(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年1月1日06時13分
宮崎県目井津漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船あけぼの3 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
15.81メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
426キロワット |
3 事実の経過
あけぼの3は、航行区域を限定沿海区域とし、宮崎県目井津漁港と同県大島間に就航する、二基二軸のFRP製定期旅客船で、同漁港からの第1便を07時00分に、また、最終便を17時00分に設定して運航されていたところ、臨時に宮崎県南那珂郡南郷町の観光協会が主催する「大島で初日を見よう会2000」に参加した旅客を乗船させることとなり、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客48人を乗せ、船首尾とも0.60メートルの喫水をもって、平成12年1月1日06時10分同漁港を発し、目井津港新南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から107度(真方位、以下同じ。)1.1海里ばかりの、大島西岸の小浜に向かった。
ところで、目井津漁港は、港域を拡大し、旧防波堤出入口の東方沖合に新たに3本の新防波堤が築造され、これらの防波堤の先端にはそれぞれ1基の灯台が設置されていたものの、旧防波堤出入口を形成する北防波堤及び南防波堤の先端に設けられていた灯台がいずれもすでに撤去されており、かつ、両防波堤間の可航幅が約80メートルと狭く、月明かりのない夜間に航行するにあたっては、特にレーダーの活用が求められるところであった。
また、A受審人は、1箇月に10日間船長職を執って約3年間あけぼの3の運航に従事していたものの、夜間航行の経験がなく、発航する際、客室と操舵室間のカーテンを閉めて客室からの明かりを遮り、操舵室内の計器類のディマーを絞って室内を暗くするなど、夜間航行を行う際の事前準備を十分に行わず、操舵室後部の右半分のカーテンを閉めただけであった。
こうして、A受審人は、操舵室右舷側の、舵輪の後方に備えたいすに腰を掛け、岸壁に船首付けしたあけぼの3の係留索を放したのち、機関を微速力後進にかけて50メートルばかり船体を岸壁から離し、06時11分少し前南防波堤灯台から280度570メートルの地点に至って、針路を対岸の漁業協同組合前の岸壁に係留中の漁船の灯火に向く145度に定め、機関を微速力前進にかけて5.0ノットの対地速力とし、手動操舵により進行した。
06時12分少し前A受審人は、南防波堤灯台から265.5度470メートルの地点に達したとき、平素、この時点で針路を港口に向く080度としていたものの、まだ夜明け前で暗かったうえ、低潮時には南防波堤灯台下付近に浅瀬を生じ、底触するおそれがあったので、同海面付近を十分に離す針路を採って航過することにし、左舵10度を取り、針路を060度に転じて続航した。
06時12分A受審人は、針路を転じたことから前路に陸上の灯火を認めなくなり、そのうえ、客室からの明かりが操舵室内に差し込み、前部のガラス窓に反射して前路の見通しが効かないこともあって気が動転し、船首目標としていた南防波堤灯台を確認することも失念したため、自船の船位が分からなくなったが、いつも航行しているところなので、同灯台が見えなくても何とかなるものと思い、直ちに機関を後進にかけて行きあしを停止し、レーダーを活用するなどして船位を確認することなく、針路が北防波堤の先端に向いていることに気付かないまま進行した。
その後、A受審人は、前路の状況が把握できないことに不安を覚えたので、操舵室の左舷側に備えたいすに腰を掛けて台帳に乗客数を記入している甲板員に対し、船首甲板に出て前路の見張りを行うよう指示しただけで、原速力を保って続航した。
指示を受けた甲板員は、操舵室中央部に設けたガラス窓を押し上げ、前路を見たところ至近に迫った北防波堤に気付き、A受審人に対して右舵を取るよう大声で合図し、同人が右舵一杯を取ったが、及ばず、06時13分あけぼの3は、南防波堤灯台から280度320メートルの地点において、その船首が133度を向いたとき、左舷船尾部が北防波堤護岸基礎石に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良く、日出は06時59分で、月齢は24日であった。
乗揚の結果、左舷推進器翼、同推進器軸及び左舵板に曲損などを生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、宮崎県目井津漁港から同港東方沖合の大島に向けて航行中、船位の確認が不十分で、同港内の北防波堤に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、宮崎県目井津漁港から同港東方沖合の大島に向けて航行する際、夜間航行に備えて操舵室を暗くせず、前路の見通しを妨げる状況としたまま、大幅な左回頭をして船首目標とした目井津港新南防波堤灯台を見失い、船位が分からなくなった場合、速やかに機関を後進にかけて行きあしを止め、作動中のレーダーを活用するなどして船位を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同港内での夜間航行が初めてであったものの、いつも航行しているところなので、同灯台が見えなくても何とかなるものと思い、船位を確認しなかった職務上の過失により、北防波堤に向首進行して同防波堤護岸基礎石への乗揚を招き、左舷推進器翼などに曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。