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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年仙審第8号
件名

漁船第八日昇丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年7月17日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹、東 晴二、喜多 保)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:第八日昇丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
シリンダヘッド、シリンダライナ、排気カム及びカムローラ、過給機のノズルリング及びロータ軸等が損傷

原因
主機排気弁の整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機排気弁の整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月23日13時15分
 金華山東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八日昇丸
総トン数 84.87トン
全長 36.10メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット(計画出力)
回転数毎分 610(計画回転数)

3 事実の経過
 第八日昇丸(以下「日昇丸」という。)は、昭和55年1月に進水したかつお1本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したT260−ET2型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されており、推進軸系には、逆転減速機及び固定ピッチプロペラを備えていた。
 主機の吸排気弁は、4弁式で、シリンダヘッドには耐熱鋼(材料記号SUH3)製の排気弁が船首側左右に、同弁と同じ耐熱鋼製の吸気弁が船尾側左右に弁箱なしでじかにそれぞれ取り付けられ、吸排気弁の各2弁が1組のロッカーアームで駆動されており、各弁の弁案内として、鋳鉄(材料記号FC25)製のブッシュがはめ込まれていた。
 また、主機の弁腕注油系統は、弁腕タンク内の潤滑油が注油ポンプにより吸引加圧されて注油主管に送られ、各シリンダの枝管を分流し、ロッカーアーム軸及びロッカーアームの油孔を通って吸排気弁の弁棒頭部に注油され、弁案内部を潤滑するようになっており、バルブローテータ、弁ばね等を潤滑してシリンダヘッド上面に落下した潤滑油は、弁腕タンクに戻るようになっていた。
 ところで、日昇丸は、例年2月下旬ないし3月上旬に高知県土佐清水港を発して同県沖合から1航海3ないし5日間の操業を開始し、海水温度の上昇とともに北上しながら11月下旬に三陸ないし北海道沖合に至って、年内に操業を終了する操業形態をとっており、そのあと翌年の操業開始までが休漁期間で、同期間中に高知港の造船所に上架して船体及び機関を整備し、その際、主機のピストン抜き、吸排気弁、燃料噴射弁、過給機などの整備については、毎年業者が行っていた。
 A受審人は、日昇丸の就航以来同船に機関長として乗り組み、機関部員4人を指揮して機関の運転及び保守管理に当たり、平成12年2月の合入渠工事の際には、こし器掃除などの船内作業に当たるとともに業者の機関整備に立ち会い、同月下旬同工事を終えて、日昇丸は、例年どおり高知県沖合から操業を開始し、魚群を追って徐々に北上しながら操業を繰り返していた。
 同年9月上旬、A受審人は、運転中の主機各シリンダのシリンダヘッドカバーを開放して動弁装置の作動や注油状況を点検したところ、6番シリンダ左舷側排気弁の弁案内部から排気ガスが漏洩しているのを認め、弁案内あるいは弁棒が摩耗して弁案内部の間隙が過大となっているおそれがあったが、排気温度などの運転諸元に異状がないので大丈夫と思い、早期に弁案内を新替えするなどして、同排気弁を十分に整備しなかった。
 その後、主機6番シリンダ左舷側排気弁の弁案内部は、漏洩した高温の排気ガスで潤滑が阻害されて摩耗が進み、同ガスの漏洩が次第に多くなるとともに潤滑阻害も一層進んで膠着気味(こうちゃくぎみ)となり、このため、動弁装置の各部に過大な力が加わり、A受審人は、同月15日当直中、6番シリンダ動弁装置の作動音が少し大きいと感じたものの、依然排気温度などに異状がなかったことから、そのまま主機の運転を続けた。
 こうして、日昇丸は、A受審人ほか19人が乗り組み、操業の目的で、船首2.30メートル船尾2.40メートルの喫水をもって、同月20日20時00分福島県中之作港を発し、翌々22日早朝釧路港南東方沖合の漁場で操業を開始し、かつお40トンを獲て、水揚げのため同日17時40分同漁場を千葉県勝浦港に向けて発進し、主機を回転数毎分600にかけて約10ノットの全速力で航行中、主機6番シリンダ左舷側排気弁が膠着により閉まりが遅れて上昇ピストンに叩かれ、翌23日13時15分金華山灯台から真方位109度10.5海里の地点において、同排気弁の弁傘部が割損してピストン頂部に破口を生じ、破損片が過給機に飛び込んで大音を発し、主機の回転が低下した。
 当時、天候は曇で風力3の南東風が吹き、海上はやや波があった。
 A受審人は、機関室を出て食堂に向かう途中、主機運転音の変化で異状に気付き、同室に急いで降りて主機を停止のうえ、ターニングしながら各部を点検したところ、6番シリンダのプッシュロッドが2本とも曲損し、吸排気弁4本が曲損して固着状態にあるのを発見し、運転不能と判断して船長に報告した。
 日昇丸は、来援した僚船に曳航されて翌24日00時30分宮城県石巻港の岸壁に着岸し、主機メーカーが精査したところ、前記損傷のほか主機6番シリンダのシリンダヘッド、シリンダライナ、排気カム及びカムローラ、過給機のノズルリング及びロータ軸等が損傷していることが判明し、のち排気カムは部品の手配が付かないため応急補修されたが、ほかの損傷部品はすべて新替えされた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機排気弁の弁案内部から排気ガスが漏洩した際、排気弁の整備が不十分で、同案内部の潤滑が阻害されたまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機排気弁の弁案内部から排気ガスが漏洩しているのを認めた場合、同案内部の間隙が過大となっているおそれがあったから、同案内部が潤滑阻害で膠着することのないよう、早期に弁案内を新替えするなどして、排気弁を十分に整備すべき注意義務があった。しかるに、同人は、排気温度などの運転諸元に異状がないので大丈夫と思い、早期に弁案内を新替えするなどして、排気弁を十分に整備しなかった職務上の過失により、弁案内部の潤滑が阻害されて膠着を招き、排気弁の弁傘部がピストンに叩かれて割損し、シリンダヘッド、ピストン、シリンダライナ、プッシュロッド、排気カム、過給機のロータ軸等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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