(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月17日16時50分
宮城県女川港内
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十八大勝丸 |
総トン数 |
65トン |
登録長 |
25.20メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
956キロワット |
回転数毎分 |
410 |
3 事実の経過
第二十八大勝丸(以下「大勝丸」という。)は、昭和62年6月に進水し、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社Rが製造したK26SFD型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室から主機の回転数及び可変ピッチプロペラの翼角制御ができるようになっていた。
主機過給機(以下「過給機」という。)は、I株式会社が製造したVTR201−2型と呼称する水冷式軸流排気タービン過給機で、主機本体の船尾側上部に取り付けられ、ロータ軸がタービン側の単列玉軸受、ブロワ側の複列玉軸受で支持されており、潤滑油がタービン側軸受ケーシングに標準油量0.3リットル、ブロワ側軸受ケーシングに同油量0.5リットルそれぞれ入れられ、同油が各ポンプ円板により吸引されて軸受に給油されるようになっていた。
また、過給機ロータ軸各軸受の潤滑油は、粘度等級ISO−VG68相当のタービン油または作動油を使用することになっており、大勝丸では同粘度等級の作動油(以下「68番作動油」という。)を使用し、68番作動油の入った20リットル円筒缶が、甲板ウィンチ油圧ポンプ用の粘度等級ISO−VG46相当の作動油(以下「46番作動油」という。)の入った20リットル円筒缶とともに機関室に並べて置いてあり、缶表面には、粘度等級68、同46を明記した商品名がそれぞれ表示されていた。
A受審人は、平成10年8月大勝丸に機関長として乗り組み、過給機については、毎年宮城県石巻市内の鉄工所が開放整備をしていたところ、同12年8月に合入渠した際、同鉄工所がロータ軸の軸受を新替えするなどして開放整備したうえ、両軸受ケーシングに所定の68番作動油を入れ、主機を試運転して過給機に異状のないことを確認した。
ところで、A受審人は、過給機内に開放整備した際に混入したごみなどが残存していると、運転中、軸受等に悪影響を及ぼすので、ごみなどの除去目的で、前示主機試運転後、自ら潤滑油を新油と交換することとしたが、潤滑油の粘度等級を十分に確認しなかったので、所定の粘度より低い46番作動油を両軸受ケーシングに入れ、そのことに気が付かないまま同月末に合入渠中の機関整備を終了した。
大勝丸は、翌9月1日から宮城県女川港を基地として1航海3ないし4日の操業を繰り返していたところ、過給機は、粘度の低い46番作動油で運転されたため両軸受の油膜保持が困難となり、特にタービン側軸受は、油温が排気ガスなどの影響を受けてブロワ側軸受よりも高温となっていたことから、更に粘度低下した状態で運転され、高負荷運転時などには油膜切れ気味となった。
こうして、大勝丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首2.50メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、同月16日01時30分女川港を発し、同港東方沖合の漁場に至って05時ごろ操業を開始し、翌17日14時30分操業を打ち切り、同漁場を女川港に向けて発進し、主機を回転数毎分410プロペラ翼角を18.5度として、11.5ノットの全速力で帰航中、過給機タービン側軸受が潤滑油の粘度低下による油膜切れで焼損し、16時50分女川港北防波堤灯台から真方位119度2.8海里の地点において、主機が吸気不足となって異音を発するとともに煙突から黒煙が噴き出した。
当時、天候は曇で風力3の南南東風が吹き、海上には多少波があった。
A受審人は、船尾甲板で入港準備中、異状に気付いて機関室に降り、操縦場所を機側に切り替えて主機の回転を下げ、過給機の過熱と異音を認めたが、速力を落としての航行は可能と判断し、その旨を船長に報告した。
大勝丸は、主機を回転数毎分270プロペラ翼角を5度として、3ノットの微速力で女川港の岸壁に着岸し、のち損傷した過給機のロータ軸、ノズル、タービン側及びブロワ側の各軸受、各ポンプ円板等を新替えした。
(原因)
本件機関損傷は、主機過給機の潤滑油を交換するにあたり、粘度等級の確認が不十分で、所定粘度よりも低い潤滑油で運転され、ロータ軸タービン側軸受が油膜切れを起こしたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機過給機の潤滑油を交換する場合、所定粘度の潤滑油で運転されるよう、潤滑油の粘度等級を十分確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油の粘度等級を十分に確認しなかった職務上の過失により、所定粘度より低い潤滑油と交換して、ロータ軸タービン側軸受の油膜切れを招き、ロータ軸、ノズル、ポンプ円板等を損傷させるに至った。