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平成12年神審第112号
件名

貨物船第二鈴鹿丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成13年7月17日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、西田克史、小金沢重充)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第二鈴鹿丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
指定海難関係人
B 業種名:配管修理業

損害
鈴鹿丸・・・舵機室内の天井や壁面、温水器本体の一部及び 電気配線等焼損

原因
鈴鹿丸・・・溶接作業時の防火措置不十分
配管修理業者・・・防火措置不十分

主文

 本件火災は、溶接作業時の防火措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 修理業者が、溶接作業を行うに当たり、至近の可燃物を移動させるなど、防火措置を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月2日20時05分
 大阪港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二鈴鹿丸
総トン数 198トン
全長 49.59メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

3 事実の経過
 第二鈴鹿丸(以下「鈴鹿丸」という。)は、平成3年7月に進水し、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの輸送に従事する船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で、船尾上甲板下に舵機室を設けていた。
 舵機室は、船首側に清水ポンプ、浄水器及び船尾上甲板へ通じる階段が、中央部に油圧式舵機が、右舷側に非常用消火ポンプ及び操舵機油圧ポンプユニットが、左舷側に空調機室、温水器及び係船機用油圧ポンプがそれぞれ配置され、両舷及び船尾側外板沿いの床面から約1メートルのところに、予備品等の格納用にすのこ状の木製棚(以下「棚」という。)が取り付けられていた。
 A受審人は、同9年12月から船長として鈴鹿丸に乗り組み、休暇下船を挟んで乗船を繰り返しており、同12年2月26日休暇を終えて本船に乗船した際、乗組員から温水器上部の給湯管に破口が生じたのでゴムチューブを巻いて仮修理している旨を聞き、運航者である株式会社C商会(以下「C商会」という。)に修理の手配を要請し、同商会から、大阪港での揚荷役終了後に、以前2回ほど本船の配管修理を施行したことのあるS工業が修理を行う旨の連絡を受けた。
 ところで、温水器は、居住区の浴室や賄室等に温水を送るため、電熱器を内蔵した外径約70センチメートル(以下「センチ」という。)高さ約1.7メートルの円筒形の本体に、呼び径20ミリメートルの給湯管や給水管が配管されたもので、同本体は、左舷側の棚から約10センチのところに設置されていた。また、同本体至近の棚上には、3、4袋のウエス及び樹脂系の吸着マットの入ったダンボール箱やむき出し状態の吸着マットが置かれていて、それらは温水器の熱で著しく乾燥し、溶接の火の粉が降りかかるなどすると容易に着火する状況となっていた。
 翌3月2日、鈴鹿丸は、大阪港大阪区第4区の岸壁での揚荷役終了後、A受審人ほか2人が乗り組み、温水器用給湯管の取替え工事を行う目的で、船首1.10メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、15時10分同岸壁を発し、16時00分天保山大橋橋梁灯(C2灯)から真方位056度2,400メートルの安治川突堤基部岸壁に船尾付けで係留した。
 B指定海難関係人は、船舶及び陸上の配管修理業を主業務とするS工業の代表者で、自身も30年以上の溶接作業経験を有しており、C商会から依頼された工事の下見のため、自社の溶接工1人を伴って同日18時30分ごろ鈴鹿丸に行き、現場を下見するとともに、A受審人に工事内容を説明するなどの打ち合わせを行い、一旦帰社して必要な準備をしたのち、切断用の電気鋸や縦50センチ横80センチの石綿布等の道具を持ち、19時ごろ再び溶接工と2人で本船に赴いた。
 A受審人は、B指定海難関係人から事前に電気溶接作業を行う旨の説明を受けており、かつ、温水器至近に吸着マット等の可燃物があるのを知っていたのに、S工業による工事が今回で3回目であったからか、修理業者に任せておけば大丈夫と思い、可燃物を離れた場所に移動させて持ち運び式消火器を準備するとともに、工事に乗組員を立ち会わせるなどの防火措置を十分に行うことなく、他の乗組員と共に舵機室を離れ、船橋上部の探照灯の修理作業に取り掛かった。
 一方、B指定海難関係人は、作業を開始するに当たり、温水器本体至近の棚上に吸着マット等の可燃物があるのを認めたが、時間が遅くて工事を急いでいたうえ、電気溶接はガス溶接ほど火の粉が遠くまで飛ばないので大丈夫だろうと思い、可燃物を離れた場所に移動するなどの防火措置を十分に行うことなく、棚上のむき出し状態の吸着マットの一部に石綿布を掛けただけで、溶接工と2人で作業を開始した。
 こうして、鈴鹿丸は、B指定海難関係人と溶接工が、温水器本体上部の破口した給湯管を電気鋸で切断し、持参した管を現場合わせするなどの作業を行ったのち、溶接工が垂直方向となった突合せ部の右舷側半周の溶接を終えたところで、B指定海難関係人が、不要となった道具類を船尾上甲板に片付けに上がり、一方、溶接工が、棚の上に乗り、温水器本体にもたれかかった姿勢で突合せ部の左舷側の溶接を行っていたところ、溶接の火の粉が石綿布からはみ出ていたむき出し状態の吸着マット上に落下し、3月2日20時05分前示の係留地点において、同マットが着火し、煙を発して火災となった。
 当時、天候は晴で風力1の西北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 B指定海難関係人は、船尾上甲板から階段を下りて来るときに火災に気付き、溶接工に持ち運び式消火器を持ってくるように指示するとともに、自らも皮手袋をはめた手で吸着マットを叩いて消火に努めたものの、消火するには至らなかった。
 一方、A受審人は、船橋上部の探照灯の修理作業中に火災警報が作動しているのに気付き、他の乗組員と共に舵機室に急行し、持ち運び式泡消火器及び甲板雑用海水の放水による消火活動に努めたものの、発煙が激しくて舵機室内に入れなくなったことから、船内消火は不可能と判断して大阪市水上消防署に通報し、来援した消防署員と共に消火活動を行い、同日21時59分ごろ鎮火を確認した。
 火災の結果、鈴鹿丸は、舵機室内の天井や壁面、温水器本体の一部及び電気配線等がそれぞれ焼損したほか、係船機用油圧ポンプ駆動電動機、空調機用始動器及びオートパイロット用電磁弁等が濡れ損したが、のちそれぞれ修理された。

(原因)
 本件火災は、舵機室内の温水器用給湯管取替え工事に伴って電気溶接作業を行う際、防火措置が不十分で、溶接の火の粉が至近の吸着マット上に落下し、同マットが着火したことによって発生したものである。
 修理業者が、電気溶接作業を行うに当たり、至近の可燃物を移動させるなど、防火措置を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、舵機室内の温水器用給湯管取替え工事に伴って、修理業者に電気溶接作業を行わせる場合、至近にある吸着マットなどの可燃物を移動させて持ち運び式消火器を準備するとともに、同工事に乗組員を立ち会わせるなど、防火措置を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、修理業者に任せておけば大丈夫と思い、防火措置を十分に行わなかった職務上の過失により、修理業者による溶接の火の粉が吸着マット上に落下して火災を招き、舵機室内の天井や壁面、温水器本体の一部及び電気配線等を焼損させたほか、係船機用油圧ポンプ駆動電動機、空調機用始動器及びオートパイロット用電磁弁等に濡れ損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、電気溶接作業を行うに当たり、至近の可燃物を移動させるなど、防火措置を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件発生以後、火気工事を行う際は自ら持ち運び式消火器を現場に持参するなど、防火対策に配慮している点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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