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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 火災事件一覧 >  事件





平成13年函審第27号
件名

漁船第五十八八幡丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成13年9月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、織戸孝治)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第五十八八幡丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船員室のほか集魚灯、いか釣り機等が焼損、消火活動の際に機関室の主機、各発電機等が濡損、のち廃船

原因
通電状態の点検不十分

主文

 本件火災は、電子レンジ用電源コンセントの通電状態の点検が不十分で、同コンセントが漏電による短絡を生じて発火し燃え上がったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月18日11時35分
 北海道岩内港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八八幡丸
総トン数 14.97トン
登録長 14.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 73キロワット

3 事実の経過
 第五十八八幡丸(以下「八幡丸」という。)は、昭和55年8月に進水した、いか一本釣り漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、上甲板中央部に操舵室、同室後方に船員室、上甲板下部に魚倉、機関室が配置され、左右両舷側に集魚灯、いか釣り機が装備されていた。船員室は、長さ3.3メートル、幅1.9メートル、高さ1.2メートルで、左右両舷側壁及び後壁に出入口扉があり、各壁及び天井に合板が内張りされ、左舷側壁前部に分電盤が取り付けられ、左舷側の前方から後方にかけてテレビジョン、ガスレンジ、流し台、右舷側壁後部寄りの棚に電子レンジがそれぞれ置かれていた。また、機関室には、主機、同機ベルト駆動の船内電源用交流発電機、集魚灯用交流発電機や充電用直流発電機等が装備されていた。
 A受審人は、平成7年12月八幡丸に船長として乗り組み、毎年1月に船体等の整備後、対馬沖から北海道にかけての日本海で魚群を追って漁場を移動しながら操業を行い、同12年には2月に操業を開始し、越えて6月中旬から北海道松前港に寄せて津軽海峡の漁場で操業を続けており、同月29日まで操業の合間に食事の際には、副食物を加熱するため、船員室の電子レンジを使用していた。
 ところで、船員室の電子レンジは、同11年1月にA受審人が家庭用の中古を搬入したもので、同室後壁から右舷側壁面の前方に20センチメートル隔て床上高さ1メートルに位置する電源コンセントにコードのプラグが差し込まれていた。同コンセントは、電子レンジ用として同人が取り付け、分電盤の交流100ボルト配線用遮断器から導かれたキャブタイヤケーブルが刃受端子に接続されており、当初から刃受にプラグの刃が差し込まれたままであったが、通電の際に刃受差込み部が接触抵抗により発熱して両刃受間の合成樹脂製絶縁体が次第に炭化する状況となり、また、船員室後壁の出入口扉が開放されていたことから、外気の影響を受けて同絶縁体の表面が吸湿し、絶縁抵抗が低下していた。
 しかし、A受審人は、電子レンジを使用する際、プラグが差し込まれていた電源コンセントに手が容易に届くものの、まさか大事に至ることはあるまいと思い、適宜同コンセントの外側やプラグに触手するなどして通電状態を点検しなかったので、刃受差込み部が発熱する状況に気付かず、絶縁体が炭化する状況のまま放置した。
 八幡丸は、同12年7月1日岩内港に入港し、同港沖合の漁場で日帰り操業を繰り返しているうち、同月16日操業の際に主機が不具合を生じ、これが修理されることとなって同日帰港後、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、岩内港北突堤灯台から真方位116度390メートルの地点の漁業ふ頭南側岸壁に係留中、外気の影響により電子レンジ用電源コンセントの絶縁抵抗が著しく低下する状態に陥った。
 こうして、八幡丸は、A受審人が1人で乗り組み、同月18日朝同人が整備業者と共に主機の修理工事を行い、11時05分主機を始動して船内電源用交流発電機を駆動したまま試運転中、同時25分借用した修理用工具を返却するために船内を無人にしたところ、電子レンジ用電源コンセントが漏電による両刃受間の短絡を生じて発火し、11時35分前示係留地点において、同コンセントが燃え上がり、周囲の船員室壁が炎上して火災が発生した。
 当時、天候は曇で風がほとんどなく、港内は穏やかであった。
 八幡丸は、A受審人が帰船の途上で発煙を認めたものの初期消火の時機を失し、陸上の火災発見者からの通報により出動した消防車が間もなく到着し、放水による消火活動が行われ、12時12分に鎮火した。
 火災の結果、八幡丸は、船員室のほか集魚灯、いか釣り機等が焼損し、また、消火活動の際に機関室の主機、各発電機等が濡損し、のち廃船とされた。

(原因)
 本件火災は、電子レンジ用電源コンセントの通電状態の点検が不十分で、通電の際に刃受差込み部が発熱して絶縁体が炭化する状況のまま放置され、同コンセントが外気の影響を受け漏電による両刃受間の短絡を生じて発火し燃え上がったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、操業の合間に電子レンジを使用する場合、通電の際に電子レンジ用電源コンセントの刃受差込み部が発熱することがあるから、同部の発熱等の異状が察知できるよう、適宜同コンセントの外側やプラグに触手するなどして通電状態を点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか大事に至ることはあるまいと思い、適宜同コンセントの外側やプラグに触手するなどして通電状態を点検しなかった職務上の過失により、刃受差込み部が発熱する状況に気付かず、絶縁体が炭化する状況のまま放置し、外気の影響を受け漏電による両刃受間の短絡を生じさせて発火する事態を招き、同コンセントが燃え上がって周囲の船員室壁が炎上し、船員室のほか集魚灯、いか釣り機等を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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