日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 遭難事件一覧 >  事件





平成12年門審第62号
件名

貨物船スマイリー遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成13年9月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、西村敏和、原 清澄)

理事官
千手末年

指定海難関係人
A 職名:スマイリー船長
B 職名:スマイリー機関長

損害
船底外板に破口、機関室に浸水し、のち解撒

原因
避難水域の選定不適切

主文

 本件遭難は、避難水域の選定が適切でなかったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月24日01時30分
 鹿児島県鹿児島港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船スマイリー
総トン数 1,788.00トン
全長 82.895メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
 スマイリーは、船尾船橋型の冷凍運搬船で、A及びB両指定海難関係人ほかフィリピン人12人が乗り組み、平成11年8月18日フィリピン共和国ゼネラル サントス港から鹿児島県枕崎港に入港し、冷凍かつお約800トンを揚げ終えたところ、会社から次の仕向地が決まるまで待機するよう指示を受け、同月26日11時15分空倉のまま、同港を発航して同県鹿児島港に向かい、同日夕刻同港谷山区北方沖合に錨泊した。
 その後A指定海難関係人は、清水と食料の補給のため谷山区などに着岸したあと、越えて9月19日11時30分ごろから鹿児島港谷山1区北防波堤灯台(以下、灯台の名称に冠する「鹿児島港」を省略する。)から051度(真方位、以下同じ。)1,150メートルで錨泊していたところ、同月22日ファクシミリなどによって入手した情報から、沖縄県宮古島の南方海上で発生したのち、ほとんど停滞していた台風18号が急速に発達し、大型で非常に強い勢力の台風となり、進路を九州西方海上に向けて北上を始め、同台風が最接近したとき、鹿児島湾内では最大風速毎秒約35メートルの南東風が吹くことが予測された。
 A指定海難関係人は、台風が九州西方海上を通過する場合、鹿児島湾内には東寄りの強風が吹き、同湾北西部に位置する谷山区付近では風上側が開いて風浪の影響が大きく、同区付近に留まると走錨や操船不能となるおそれがあったが、大隈半島で東寄りの風浪が遮蔽(へい)される同湾東部の垂水港沖合など、適切な避難水域を選定して直ちに移動せず、プロペラ及び舵が海面下にあることを確認したうえ、陸岸まで距離がとれる谷山2区南防波堤灯台南方沖合で錨泊し、風速が強まって錨泊を継続することが困難となればヒーブツウにより台風をしのぐこととした。
 こうして、A指定海難関係人は、B指定海難関係人にプロペラの空転などについて助言を求めないで台風対策を伝え、同日16時00分燃料タンクなど一部のタンクを一杯にしないまま、船首1.90メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、前示錨地を抜錨し、同時50分谷山2区南防波堤灯台から159度1,500メートルの地点に至り、水深30メートルの海底に右舷錨を投じ、所有する錨鎖8節のうち7節を延出して再び錨泊した。
 翌23日A指定海難関係人は、台風18号が中心気圧930ヘクトパスカルに発達するとともに、進路を次第に東寄りに変えて北上し、21時00分南東風の風速が毎秒約25メートルに強まったころ、走錨していることに気付いたので、錨泊を断念してヒーブツウを行うこととし、22時00分谷山2区南防波堤灯台から178度900メートルの地点まで流されたところで抜錨した。
 抜錨したあと、A指定海難関係人は、二等航海士を見張りに、当直機関士を機関操縦盤に、甲板員を手動操舵にそれぞれ配して自ら操船に当たり、船首を風に立てて針路を南東にとり、適宜機関を全速力前進と半速力前進とに使用してプロペラの空転防止に努め、強風により北方に圧流されながら谷山区東方沖合を進行した。
 B指定海難関係人は、A指定海難関係人の指示を受けて機関室当直に就き、機関員を機側のハンドル前に配し、自らは制御室で機関回転計などの監視に当たった。
 A指定海難関係人は、その後風勢がますます強まり、機関を連続して全速力前進にかけたものの、徐々に風下に圧流され始め、水深が100メートルばかりで投錨することもできないまま、ヒーブツウを続けるうち、翌24日01時30分木材港南防波堤灯台から144度2.1海里の地点において、スマイリーは、風速が毎秒40メートルを超える南東風を左舷前方から受けて船首が南方に落とされ、左舵一杯がとられたが、舵効が得られなくなって保針が困難となり、操船不能に陥った。
 当時、天候は雨で風力12の南東風が吹き、波高は約4.5メートルで、潮候は上げ潮の初期にあたり、暴風波浪警報が発表されていた。
 A指定海難関係人は、船首が南方を向いた状態で北西方に圧流され、陸岸に接近するので乗組員全員を操舵室に集め、01時52分ごろ甲板長に命じて左舷錨を投じ、錨鎖を2節まで延出したが、効なく、02時00分木材港南防波堤灯台から211度1,100メートルの、谷山区北方の護岸に設置された消波ブロックに乗り揚げた。
 その結果、船底外板に破口を生じて機関室に浸水し、のち解撤された。また、乗組員は海上保安庁特殊救難隊によって陸上から全員救助された。

(原因)
 本件遭難は、鹿児島県鹿児島港谷山区北方沖合において錨泊中、大型で非常に強い勢力の台風18号が進路を九州西方海上に向け東シナ海を北上することを知った際、避難水域の選定が不適切で、同区東方沖合でヒーブツウを行っていたとき、風勢が強まって保針が困難となり、操船不能に陥ったことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人は、鹿児島県鹿児島港谷山区北方沖合において錨泊中、大型で非常に強い勢力の台風18号が進路を九州西方海上に向け東シナ海を北上することを知った際、避難水域の選定を適切に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、本件後、気象や錨地などの情報を収集して避難水域の選定を適切に行い、同種事故の再発防止に努めている点に徴し、勧告するまでもない。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION