(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月30日04時00分
沖縄県兼城港沖
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船寿美丸 |
総トン数 |
6.6トン |
登録長 |
11.08メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
121キロワット |
3 事実の経過
寿美丸は、延縄漁等に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年12月28日07時30分沖縄県糸満漁港を発し、同県久米島南方沖合の漁場に至って操業を続けていたところ、翌29日海上風警報が発表されたので避難することとし、同日18時30分同漁場を発して兼城港に向かった。
ところで、A受審人は、海図第244号や第238号を備え付けていなかったものの、兼城港への入港経験が数回あり、同港入口付近のさんご礁や兼城港第1号灯標(以下、灯標については「兼城港」の冠称を省略する。)、第2号灯標及び第3号灯標の設置状況等を知っていた。
A受審人は、発進後、船橋当直を甲板員に任せて休息をとり、21時00分久米島の南方36海里ばかりの地点で、同当直を引き継ぎ、針路を012度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、折からの東風を受けて左方に10度圧流されたまま、機関を半速力前進に掛け、4.6ノットの対地速力で進行した。
そして、A受審人は、翌30日03時54分半右舷前方に第2号灯標及び第3号灯標の灯火をほぼ同じ方向に視認し、港口に向けるため手動操舵に切り替え、第1号灯標の灯火に向けて針路を015度としたが、灯標の灯火を見付けて安心し、その後、見張りを厳重に行い、それぞれの灯標を連続監視するなどして船位の確認を十分に行うことなく、操舵室の右舷外側に来た甲板員と雑談を始め、左方に10度圧流されたまま北上を続けた。
A受審人は、兼城港入口の中央付近に達したことに気付かず、転針しないまま同じ針路及び速力で続航し、04時00分少し前操舵室の右舷外側にいた甲板員から海底が見えるので浅い旨の報告を受け、機関を中立にしたものの、その後右転すれば大丈夫と思い、機関を極微速力前進に掛け、右舵一杯とした。
寿美丸は、右回頭中、04時00分第1号灯標から286度140メートルのさんご礁に、045度を向首して3.3ノットの速力で乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力5の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船底に破口を生じ、乗組員は全員消防署の舟艇に無事救助され、船体は台船に収容されて糸満漁港に移送され、のち廃船処分された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、兼城港沖において、同港に入航する際、船位の確認が不十分で、同港入口の北側のさんご礁に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、兼城港沖において、同港に入航する場合、灯標で示されたさんご礁の間の水路を通過しなければならないのであるから、見張りを厳重に行い、航路標識を連続監視するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、灯標の灯火を見付けて安心し、甲板員と雑談を始め、その後、見張りを厳重に行い、それぞれの灯標を連続監視するなどして船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同港入口の北側のさんご礁に著しく接近して乗揚を招き、船底に破口を生じさせ、のち廃船となるに至らしめた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。