(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月18日12時10分
北海道知床半島西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船みつ丸 |
総トン数 |
2.01トン |
全長 |
7.40メートル |
幅 |
1.77メートル |
深さ |
0.70メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
3 事実の経過
みつ丸は、船外機付き和船型のFRP製漁船で、船底から約24センチメートルのところに船首尾で一段高くなったウエル状の床があり、操船者が船尾に腰を掛けて船外機を操作するようになっていた。
A受審人は、斜里町ウトロで民宿を経営するかたわら、総トン数14.37トンの第十五太陽丸(以下「太陽丸」という。)を所有して遊漁船業を営んでおり、釣客のます釣りの要望に応じ、知床半島西岸観音岩付近の海岸に瀬渡しすることとなった。同受審人は、これまで知床岬の文吉湾などで豊富な瀬渡しの経験を有し、観音岩付近をしばしば航行していたものの、同海岸への瀬渡しが初めてで、太陽丸の喫水では同海岸への接近が難しいことから、みつ丸を瀬渡しに使用することとして同船を太陽丸で曳航し、観音岩付近の沖で釣客をみつ丸に移乗させ海岸に渡すようにした。
ところで、観音岩付近の海岸は、北東から南西方向に延びる砂利の浜で、海岸から沖合にかけて大小様々な岩塊が点在し、波打ち際から2ないし3メートル沖で急に水深が深くなり、次いで一様に傾斜して約20メートル離れたところの水深が約5メートルとなっていた。
当時、知床半島西岸海域は、西から張り出した高気圧に覆われ始めて穏やかであったものの、やや強い西寄りの風が吹いた後であり、観音岩南西方海域の海岸部には、弱い西寄りのうねりが残っていた。
A受審人は、平成11年9月18日朝、宇登呂漁港で海上模様を見たとき、付近海岸一帯の磯波が高かったので出航を見合わせていたところ、帰航した知合いの漁船員から観音岩付近の海上は穏やかであるとの情報を得て、太陽丸に1人で乗り組み、釣客5人を乗せ、みつ丸を船尾に引き、同日10時00分同漁港を発し、観音岩付近の海岸に向かった。
11時50分A受審人は、観音岩南西方海域に到着し、知床岬灯台から225度(真方位、以下同じ。)9,250メートルの地点に設置されていたます定置網のボンデンに太陽丸を係留し、瀬渡しを望まない釣客1人を同船に残し、他の4人をみつ丸に移乗させ、船首0.20メートル船尾0.25メートルの喫水をもって、12時00分太陽丸を発進した。
A受審人は、みつ丸の同型船を何度も操船した経験があり、釣客を船体中央から船首にかけて座らせ、自らは船尾右舷側に腰を掛けて船外機の操作に当たり、発進後、針路を100度としたうえ船外機のスロットルを約8分目に回し、7.0ノットの対地速力で海岸に向け進行した。
その後、A受審人は、海岸に近づくにつれ徐々に減速し、12時06分海岸の波打ち際から30メートル手前に接近したとき、いったん停船して波打ち際に磯波が打ち上げているのを認めたものの、この程度の波高であれば接岸できると思い、磯波の発生状況を十分に監視しなかったので、高まった磯波が時折発生している状況に気付かず、接岸を取り止めなかった。
12時08分A受審人は、再び船外機のスロットルを前進にかけ、引き続き針路を100度として前進し、波打ち際から10メートル手前で停船して船外機の調子を確かめた後、同機のスロットルを少し回して極微速力前進とし、2.0ノットの対地速力で海岸に接近をはかった。
間もなく、みつ丸は、約1.5メートルに高まった磯波を船尾方から受けて船首が一気に海岸に打ち上がり、続いて押し寄せた磯波が船尾方から船内に打ち込み、12時10分知床岬灯台から220度8,900メートルの地点において、水船状態となり航行不能となった。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、付近には磯波が立っており、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、釣客全員を上陸させたのち自身も浜に上がり、みつ丸を浜に引き揚げ、船首を沖に向けて船固めし、磯波が収まるのを待っていたところ、太陽丸にとどまっていた釣客がみつ丸が戻らないことを同業船に連絡し、同船及び救助に出動した巡視船の救助艇により全員が救出された。
その結果、みつ丸は、現場に放置されているうち、荒天により大破して全損となった。
(原因)
本件遭難は、北海道知床半島西岸の観音岩南西方海岸に瀬渡しする際、磯波の発生状況の監視が不十分で、接岸が取り止められず、波打ち際付近で高まった磯波を受けて海岸に打ち上げられ、水船状態となり航行不能となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、観音岩南西方海岸に瀬渡しのため、みつ丸に釣客を乗せ海岸に接近し、停船して波打ち際に磯波が打ち上げているのを認めた場合、接岸できるかどうかを判断できるよう、磯波の発生状況を十分に監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、この程度の波高であれば接岸できると思い、磯波の発生状況を十分に監視しなかった職務上の過失により、接岸を取り止めず、波打ち際に近づいたとき高まった磯波を船尾方から受けて海岸に打ち上げられ磯波が船内に打ち込み、水船状態を招き、航行不能となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。