の金網が破損したまま主機の運転が続けられるうち、潤滑油の劣化物や燃焼残渣などの異物がクランクピン軸受に侵入し、同軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人が、機関管理責任者として主機潤滑油こし器の掃除を業者に依頼した場合、同こし器を十分点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、いつもの業者に任せているので大丈夫と思い、同こし器を点検しなかった職務上の過失により、同こし器の金網が破損していることに気付かないまま主機の運転を続け、クランク軸、主軸受、クランクピン軸受、ピストンピン軸受などを損傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。