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平成13年那審第14号
件名

漁船第八正丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成13年9月6日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、清重隆彦)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:第八正丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
機関室内の主機、発電機原動機及び電気配線等焼損

原因
主機潤滑油用遠心こし器の運転状態の点検不十分

主文

 本件火災は、主機潤滑油用遠心こし器の運転状態の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月8日14時35分
 沖縄県北大東島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八正丸
総トン数 19.96トン
登録長 14.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 294キロワット

3 事実の経過
 第八正丸(以下「正丸」という。)は、昭和53年5月に進水したまぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、甲板下には船首方から順に燃料油タンク、魚倉、冷凍機室、機関室、船員室、賄室、魚倉などが配置され、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6LAAK−DT型と称するディーゼル機関を備えていた。
 機関室内には、両舷側に沿って燃料油タンク、中央に主機、右舷船首方に主機駆動の発電機、海水ポンプなど、左舷船首方にディーゼル機関駆動の発電機、右舷船尾方に潤滑油タンク、燃料油常用タンクなど、左舷船尾方に燃料油移送ポンプなどがそれぞれ配置されていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室下部の油だめに入れられた潤滑油が主機直結の歯車式潤滑油ポンプで吸引加圧され、同油こし器及び同油冷却器を経たのち潤滑油主管に至り、同主管からクランク軸、カム軸、弁腕軸、調時歯車装置、過給機、ピストン冷却噴油ノズルなどの系統にそれぞれ分岐して各部の潤滑及び冷却を行い、いずれも油だめに戻って循環するようになっており、同系統の潤滑油主管には同油圧力検知器が付設され、同油圧力が設定値より下がった場合、警報を発するようになっていた。
 潤滑油系統は、セミドライサンプ方式が採用され、潤滑油冷却器出口から分岐した一部の潤滑油が容量150リットルの補助タンクに送られ、静置沈殿された上澄みが油だめに戻って循環するようになっているとともに、潤滑油ポンプ出口から分岐した一部の潤滑油が遠心こし器を経て、同油中の固形粒子を沈殿分離したのち油だめに戻って循環するようになっていた。
 また、遠心こし器は、主機右舷側上部の排気集合管の中央部に取り付けられた過給機出口排気管の表面から船尾方に約135ミリメートル(以下「ミリ」という。)離れた、機関室右舷側通路から容易に見え、取り外し易い場所に取り付けられていた。
 遠心こし器は、東京濾器株式会社が製造したGF−1型と称するこし器で、直径154ミリ、高さ200ミリの円筒形で、直径1.8ミリの潤滑油噴出孔2個、こし網の役目をする仕切り板仕組などが取り付けられたアルミニウム合金製で直径約125ミリ、高さ約110ミリの回転容器、回転軸、同こし器下部ケーシング、同こし器カバー、一定の油圧に達するまで潤滑油の流れを止めるカットオフ弁などで構成され、4キログラム毎平方センチメートルに加圧された潤滑油を回転軸の通油穴を通して回転容器内に導き、仕切り板仕組を経て同容器下部に備えられた2個の噴出孔から同油を噴出させ、その反動で同容器に取り付けられた2個の軸受を介して同容器を高速度で回転させ、その遠心力で同油中の固形粒子を回転容器内壁に沈殿分離させるものであり、500運転時間ごとに開放掃除を行って同容器内壁に付着した同粒子を取り除く必要が
あった。
 回転軸は、長さ145ミリのクロムモリブデン鋼製丸棒の中心に通油穴を設け、両端にねじの呼び径がM8ピッチ1.25ミリで長さ30ミリの、及び同呼び径M12ピッチ1.75ミリで長さ20ミリのねじがそれぞれ切られ、上部軸受部の外径が10ミリで下部軸受部の外径が15ミリとなっており、工場出荷時に遠心こし器下部ケーシングに設けられたねじ穴に専用工具でねじ込まれていた。
 ところで、正丸の遠心こし器は、A受審人が平成12年6月上旬定期整備の目的で同こし器を開放して掃除を行ったのち通常通り復旧されていたものの、度重なる定期整備でキャップナットや回転容器の止めナットを緩める際、同こし器のねじが全て右ねじであったことから、回転軸がつれ回りするかして同軸と同こし器下部ケーシングとのねじ込み部が緩み、機関振動などで同軸の緩みが進行した場合、同軸の上昇にともない、同止めナットが同こし器カバーに当たって同こし器カバーと同こし器下部ケーシングとの接合面が離れるおそれのある状況となっていた。
 A受審人は、同8年10月から正丸の機関長として機関の運転及び保守管理に当たり、片道6日かかる漁場への往復の航海中、7ないし8時間ごとに燃料油を同油常用タンクに移送する目的で機関室に赴き、燃料油移送ポンプを手動で始動し、同タンクが適量となるまでの約10分間機関室内を巡検して主機潤滑油量、油水の漏洩の有無などの点検を行ったのち同ポンプを停止していた。また、3ないし4日の操業中、1日に2回、投縄及び揚縄が終了したときに機関室に赴き、航海中と同様に燃料油の移送作業及び機関室内の巡検を行い、年間6,000時間ほど主機を運転していた。
 こうして、正丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、同年7月20日12時00分沖縄県糸満漁港を発し、同月23日05時00分フィリピン島東方沖合の漁場に至って操業を繰り返したのち翌月6日00時00分操業を切り上げて宮崎県油津漁港に向け帰途に就いた。
 A受審人は、8月8日12時35分機関室に赴き、遠心こし器の取付け場所に近い同室右舷側燃料油タンクの取出し弁を開弁し、燃料油常用タンクへの移送作業を開始して同室内の巡検を行ったものの、同こし器の回転軸が緩むことはあるまいと思い、同こし器の運転状態の点検を十分に行うことなく、同こし器のキャップナットが同こし器カバーから離れていることや同こし器カバーと同こし器下部ケーシングとの間に隙間が生じ、回転容器の噴出孔から噴出した潤滑油が隙間から外部に少量漏洩していることに気付かないまま、移送作業及び巡検を終えて船員室に戻った。
 正丸は、機関室を無人としたまま主機を運転中、ねじ部が緩んでいた遠心こし器の回転軸が完全に抜け出して回転容器などが同室内に転落し、同こし器下部ケーシングの給油穴から潤滑油が外部に噴出し続け、潤滑油ポンプの吐出量に余裕があったかして潤滑油圧力低下警報を発しないまま、同油が過給機出口排気管などの高温部に触れて発火し、14時35分北緯26度47分東経131度26分の地点において、機関室が火災となった。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、船員室で休憩中、操舵室と機関室との出入口の隙間から煙と炎が噴出して来たことに気付いた航海当直中の船長から連絡を受け、船員室と機関室との出入口を少し開けて炎を認めたことから、4本の持運び式消火器を噴射状態として機関室内に投げ込んだのち同室を密閉した。
 火災は、機関室内が酸素欠乏状態になり、主機が自停して潤滑油の噴出が止まり、可燃物がなくなったことから同時45分鎮火した。
 正丸は、電気配線の焼損などにより自力航行不能と判断されたことから救援を求め、来援した引船に曳航されて宮崎県油津漁港に引き付けられた。
 火災の結果、機関室内の主機、発電機原動機、電気配線、冷凍機、定周波装置などが焼損したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件火災は、機関室内を巡検する際、主機潤滑油用遠心こし器の運転状態の点検が不十分で、ねじ部が緩んでいた同こし器の回転軸が完全に抜け出して回転容器などが同室内に転落し、同こし器下部ケーシングの給油穴から潤滑油が外部に噴出し続け、同油が過給機出口排気管などの高温部に触れて発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、機関室内を巡検する場合、主機潤滑油用遠心こし器の回転軸のねじ部が緩み、同軸が完全に抜け出して回転容器などが同室内に転落すると、同こし器下部ケーシングの給油穴から潤滑油が外部に噴出し続け、同油が過給機出口排気管などの高温部に触れて発火するおそれがあったから、同こし器のキャップナットの状態、漏油の有無など、同こし器の運転状態の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同こし器の回転軸が緩むことはあるまいと思い、同こし器の運転状態の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同こし器の同室内への転落による潤滑油の噴出を生じさせ、同油が過給機出口排気管などの高温部に触れて発火したことによる機関室火災を招き、主機、発電機原動機、電気配線などを焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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