(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年11月20日13時36分
沖縄県渡久地港港外
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船ニューウイングみんな |
総トン数 |
65トン |
全長 |
26.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,618キロワット |
3 事実の経過
ニューウイングみんなは、沖縄県渡久地港と同県水納港間の定期航路において運航される、2基2軸を備えた軽合金製旅客船で、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客3人を乗せ、船首1.1メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成12年11月20日13時30分渡久地港を発し、水納港へ向かった。
ところで、A受審人は、平成2年から前示定期航路旅客船の船長職を執っており、渡久地港と水納港間の浅礁域内の水路両側要所に設置された灯浮標の位置も、渡久地港第1号灯浮標(以下、灯浮標については「渡久地港」の冠称を省略する。)と第5号灯浮標を結ぶ線の北側には、ヌハン瀬から水路近くまで浅礁が拡延していることも十分承知していた。
また、船橋内左舷側前部に設置されたGPSプロッターには、灯浮標の位置、基準航路、ヌハン瀬及びその他の瀬が入力されており、GPSによる船位には誤差がなく、船位の確認は同プロッターによって容易に行うことができた。
A受審人は、自ら操舵操船にあたり、機関長及び一等機関士を見張りにつけ、水路両側の灯浮標を視認しながら進行し、13時34分少し前、渡久地港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から292度(真方位、以下同じ。)730メートルの地点に達したとき、針路を246度に定め、機関を全速力前進にかけ、26.5ノットの対地速力で続航した。
13時34分少し過ぎA受審人は、第8号灯浮標付近に差し掛かったとき、発航したころから降り出していた雨が強まり、視程が約600メートルに狭められたので、機関を回転数毎分1,500に減じ16.0ノットの対地速力とし、第5号灯浮標を船首少し右に見て進行した。
13時35分わずか過ぎA受審人は、北防波堤灯台から267度1,490メートルの地点で、第5号灯浮標を右舷側至近に航過し、針路を第1号灯浮標に向く295度に転じたところ、その直後視程がさらに狭められ、転針したとき見えていた第1号灯浮標が見えなくなったものの、機関を回転数毎分1,400に減じて15.0ノットの対地速力としただけで、すぐに同灯浮標が船首方向に見えてくるものと思い、GPSプロッターを活用して船位の確認を行わなかった。
ニューウイングみんなは、折からの南西風により4度右方に圧流されて続航中、13時36分北防波堤灯台から273度1,850メートルの地点において、ヌハン瀬から拡延している浅礁に、同じ針路及び速力のまま乗り揚げ、これを擦過した。
当時、天候は雨で風力5の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視程は約200メートルであった。
乗揚の結果、左舷推進器翼に折損を、右舷推進器翼に曲損をそれぞれ生じたが、自力で渡久地港に引き返し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、渡久地港西方の浅礁域内の水路を水納港へ向け西行中、雨のため視界が狭められ、船首目標としていた第1号灯浮標を視認できなくなった際、GPSプロッターによる船位の確認が不十分で、浅礁に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、渡久地港西方の浅礁域内の水路を水納港へ向け西行中、雨のため視界が狭められ、船首目標としていた第1号灯浮標を視認できなくなった場合、GPSプロッターには、灯浮標の位置、基準航路、ヌハン瀬及びその他の瀬が入力されていたのであるから、同プロッターを活用して船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、すぐに第1号灯浮標を視認できるものと思い、同プロッターを活用して船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、折からの南西風によって圧流されていることに気付かず、ヌハン瀬から水路近くまで拡延している浅礁に向け進行して乗揚を招き、左舷推進器翼を折損させ、右舷推進器翼を曲損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。