(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月2日14時30分
長崎県黒島沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八十八翔龍 |
総トン数 |
80トン |
全長 |
34.97メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
669キロワット |
回転数毎分 |
600 |
3 事実の経過
第八十八翔龍(以下「翔龍」という。)は、昭和59年11月に進水した、大中型まき網漁業船団の網船として操業に従事する鋼製漁船で、主機として、Y株式会社が製造したT250−ET2型と称するディーゼル機関を備えていた。
過給機は、石川島播磨重工業株式会社が製造したVTR201型と称するもので、ロータ軸の両端が玉軸受で支持されており、ブロワ及びタービン側それぞれの軸受室に潤滑油が約0.8リットル張り込まれ、同油が両軸端に組み込まれたポンプ円板によって吸引されて各玉軸受に強制注油されるようになっていた。
ところで、過給機ロータ軸のタービン側軸封部にはブロワ吐出空気の一部が送られ、タービン側軸受室への主機排気の流入及び同室潤滑油の主機排気側への漏えいを防止しており、タービン側軸受室潤滑油の汚損及び減少が認められるときは、同シール空気通路が閉塞しているおそれがあり、応急的に潤滑油の取替えを励行のうえ、できるだけ早期に過給機を開放整備しないと、軸受が損傷するおそれがあった。
翔龍は、通常16ないし17時ごろ出港して沿岸10海里以内で操業し、翌日07ないし08時ごろ帰港する運航形態で、年間約230日出漁しており、月間の主機運転時間が約300時間であった。
A受審人は、平成10年8月から機関長として乗船して機関の管理に当たっていたもので、同12年2月定期検査で過給機の開放整備を造船所に依頼し、玉軸受及び軸封部のラビリンスブッシュなどを新替えさせたのち、適宜過給機の潤滑油量を点検し、1箇月に1回程度少量を補給していた。
過給機は、いつしかタービン側シール空気通路が閉塞し、タービン側軸受室に主機排気が侵入するようになって潤滑油が汚損・劣化し、色相が次第に黒くなった。
A受審人は、同年7月ごろ過給機タービン側軸受室の潤滑油色相が黒くなっていることに気付いたが、ブロワ側は変化がないので大丈夫と思い、同油を取り替えることなく運転を続け、同年9月2日出漁前に点検したときは、同油が真っ黒になっていたが、依然、同油を取り替えなかった。
こうして翔龍は、A受審人ほか17人が乗り組み、船首2.6メートル船尾3.4メートルの喫水で、同日14時僚船とともに佐世保市大崎を発し、五島列島西方の漁場に向けて主機回転数を毎分約600の全速力で長崎県黒島沖合を航行中、潤滑が阻害された過給機タービン側軸受が焼損してタービンブレード及びブロワインペラが各ケーシングと接触し、14時30分牛ケ首灯台から真方位265度3海里の地点において、異音を発した。
当時、天候は晴で風力3の西南西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、機関室に赴いたところ、過給機タービン側から発煙し、同軸受室が著しく発熱していることを認めた。
損傷の結果、翔龍は、操業不能となって主機を最低速回転として帰港し、のち過給機が新替えされた。
(原因)
本件機関損傷は、過給機タービン側軸受室潤滑油の色相が黒くなったのを認めた際、同油の取替えが不十分で、同油が汚損・劣化したまま運転が続けられ、同軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が、過給機タービン側軸受室潤滑油の色相が黒くなったのを認めた場合、同現象はシール空気通路が閉塞し、軸受室に主機排気が侵入して同油が汚損・劣化したことを示すものであるから、過給機を開放整備するまでの間、同軸受の潤滑が阻害されることのないよう、同油の取替えを励行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、ブロワ側は異常ないので大丈夫と思い、同油を取り替えないまま運転を続けた職務上の過失により、軸受焼損及びタービンブレード、ブロワインペラなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。