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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年函審第22号
件名

漁船第八十五日東丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年7月31日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、織戸孝治)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第八十五日東丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
シリンダヘッド、ピストン及びシリンダライナの各燃焼室面並びに過給機タービン部等の損傷

原因
主機排気弁の整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機排気弁の整備が不十分で、弁棒が固着したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月2日00時55分
 北海道積丹岬北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十五日東丸
総トン数 160トン
全長 38.37メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 956キロワット(計画出力)
回転数毎分 605(計画回転数)

3 事実の経過
 第八十五日東丸(以下「日東丸」という。)は、平成6年10月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として阪神内燃機工業株式会社が製造した6MUH28A型と呼称するディーゼル機関を備え、可変ピッチプロペラを装備していた。
 主機は、連続最大出力1,618キロワット連続最高回転数毎分720(以下、回転数は毎分のものを示す。)の原機に燃料最大噴射量制限装置を付設して計画出力956キロワット同回転数605としたもので、同出力及び回転数におけるプロペラ翼角が21.7度であった。
 主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付され、シリンダヘッドの船首方及び船尾方の左右両側にそれぞれ2個の排気弁及び吸気弁が直接組み込まれた4弁式構造で、排気弁及び吸気弁が各1組の動弁装置により駆動されていた。排気弁は、弁棒軸部基準径22ミリメートルの耐熱鋼(種類記号SUH31)製きのこ弁で、弁座との当たり面の弁傘部にステライト盛金が施され、弁棒頂部にバルブローテータが装着されていた。
 ところで、排気弁は、強制潤滑がなされていて、自動補給される容量15リットルの油タンクの潤滑油が電動注油器により加圧されて2系統の主管に分岐し、一方の系統の油がシリンダヘッドごとの各枝管を経て動弁装置のロッカーアーム軸受部を潤滑したのち、ロッカーアーム内部の油穴を通って弁棒と弁案内とを連続的に注油するほか、プッシュロッド内部の油穴からタペット案内及びローラピンに至り、また、シリンダヘッド上部に流れ出た油がドレン油管を経て同タンクに戻り、さらに他方の系統の油が各枝管からシリンダヘッド内部の油穴を経て弁棒と弁案内とを間欠的に注油するようになっていた。
 A受審人は、平成11年7月末から日東丸に機関長として乗り組み、同月の定期整備の際に排気弁の弁棒の全数が新替えされていた主機の運転保守にあたり、通常の航海全速力前進時に主機回転数680、プロペラ翼角19.5度までとしており、翌12年には休漁期間を利用して7月上旬にシリンダヘッドの定期整備を行い、排気弁をすり合わせるなどの措置をとった。
 ところが、主機は、越えて9月15日に北海道小樽港を基地として操業が再開され連日運転が続けられているうち、シリンダヘッド上部に付着していた炭化物などのごみが潤滑油に洗い流されて4番シリンダ右側排気弁の強制潤滑系統の油穴に詰まり始め、弁棒と弁案内の注油量が次第に不足して同排気弁が滑らかに作動しなくなり、これに伴って排気カムがプッシュロッド等を突き上げる際の同カムに作用する力が増加する状況となった。
 しかし、A受審人は、同月下旬に主機の4番シリンダ排気弁の弁すきまが大きくなっていることを認め、排気カム表面の荒れていた箇所を削るなど手入れする措置をとり、また、シリンダヘッド上部を点検した際、潤滑油が動弁装置に平均に行き渡っていないことに気付いたものの、手差しで注油量を補うから大丈夫と思い、操業の合間に基地で同排気弁の強制潤滑系統など整備する措置をとることなく、そのまま運転を繰り返した。
 こうして、日東丸は、A受審人ほか17人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、同年10月1日22時40分小樽港を発して積丹岬北東方沖合の漁場に向け、主機を回転数680にかけプロペラ翼角19.5度として航行中、4番シリンダ右側排気弁の弁棒と弁案内とが注油量の不足により固着して開弁状態の弁傘底面がピストン頂面にたたかれ、同弁棒下部が過大な繰返し曲げ応力の作用で亀裂を生じて疲労破損し、翌2日00時55分積丹出岬灯台から真方位034度20海里の地点において、脱落した弁傘部がピストンとシリンダヘッドとに挟撃され、主機が異音を発した。
 当時、天候は曇で、風力3の北風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、機関室で当直中、異音に気付いて機側操縦ハンドルに急行し、主機を停止した後、4番シリンダの動弁装置の弁押えが外れて排気弁及び吸気弁の各弁棒が曲損していることを認め、運転の継続を断念してその旨を船長に報告した。
 日東丸は、僚船により小樽港に曳航され、主機を精査した結果、脱落した弁傘部の破片による4番シリンダのシリンダヘッド、ピストン及びシリンダライナの各燃焼室面並びに過給機タービン部等の損傷が判明し、各損傷部品が新替えされた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機排気弁の整備が不十分で、同弁の強制潤滑系統の注油量が不足して弁棒が弁案内と固着し、弁傘底面がピストン頂面にたたかれたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転保守にあたり、排気弁の強制潤滑系統の潤滑油が動弁装置に平均に行き渡らない場合、注油量が不足して弁棒が固着するおそれがあったから、操業の合間に基地で同弁の強制潤滑系統など整備する措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、手差しで注油量を補うから大丈夫と思い、排気弁の強制潤滑系統など整備する措置をとらなかった職務上の過失により、注油量の不足による弁棒と弁案内との固着を招き、弁棒を破損させて脱落した弁傘部の破片によりシリンダヘッド、ピストン、シリンダライナ及び過給機等の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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