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平成13年横審第16号
件名

漁船第三共進丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年7月3日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(吉川 進、黒岩 貢、花原敏朗)

理事官
寺戸和夫

受審人
A 職名:第三共進丸一等機関士 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
主軸受、クランクピン軸受を損傷

原因
補機等の整備の点検、取扱不良

主文

 本件機関損傷は、補機の複式潤滑油こし器に装着されたドレンプラグのねじのピッチが適合していなかったこと、及び補機が運転中、同プラグから潤滑油が漏えいした際、ただちに漏えいしたこし器が切替コックで隔離されなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成9年10月9日14時15分
 太平洋東部

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三共進丸
総トン数 379トン
全長 53.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
補機の種類 4サイクル・6シリンダディーゼル機関
出力 308キロワット
回転数毎分 1,200

3 事実の経過
 第三共進丸(以下「共進丸」という。)は、昭和58年10月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事する漁船で、機関室下段中央に主機を、その両舷に電圧225ボルト容量330キロボルトアンペアの三相交流発電機を駆動する補機を1基ずつ装備していた。
 補機は、Y株式会社が製造した、S165L−DT型と呼称するディーゼル機関で、鋳鉄製シリンダブロックの下部に溶接鋼板製のオイルパンを取り付け、左舷側に始動ハンドルを、右舷側に潤滑油こし器をそれぞれ備えており、右舷補機が1号、左舷補機が2号と呼ばれていた。
 補機の潤滑油系統は、オイルパンの潤滑油が潤滑油ポンプ(以下潤滑油系統の機器については、潤滑油を省略する。)に吸い上げられ、約6キログラム重毎平方センチメートル(以下圧力は「キロ」で示す。)に加圧されてこし器と冷却器を経て主管に至り、同管から主軸受、伝動歯車装置、過給機等に送られ、潤滑及び冷却を終えて再びオイルパンに戻るようになっており、主管入口圧力が4.5キロ以下に低下すると機関室、船橋及び機関長室にて警報を発するようになっていたが、圧力低下による自動停止の保護機能は備えられていなかった。また、オイルパンには検油棒が差し込まれ、標準油量約150リットルの位置を中心に上限及び下限の刻印が付され、下限の量が約70リットルであった。
 こし器は、切替コックの付いた複式のもので、鋳鉄製の本体下部に、薄鋼板製のケースに200メッシュの金網式エレメントを収納して長さ約300ミリメートル(以下「ミリ」という。)のセンターボルトで締め付け、各ケースの下部に、呼び径10ミリ、ねじのピッチ1.25ミリのドレンプラグを装着しており、通常は両エレメントに通油されていたが、単独でも運転中の通油量を確保できるものであった。
 こし器の切替コックは、テーパー形状のコックで、こし器本体の中央部に挿入され、グランド部にシール用Oリングとゴム製パッキンを取り付けた上から小判形のパッキン押えで締め込まれており、コック頭部の刻印が中央になる位置で両エレメントに通油し、左右いずれかに90度回すとエレメントを単独使用できるもので、操作に当たってはパッキン押えを緩める必要があった。
 A受審人は、共進丸の就航時から機関士として乗船し、機関の運転と整備に携わっており、給電のために運転する補機を機関長が10ないし15日毎に切り替え、停止した補機について、専らこし器エレメントの掃除及び潤滑油の補給と取替えを行っていたところ、平成8年ごろ1号補機の同エレメントを掃除するために緩めた船尾側こし器のドレンプラグを床下に落として紛失し、予備品が用意されていたことを知らなかったので、代わりに頭部の対辺角とねじの呼び径が同寸法で、ねじのピッチが1.5ミリの六角ボルトのねじ部を短く切断して装着した。
 その結果、1号補機は、船尾側こし器のドレンプラグが、ケース側のめねじとピッチが適合しておらず、ねじ山がかかっている部分がわずかで、その後、使用されるうち、ねじ山が徐々に摩耗して締付力が低下するところとなった。
 共進丸は、A受審人ほか19人が乗り組み、平成9年9月24日船首2.9メートル船尾5.0メートルの喫水をもってエクアドル共和国マンタ港を発し、越えて10月1日ペルー西方の漁場に至り、1号補機を運転して操業を続けていたところ、同月9日第9回目の揚縄を行っているうち、同補機の船尾側こし器のドレンプラグから潤滑油が漏えいし、オイルパンの潤滑油量が減少し始めた。
 A受審人は、機関室に入直し、14時ごろ各部を見回っていたところ、1号補機のオイルパンの潤滑油液位が検油棒の下限マーク付近まで減少していることに気付いて各部を点検し、船尾側こし器のドレンプラグから潤滑油が漏えいして床板上に滴下していることを発見したが、ただちに切替コックを回して、漏えいしたこし器を隔離することなく、同プラグを増締めした。
 1号補機の船尾側こし器は、ドレンプラグからの漏えいが止まらず、同プラグの増締めによってこし器ケース側のめねじとおねじとのかかりが失われ、辛うじて同プラグが残っている状態となった。
 A受審人は、1号補機の漏えいしているドレンプラグの代わりに2号補機のものを入れようと考え、停止中の2号補機のこし器のドレンプラグを外したうえで、再び1号補機に戻り、漏えいしているこし器を隔離すべくコックハンドルを倒そうとしたが、パッキン押えを緩めなかったので同ハンドルを容易に回すことができなかった。
 こうして、共進丸は、1号補機のこし器ドレンプラグから潤滑油が漏えいし続けていたところ、同ドレンプラグが潤滑油圧力に抗しきれずに脱落し、潤滑油が噴出して同圧力低下警報が吹鳴したが、A受審人が1号補機のハンドルを下げて停止しなかったばかりか、バックアップをしようと慌てて2号補機に向かい、直前に切替コックで隔離せずに片側のこし器からドレンプラグを外したことを失念して2号補機を始動したので、両補機とも潤滑油圧力を喪失したまま運転状態となり、14時15分南緯12度0分西経97度14分の地点において、1号補機の潤滑が阻害されて軸受が焼き付き、自停して船内が停電状態になり、続いて2号補機もドレンプラグの外されたこし器から潤滑油が流出して同圧力が全く立ち上がらないまま同様に自停した。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹いていた。
 A受審人は、1号補機の停止で停電したあと、2号補機も続けて停止したのでようやく同機のこし器ドレンプラグを外したことを思い出し、駆けつけた機関長とともに両補機を点検したが、いずれも運転不能であることを認めた。
 共進丸は、運航不能となって救助を求め、近くで操業していた僚船にえい航され、更に来援した引船に引き継がれてマンタ港に戻り、精査の結果、両補機のすべての主軸受、クランクピン軸受がクランク軸と焼き付いて同軸ジャーナル部の硬度が低下し、連接棒、シリンダブロック軸受台等がいずれも熱変形し、過給機及びポンプが焼損しており、のち両機の損傷部が新替えされた。

(原因)
 本件機関損傷は、補機の複式こし器エレメントの掃除に当たってドレンプラグが紛失した際、装着された代替品のねじのピッチが不適合で、その後使用されるうちにかかっていたねじ山が摩耗したこと、及び自動停止の保護機能のない同補機が運転中、同プラグから潤滑油が漏えいした際、漏えいしたこし器がただちに切替コックで隔離されず、同プラグが増締めされてねじ山のかかりがなくなり、潤滑油圧力によって同プラグが脱落し、更に、こし器からドレンプラグが外されていた停止中の補機が慌てて始動され、両補機が潤滑油圧力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、補機の運転中、潤滑油こし器のドレンプラグから潤滑油が漏えいしているのを認めた場合、以前に同プラグを紛失した際に市販のボルトを短く切って代用しており、ねじ山のかかりが悪くなっていることが考えられたのであるから、潤滑油圧力がかかったまま同プラグを操作して脱落することのないよう、ただちに切替コックを回し、漏えいしたこし器を隔離すべき注意義務があった。しかるに、同人は、ただちに切替コックを回し、漏えいしたこし器を隔離しなかった職務上の過失により、増締めによってねじのかかりがなくなったドレンプラグが潤滑油圧力によって脱落する事態を招き、更に予備の補機を、漏えいした運転中の補機ドレンプラグの代わりとするために切替コックで隔離せずに外した状況で慌てて始動し、両補機の潤滑油圧力を喪失させ、軸受、クランク軸など主要部を損傷させ、運航不能とならしめるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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