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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年広審第81号
件名

引船第三十五明神丸引船列乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年9月11日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(伊東由人、坂爪 靖、西林 眞)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:第三十五明神丸船長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
船底の船首から中央部にかけて凹損を伴う擦過傷

原因
水路調査不十分

主文

 本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月19日09時15分
 瀬戸内海 山口県大畠瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 引船第三十五明神丸 バージ明宝602
総トン数 178トン 620トン
全長 33.90メートル  
登録長   38.50メートル
  12.00メートル
深さ   3.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,213キロワット  

3 事実の経過
 第三十五明神丸は、鋼製引船で、A受審人ほか3人が乗り組み、船首尾とも0.7メートルの喫水で無人空倉の底開式土運バージ明宝602を曳索で引き、船首2.2メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成11年8月18日23時10分関門港を発し、山口県大畠瀬戸経由で同県岩国港に向かった。
 ところで、大畠瀬戸には、海上交通安全法第25条第1項に基づく指定経路があって、西側の入り口には北方位標識の戒善寺礁灯浮標が設置されていて、東行船は同灯浮標の北方を航過して同指定経路に入航することになっており、また、同灯浮標とその南東方330メートルにある大磯灯台の間は暗岩及び干出岩の散在する浅礁域が存在していた。
 ところが、A受審人は、大畠瀬戸の航行経験が6年ほど前に2度程度で水路状況をあまり知っておらず、そのうえ同瀬戸付近の大縮尺の海図を備えていなかったものの、同瀬戸の航路標識を見て航行すれば良いと思い、関門港を発航するにあたり、大縮尺の海図第152号(大畠瀬戸)を購入するなどして同瀬戸付近の水路調査を十分に行わなかった。
 こうして、04時30分A受審人は、祝島西方12海里付近で昇橋して、一等航海士から単独の船橋当直を引継ぎ、機関を全速力前進にかけて7.0ノットの速力で自動操舵によって平郡水道を東行し、07時45分下荷内島南西方2海里の地点で操舵を手動に切り替えて針路を北に転じ、その後大畠瀬戸通過に備えそれまで200メートル延出していた曳索を25メートルに短縮して全長135メートルの引船列として北上し、08時40分大畠航路第2号灯浮標南西方で機関を半速力前進として6.0ノットの速力で続航した。
 08時58分A受審人は、大磯灯台から254度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点で、大畠航路第3号灯浮標を左舷正横に見て、針路を戒善寺礁灯浮標の北方に向く065度に定めたとき、同灯浮標周辺で操業中の漁船群を認め、折から0.5ノットの潮流に抗して5.5ノットの対地速力で手動により操舵して進行した。
 その後、A受審人は、水路調査を行っていなかったので戒善寺礁灯浮標を航路の中央であることを示す安全水域標識と思い込み、漁船群を監視しながら続航中、漁船群を避けるため同灯浮標と大磯灯台の中央付近に針路を転じることにして、09時09分大磯灯台から272度1,000メートルの地点から、小刻みに右舵をとって090度の針路としたところ、浅礁域に向首する状況になったものの、このことに気付かず、1.0ノットとなった潮流に抗し5.0ノットの対地速力で進行し、同灯浮標を航過したのち左転して大島大橋橋梁灯(C1灯)に向首したとき、09時15分大磯灯台から321度140メートルの浅礁に船首が066度を向いて、原速力で乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮侯は上げ潮の初期で、潮高は133センチメートルであった。
 乗揚の結果、船底の船首から中央部にかけて凹損を伴う擦過傷を生じた。

(原因)
 本件乗揚は、山口県大畠瀬戸を経由して同県岩国港に向かう際、水路調査が不十分で、同瀬戸の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、大畠瀬戸を経由して岩国港に向かう場合、6年ほど前に2度ばかり同瀬戸を航行した程度でその水路状況をあまり知らず、そのうえ備え付けの海図は小縮尺であったから、発航前に大縮尺の海図を購入するなどして同瀬戸付近の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航路標識を見て航行すれば良いと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同瀬戸の浅礁に向首進行して乗揚を招き、船首部船底などに凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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